相続手続を始めるにあたり、すべての手続が終わるまでにどのくらいの期間がかかるのか、見通しを立てておきたい方も多いでしょう。仕事や家事と並行して進めるのであれば、何に時間がかかり、いつ頃までに終えられるのかを知っておくことが大切です。
相続人や財産が明確で、遺産分割の話合いも円滑にまとまれば、数週間から数か月で主な承継手続が完了することもあります。一方、相続人の調査や財産の把握に時間を要したり、遺産分割の合意が得られなかったりすると、半年以上、場合によっては数年に及びます。
相続手続の期間を左右するのは、手続の数だけではありません。次の手続を始めるための条件がいつ整うかによって、全体の完了時期が変わります。 また、相続放棄や相続税申告など、相続全体の完了を待たずに期限を迎える手続にも注意が必要です。
この記事では、相続手続きにかかる期間の目安と長引く原因を説明し、自分の相続がいつ頃完了するのかを見積もる方法を解説します。
相続手続は完了までにどのくらいの期間がかかる?
相続手続き、大きく 「調査」 「取得者の決定」 「財産承継」 の3つの段階に分けられます。
最初に被相続人の戸籍などを集めて相続人を確定し、それと並行して、預貯金、不動産、有価証券などの財産や、借入金・未払金などの債務を調べます。遺言書が見つかっている場合は、その内容も確認しておきます。
相続人と財産の状況が明らかになったら、遺言書で承継先が決まっていない財産について、必要に応じて遺産分割協議を行います。取得者が決まった財産は、その内容に沿って相続登記や預貯金の払戻しなどの手続を行います。
こうした一連の手続にかかる期間は、相続人や財産の状況によって異なります。
| 相続の状況 | 完了までの期間の目安 |
|---|---|
| 相続人と財産が明確で、遺産分割に争いがない | 数週間~3か月程度 |
| 複数の金融機関や不動産があり、調査・書類収集が必要 | 数か月~半年程度 |
| 相続税の申告や複雑な財産評価が必要 | 半年程度から10か月前後を見込む場合がある |
| 遺産分割の話合いがまとまらず、調停・審判に進む | 1年以上、場合によっては数年に及ぶ |
これらは法律で定められた標準期間ではなく、相続の状況に応じた大まかな目安です。相続税の10か月という申告期限も、すべての相続手続を10か月以内に終えなければならないという意味ではありません。
例えば、相続人の間で財産の分け方が決まっていても、複数の金融機関で預貯金の払戻しを行う場合は、それぞれの審査が終わるまで時間を要します。反対に、財産が複数あっても、必要書類を共通して利用でき、各手続を並行して進められれば、全体の期間を短縮できます。
完了時期を見積もる際は、調査から財産承継までの各段階について、どこに時間がかかり、どの作業を並行できるかを把握することが重要です。
※相続手続の全体像や制度概要については、以下の記事で解説しています。
遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか
相続人・財産の調査と遺産分割にかかる期間
財産の名義変更や払戻しなどの準備には、相続人の確定、財産・債務の調査、必要に応じた遺産分割協議があります。ただし、すべての財産について調査や協議を終えなければ、個々の財産の承継手続を始められないわけではありません。
相続人の調査と財産調査は並行でき、取得者が決まった財産から手続を行うことも可能です。一方、相続人の確定が難航したり、財産の所在が分からなかったり、分け方について合意が得られなかったりすると、関係する手続の開始が遅れます。
相続人の調査は戸籍をどこまで集めるかで期間が変わる
相続人を確定するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどり、法律上誰が相続人になるのかを調べます。
さらに、相続人についても戸籍を取得し、現在の相続関係まで確認します。
配偶者と子が相続人になる場合は、比較的少ない戸籍で関係を確認できることもありますが、子が先に亡くなって孫が代襲相続する場合や、兄弟姉妹・甥姪が相続人になる場合は、調査する親族の範囲が広がります。
戸籍を集める際は、取得した記録から以前の本籍地や親族関係を読み取り、次に請求すべき戸籍を特定していきます。最初の請求ですべてが揃うとは限らず、記載内容に応じて追加の請求を繰り返すため、調査範囲が広いほど収集に時間を要します。
なお、2024年3月から戸籍証明書等の広域交付制度が始まり、本人や配偶者、直系尊属・直系卑属の戸籍は、本籍地以外の市区町村窓口でもまとめて請求できるようになりました。ただし、対象外の戸籍や代理人による取得などについては、従来の請求方法を利用します。
相続人に漏れがあると遺産分割をやり直す原因になるため、相続人全員の合意が必要な協議では、戸籍をたどって相続関係を正確に確定しておかなければなりません。相続人調査に要する期間は、収集する戸籍の数だけでなく、確認すべき親族関係の広がりによっても変わります。
※相続人調査については、以下の記事で詳しく解説しています。
相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか
財産調査は財産の所在と資料の有無によって期間が変わる
相続人の調査と並行して、被相続人が残した預貯金、不動産、有価証券などの財産と、借入金や未払金などの債務を調べます。生命保険などについても契約内容を確認し、相続手続の対象となる財産とそれ以外のものを区分します。
通帳や不動産関係書類、証券会社からの郵便物などが残っていれば、それらを手掛かりに財産の所在を調べられます。資料が見つからない場合は、郵便物や取引履歴などをたどり、利用していた金融機関や保有財産を特定するところから始めます。
金融機関から残高証明書や取引履歴を取得するには、それぞれの金融機関への請求が必要です。不動産についても、所有している物件を特定したうえで、登記事項や評価額などを調べます。
例えば、預貯金口座が一つだけで通帳も残っていれば、金融機関への資料請求を比較的進めやすいでしょう。一方、複数の銀行に口座があり、利用していた金融機関も分からない場合には、照会先を探す作業から始めるため、その分だけ調査期間が延びます。
財産と債務の内容が明らかになれば、遺産分割の対象を把握できるほか、借入金などの状況を踏まえて相続放棄を検討する際にも、その調査結果を利用できます。
したがって、財産調査にかかる期間は、すでに判明している財産の数に加え、所在が分からない財産や債務を探すための追加調査がどの程度必要かを踏まえて見積もります。
※相続財産や財産調査については、以下の記事で詳しく解説しています。
相続財産とは?|何が相続財産になるのか、借金も含まれるのか
財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために
遺産分割協議にかかる期間は相続人間の話合いで大きく変わる
相続人と協議の対象となる財産が分かったら、遺産分割協議が必要な財産について、誰が取得するのかを決めます。
相続人全員の意向がまとまっていれば、具体的な分割内容を定めて遺産分割協議書を作成し、登記や払戻しの手続に利用できます。しかし、相続人が遠方に住んでいる場合は連絡や書類のやり取りに時間を要し、不動産の取得者や預貯金の分け方について意見が一致しなければ、合意が得られるまで協議を続けることになります。
話合いで合意できない場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることになり、調停では期日を重ねながら合意を目指します。それでもまとまらなければ、審判へ移行します。
遺産分割協議には一律の法定期限がないため、話合いが長引くほど、協議によって取得者を決める財産の承継手続も遅れます。 調停や審判に進めば解決まで1年以上を要することもあり、相続全体の完了時期を大きく左右します。
もっとも、遺言書によって財産の取得者が指定されている場合や、相続人が一人の場合などは、遺産分割協議を必要としないことがあります。自分の相続で協議が必要な財産を見極めることで、この段階にどの程度の時間を見込むべきかが分かります。
※遺産分割協議については、以下の記事で解説しています。
遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか
財産の名義変更・払戻しにかかる期間
財産の取得者が決まった後は、不動産の相続登記や預貯金の払戻しが中心となります。この段階では、必要書類を揃えるまでの時間に加え、法務局や金融機関が申請内容を審査する期間も見込んでおきます。
不動産の相続登記
不動産の取得者が決まったら、取得の根拠に応じた書類を揃えて相続登記を申請します。
遺産分割によって取得する場合は、相続関係を証明する戸籍などに加え、遺産分割協議書や印鑑証明書などを用意します。遺言によって取得する場合も、その内容に応じた書類が必要です。
書類が揃ったら不動産を管轄する法務局へ登記を申請し、審査で問題がなければ登記が完了します。申請から完了までの期間は法務局の処理状況によって異なり、書類に不足や誤りがあれば補正に要する時間も加わります。
登記の審査には数週間程度を要する場合があるため、相続登記の完了時期は、書類の準備期間と申請先の法務局での処理期間を合わせて見積もります。 実際の完了予定日は、管轄法務局の状況に応じて確認します。
なお、相続登記には原則として、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります。遺産分割によって取得した場合は、遺産分割成立日から3年以内の申請義務もあるため、協議が長引くときは相続人申告登記などによる対応も検討します。
また、2024年4月1日より前に始まった相続にも申請義務は適用されます。それ以前から不動産の取得を知っていた場合の期限は、2027年3月31日です。
預貯金の払戻し
預貯金の相続手続は、金融機関ごとに行います。
まず金融機関へ相続が発生したことを連絡し、所定の相続届や提出書類を取り寄せます。そのうえで、被相続人と相続人の戸籍、遺産分割協議書または遺言書、印鑑証明書などを揃えて提出します。
金融機関によって所定書式や提出方法、原本の取扱いが異なるため、複数の口座がある場合は、それぞれの提出条件を調べておきます。また、相続人全員の署名や実印での押印を求められる手続では、書類を各相続人へ回して完成させる時間も見込まなければなりません。
必要書類を提出すると、金融機関が相続人や払戻しを受ける人などを審査します。書類に不足や記載漏れがあれば、追加提出や訂正を行うため、その分だけ払戻しも遅れます。
書類が揃っている場合でも、金融機関への提出から払戻しまで数週間程度を見込むことがあり、実際の期間は金融機関や申請内容によって異なります。複数の金融機関に口座があれば、それぞれの審査状況によってすべての払戻しが完了する時期も変わります。
その際、同じ戸籍や遺産分割協議書を複数の金融機関へ提出するのであれば、法定相続情報一覧図の写しを利用したり、原本還付を受けたりすることで、書類を使い回すための待ち時間を減らせる場合があります。
預貯金の承継に要する期間は、金融機関の数だけでなく、書類の準備や相続人間でのやり取り、各金融機関の審査にかかる時間を踏まえて見積もります。
期限のある手続は相続全体の完了を待たずに対応する
相続人の調査や遺産分割協議に時間がかかっていても、法律で期限が定められた手続については、その期限を守らなければなりません。
主な手続と期限は次のとおりです。
| 手続 | 原則的な期限 |
|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内 |
| 所得税の準確定申告(必要な場合) | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内 |
| 相続税の申告・納付(必要な場合) | 原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 |
| 相続登記 | 原則として、相続による不動産の取得を知った日から3年以内 |
例えば、財産調査を続けても借入金の総額が分からず、相続放棄をするか判断できない場合には、3か月の熟慮期間内に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てることができます。財産調査が終わらないまま期限を迎えそうなときは、この手続も踏まえて判断します。
また、相続税の申告が必要な場合は、遺産分割が成立していなくても10か月以内に申告・納税を行います。未分割の財産については、法定相続分などに従って取得したものとして申告し、分割後に必要な修正申告や更正の請求などを行います。
相続税申告に必要な財産評価も、遺産分割協議の成立を待たずに進められます。不動産や非上場株式など、評価に時間がかかる財産があれば、財産調査の段階から税理士へ相談して申告資料を準備しておくことが考えられます。
相続全体の完了時期と、法律で定められた個々の手続の期限は、分けて管理することが重要です。 遺産分割や名義変更が終わるまで待てない手続を先に把握し、その期限に合わせて調査や書類の準備を進めます。
※相続手続における期限管理については、以下の記事で解説しています。
相続手続きの期限一覧|相続開始後にやることを時系列で解説
相続手続の終了時期はどのように見積もるか
相続がいつ頃完了するのかを見積もるには、まず必要な手続を洗い出し、それぞれの前後関係を明らかにします。
相続人と財産・債務を調査し、遺言書の有無と内容を把握したうえで、遺産分割協議の対象となる財産、相続登記を行う不動産、払戻しなどの手続を要する金融機関、相続税申告の要否を特定します。
次に、先行する手続の完了を待つものと、並行して進められるものを区分します。
例えば、戸籍を収集しながら財産を調査したり、金融機関からの回答を待つ間に不動産や債務を調べたりすることは可能です。相続税申告が必要であれば、遺産分割協議と並行して財産評価や申告資料の準備を進めます。
一方、相続人と財産が判明していても、遺産分割協議がまとまらなければ、その結果に基づく相続登記や払戻しには進めません。遺言書などによって取得者がすでに決まっている財産については、必要書類を揃えれば承継手続を先に行えます。
このように、全体の完了時期を左右するのは、後続の手続を始めるための条件がいつ整うかという点です。 財産ごとに必要な調査や協議の期間を見込み、その後の法務局や金融機関での処理期間も考えて日程を組み立てます。並行して進められる作業の期間まで、単純に足し合わせる必要はありません。
自分で手続を行う場合は、戸籍収集、財産調査、書類作成、各窓口への提出、進捗管理まで担います。初めて相続手続を行う方にとっては、自分のケースに必要な手続を漏れなく洗い出し、期限との前後関係を考える作業にも相応の時間がかかります。
専門家へ依頼する場合は、業務の範囲に応じて、相続関係や財産状況の調査、必要書類の作成、各種手続などを任せられるため、自分で行う作業と時間的な負担を減らせます。ただし、相続人間の合意形成や官公署・金融機関の審査に必要な期間は変わらないため、依頼する業務と自分で行う作業を区分し、それぞれの完了予定時期を見込んでおきます。
※相続手続を専門家に依頼する場合には、以下の記事も参考にしてください。
相続手続きは誰に頼む?|依頼内容に応じた専門家の選び方
相続手続の期間は、すべての相続に共通する月数で決まるものではありません。まず法定期限のある手続を把握し、相続人・財産の調査、必要な遺産分割、財産ごとの承継について、何を先に終える必要があるかを明らかにすることが重要です。 そのうえで、並行できる作業と各機関の処理期間を組み合わせれば、自分の相続に合った現実的な完了時期を見積もれます。