飲食店開業に向けて営業許可を取得する際は、申請書類の作成や保健所とのやり取りを行政書士に依頼できます。一方、店舗の設計や設備の準備、施設検査への対応には営業者自身が担う作業もあるため、依頼する業務の範囲をあらかじめ決めておく必要があります。

行政書士には、飲食店営業許可の申請書類・添付図面の作成から、保健所への事前相談、申請代理、申請後の補正対応まで依頼することができます。 営業者が行う作業と行政書士に任せる手続を明確にしておくことで、店舗の工事と許可申請を並行して進めやすくなります。

この記事では、飲食店の開業準備から許可取得までの順序に沿って、行政書士に依頼できる内容と営業者が対応する作業を解説します。

営業内容と店舗の計画を固める

飲食店営業許可の申請を行政書士に依頼する前に、提供するメニューや調理・販売方法を決め、店舗の設計資料をそろえます。取り扱う食品や営業方法によって必要な許可の種類が異なり、施設にも営業の種類に応じた基準が適用されるため、これらの情報が保健所への相談や申請書類の作成に必要となります。

メニューや調理・販売方法を決める

店舗で提供する料理や飲み物、調理方法、店内飲食以外の販売方法などは、営業者が決定します。例えば、カフェで飲み物と軽食を提供するほか、店内で菓子を製造して他店へ卸売りする場合には、飲食店営業とは別に菓子製造業の許可が必要です。

行政書士に必要な許可の種類を調べてもらう際は、予定するメニューに加え、取り扱う食品の種類、調理・製造工程、販売方法や販売先まで伝えます。行政書士はこれらの情報を基に保健所と協議し、予定する営業に必要な許可を確認していくことになります。

店舗の構造と設備を計画する

営業内容が決まったら、営業者は設計・施工担当者と相談し、厨房設備や作業スペースなどを備えた店舗の間取りや設備配置を決めます。その際に作成された設計図面や設備の仕様を行政書士へ渡すことで、保健所への事前相談や営業許可申請に必要な資料を整えてもらえます。

行政書士が作成する申請用図面は、保健所に店舗の構造や設備を示すための資料です。 建築士法上、建築士の資格が必要な建築設計や工事監理については、資格を持つ建築士が担当し、行政書士はその設計資料を基に申請用図面を作成します。

行政書士に依頼する業務の範囲を決める

営業内容と店舗の計画が固まったら、営業許可取得までに必要な作業を確認し、行政書士への依頼範囲を決めます。

行政書士は、行政書士法に基づき、官公署へ提出する書類の作成や許認可申請手続の代理を業務として行う専門家です。飲食店営業許可についても、申請書類の作成だけを依頼することも、保健所への事前相談から正式な申請、施設検査後の補正対応までまとめて委任することもできます。

書類の提出や保健所との連絡を営業者自身が行うかどうかによっても、依頼する業務の範囲は変わります。

開業に向けた主な作業と担当者は、次のとおりです。

開業に必要な作業依頼・対応の範囲
メニュー・調理方法・販売方法の決定営業者が行う
申請書類・添付図面の作成行政書士に依頼できる
保健所への事前相談・申請代理行政書士に依頼できる
建築士の資格が必要な設計・工事監理建築士が担当する
厨房設備の設置・施設の整備営業者が設計・施工担当者と行う
施設検査への立会い・申請内容の説明営業者側が現場対応し、行政書士が支援できる
施設基準への適合性の審査・営業許可の決定行政庁が行う
営業開始後の衛生管理営業者が行う

特に、保健所への事前相談から施設検査までの支援を一括して依頼する場合は、工事中に設備を変更した際の図面修正や、検査で改善を求められた際の補正対応まで委任内容に含めるかを決めておきます。

申請後に生じる修正や補正も依頼範囲に含めておけば、変更のたびに行政書士との業務分担を決め直すことなく、必要な手続を進められます。

工事前の保健所相談で許可区分と施設基準を確認する

店舗の内装・設備工事を始める前に、予定するメニューや調理・販売方法、施設図面を保健所に示し、必要な営業許可の種類と施設基準について相談します。この段階で厨房の構造や設備配置が基準に合っているか、手洗い設備やシンクなどに不足がないかを調べ、工事前に修正すべき箇所を明らかにします。

行政書士に事前相談を依頼する場合は、営業者が用意した営業内容と設計資料を基に保健所と協議してもらい、設備の追加や配置変更を求められた箇所について報告を受けます。営業者はその内容を設計・施工担当者へ伝え、工事方法や費用を踏まえて変更内容を決定します。

変更後の計画については、修正した設計図面を基に申請用図面を整えたり、設備配置について保健所へ再相談したりする作業を引き続き行政書士に依頼できます。工事前に施設基準を踏まえた計画を固めることで、完成後に設備の移設や追加工事が必要になるリスクを減らせます。

なお、神奈川県内でも店舗の所在地によって相談先は異なり、県所管の地域では保健福祉事務所、横浜市など市が所管する地域では各市の保健所等が窓口となります。そのため、事前相談は店舗所在地を管轄する窓口で行います。

※保健所への事前相談で必要となる営業内容や施設図面については、以下の記事で解説しています。
 飲食店開業の保健所への事前相談|工事前に確認する営業許可・施設基準と図面

店舗工事と並行して営業許可の申請を進める

保健所への事前相談後は、その内容を反映して店舗工事を進めるとともに、正式な営業許可申請の準備を始めます。申請書類は工事の完成前に提出でき、神奈川県所管の窓口では、工事完成の2週間から10日前を申請時期の目安として案内しています。

施設検査は店舗の完成後に行われるため、工事の完成予定日と営業開始予定日の両方を踏まえ、申請日と施設検査の日程を調整します。

営業許可申請書と添付図面を作成してもらう

営業許可の申請では、営業者の氏名や法人名、施設所在地、営業の種類などを記載した申請書のほか、店舗の構造・設備を示す図面などを提出します。書類作成を行政書士に依頼する場合は、営業者が決めたメニューや調理・販売方法、店舗の設計資料を渡し、その内容に沿った申請書や添付資料を作成してもらいます。

施設図面には、厨房や客席の区画、手洗い設備、シンク、冷蔵庫などの配置や必要な寸法を示します。工事中に設備の位置や仕様が変更された場合には、その内容を伝え、申請図面にも反映してもらう必要があります。

完成後の施設検査では提出した図面と実際の店舗が照合されるため、工事中の変更を申請資料にも反映し、図面と施工内容を一致させておくことが重要です。

保健所への申請と書類の補正を任せる

正式申請では、行政書士を代理人として必要書類の提出を委任でき、申請後に保健所から記載事項の訂正や添付資料の補正を求められた場合も、書類の修正から再提出まで対応してもらえます。

ただし、代理人による窓口申請やオンライン申請、委任状の取扱いは管轄保健所の運用に従うため、申請方法や必要な委任手続については、行政書士との打ち合わせの段階で調べておきます。

行政書士が申請を代理しても、申請者は開業する本人または法人であり、営業許可を受けるのは営業者です。 したがって、申請手続を委任する場合も、営業者は申請書類に記載された営業内容や店舗設備を把握しておく必要があります。

店舗完成後の施設検査と改善に対応する

店舗工事が完了すると、保健所による施設検査が行われ、担当者が申請書類や図面と実際の店舗を照合して、厨房の構造や設備が適用される施設基準に合っているかを調べます。

神奈川県所管の窓口では施設検査に申請者の立会いが求められており、行政書士が検査に同行する場合も、営業者側の現場対応が必要です。行政書士には申請図面の説明や保健所との連絡を依頼できますが、厨房設備の使い方や食品の保管場所など、実際の営業に関する質問には、店舗運用を把握している営業者や現場の担当者が答えます。

そのため、検査当日は、行政書士が担当する申請内容の説明と、営業者側が対応する設備の使用方法などをあらかじめ分け、双方の役割を打ち合わせておきます。

設備の改善を求められた場合

施設検査で設備や構造が基準に適合していないと指摘された場合は、営業者が設計・施工担当者と改善方法を検討し、必要な工事を手配します。その間、保健所からの指摘内容に関する照会や申請図面の補正、再検査の日程調整など、行政手続に関する対応は引き続き行政書士に依頼することができます。

例えば、手洗い設備の位置を変更するよう指摘された場合には、営業者が施工担当者に移設工事を依頼し、行政書士が変更後の設備配置を申請図面に反映します。改善工事を終えた後は保健所による再検査を受け、指摘された箇所が施設基準を満たしているかを審査してもらいます。

施設基準に適合していなければ営業許可は受けられず、改善後の施設を審査して許可を決定するのは行政庁です。
行政書士が手続を代理する場合も、設備の改善工事そのものは営業者側が手配します。

営業許可の決定と営業許可書の交付

施設検査で基準への適合が認められ、申請内容の審査が終わると、行政庁が営業許可を決定します。許可を受けた日から営業を開始できますが、営業許可書の交付は後日となる場合もあるため、開業予定日に合わせて許可日と交付時期を把握しておく必要があります。

行政書士に許可書の受取りまで依頼する場合は、代理受領の可否や委任状などの必要書類についても調べてもらいます。許可書の受取りを委任内容に含めるかを事前に決めておけば、申請書類の提出から許可取得後の受領手続まで、行政書士が担当する範囲を明確にできます。

申請後の変更や許可書の受取りまで依頼範囲を定める

行政書士への依頼範囲は、まず申請書類の作成だけを任せるのか、保健所への事前相談や正式な申請代理まで含めるのかを決めます。そのうえで、工事中の設備変更に伴う図面修正や、施設検査で改善を求められた場合の補正、再検査の日程調整まで対応してもらうかを具体的に定めます。

施設検査については、営業者側の立会者と行政書士に説明を任せる事項を決め、許可取得後の営業許可書の受取りまで委任する場合は、代理受領の可否や必要な委任手続も確かめておきます。

特に、設備の変更や改善が必要になった場合は、営業者が設計・施工担当者と工事内容を決定し、その変更に伴う申請資料の修正や保健所との連絡を行政書士が担当するという分担を明確にしておくことが重要です。

依頼時に工事中の変更や施設検査後の対応まで見据えて業務範囲を定めておけば、店舗の整備と営業許可申請を並行して進める際にも、追加作業が発生した際に誰が担当するのかが判断しやすくなります。