亡くなった方の遺品から遺言書が見つかると、「遺言書に財産の分け方が書かれているなら、相続人同士で遺産分割協議をする必要はないのでは」と考えるかもしれません。
有効な遺言書によって取得者が定められている財産は、原則としてその内容に従って承継手続を行います。その財産について、相続人全員で改めて分け方を決め直す必要はありません。

ただし、遺言書が相続財産のすべてを処理しているとは限りません。一部の財産しか記載されていないこともあれば、遺言書の作成後に財産が増減していることもあります。
重要なのは、その遺言書によって、相続財産のどの範囲まで取得者が確定しているかを見極めることです。

この記事では、遺言書がある場合、分割協議が不要となる範囲と、協議が必要となる財産の分け方を解説します。

遺言書で取得者が確定している財産は原則として協議不要

有効な遺言書に「自宅の土地建物は長男に相続させる」「○○銀行の預金は妻に相続させる」などと記載され、対象となる財産と取得者を特定できる場合、その財産は遺言書に従って承継します。

遺産分割協議は、相続人間で遺産の分け方を決めるための手続です。すでに遺言によって取得者が定められている財産について、改めて相続人全員で取得者を決める必要はありません。
遺言書によって長男が自宅を取得することが明確であれば、その内容を前提として相続登記を申請します。預貯金について取得者が指定されている場合は、金融機関所定の相続手続を行います。

しかし、この段階で相続全体について遺産分割協議が不要と判断することはできません。遺言書が死亡時の財産をどの範囲まで処理しているかを把握する必要があります。

※遺言書がある場合とない場合の手続の違いについて、以下の記事で解説しています。

遺言内容と死亡時の相続関係・財産を照合する

遺言書がある場合も、相続人と相続財産の調査は欠かせません。

まず、被相続人の戸籍などから法定相続人を明らかにします。これにより、遺言書に記載されていない財産について遺産分割協議に参加する相続人や、遺留分に関係する人を把握できます。

続いて、預貯金、不動産、有価証券、自動車などの資産と、借入金などの債務を調査し、死亡時点の財産状況を明らかにします。
遺言書を作成してから死亡するまでの間に、財産の内容が変わることもあります。預金口座を解約して別の口座へ移していたり、新たに不動産を取得していたり、遺言書に記載した財産を生前に売却していたりするケースです。

調査によって把握した死亡時の財産と遺言書の記載内容を照合し、遺言書によって取得者が確定している財産と、承継先について追加の検討が必要な財産を区分します。

※遺留分とはどんな制度なのかについては、以下の記事を参考にしてください。

遺言書だけでは取得者が決まらない財産を区分する

遺言書と死亡時の財産を照合したら、遺言書だけでは取得者を確定できない財産を区分します。

遺言書に記載されておらず、包括的な条項によっても取得者が決まらない財産は、相続人全員による遺産分割協議で承継先を決めます。

たとえば、「自宅の土地建物は長男に相続させる」とだけ記載され、預貯金や株式について指定がなく、「その他一切の財産を妻に相続させる」といった条項もなければ、預貯金や株式については遺産分割協議が必要です。

遺言書作成後に新たに取得した財産についても、包括的な条項の適用対象となるかを見極める必要があります。新たに開設した預金口座などがあっても、包括的な条項によって取得者が定まるのであれば、その内容に従って承継します。遺言書全体を見ても取得者が決まらなければ、遺産分割協議の対象となります。

また、遺言書に記載された不動産の表示が現在の登記内容と一致しないなど、どの財産を指しているのか判断が難しいケースもあります。この場合は直ちに遺産分割協議の対象とするのではなく、まず遺言書の記載と現在の財産との対応関係を明らかにします。

財産ごとの取扱いをまとめると、次のようになります。

財産の状態取扱い
遺言書によって取得者が確定している遺言書に従って承継手続を行う
包括的な条項によって取得者が確定する遺言書に従って承継手続を行う
遺言書では取得者が決まっていない遺産分割協議で取得者を決める
遺言書の記載と財産の対応関係が不明確遺言内容と現在の財産との関係を判断する
遺言書の効力について争いがある効力に関する問題を整理したうえで承継方法を判断する

この区分によって、遺産分割協議が必要な範囲が明確になります。

遺産分割協議は必要な財産に範囲を絞って行う

遺言書によって取得者が決まっていない財産があれば、その財産について相続人全員で遺産分割協議を行います。

自宅は遺言書によって長男が取得すると決まり、預貯金については取得者が定められていない場合、自宅まで含めて財産の分け方を決め直す必要はありません。協議の対象となるのは、取得者が定まっていない預貯金です。

複数の財産が残っていれば、それぞれについて取得者を決めます。協議が成立したら、その内容を遺産分割協議書にまとめ、預貯金の払戻しや相続登記などの手続に使用します。

このように、一つの相続の中で、遺言書を根拠として承継する財産と、遺産分割協議によって取得者を決める財産が併存することがあります。

相続人全員が遺言と異なる分け方を希望する場合

遺言書によって取得者が決まっていても、関係者が別の分け方を希望することがあります。
一定の条件を満たせば、関係者の合意によって遺言書とは異なる内容で遺産を分けることも考えられます。

ただし、相続人全員の合意だけで処理できるとは限りません。相続人以外の受遺者がいればその権利関係を考慮する必要があり、遺言執行者が選任されている場合は、その権限との関係も確認しなければなりません。

そのため、遺言書とは異なる分け方を検討するときは、財産の取得者、受遺者の権利、遺言執行者の権限、関係者の合意状況をそれぞれ把握します。
登記や税務への影響が生じることもあるため、遺言書と異なる分け方を実行する前に、手続上の問題がないかも含めて検討しておくことが重要です。

※遺贈の制度概要や仕組みについては、以下の記事で解説しています。

遺言執行者がいる場合は手続を担う主体も明らかにする

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な行為を行う立場にあります。そのため、遺言執行者が選任されている相続では、その権限の範囲を確認したうえで、財産ごとの承継手続を行います。

特に相続人以外への遺贈などが含まれている場合は、誰が財産を取得するかという問題と、誰がその承継手続を実行するかという問題を分けて考える必要があります。

遺言書によって取得者を確定した後は、遺言執行者の有無とその権限の範囲を確認したうえで、預貯金や不動産などの具体的な手続に移ります。

※遺言執行者の権限や相続人との関係は以下の記事で解説しています。

遺言書があっても判断が難しい場合は手続に着手する前に相談する

遺言書の内容と死亡時の財産が一致し、すべての財産について取得者が明確であれば、その後の手続も比較的整理しやすくなります。

しかし、実際には、遺言書に一部の財産しか記載されていない、作成後に財産が増減している、財産の表示が現在の状態と一致しない、受遺者や遺言執行者がいるなど、複数の事情が重なることがあります。
さらに、遺言書とは異なる分け方を希望していたり、遺言書の効力や解釈について意見が分かれていたりすれば、どの財産を遺産分割協議の対象にするかという判断自体が難しくなります。
この状態で先に遺産分割協議書を作成したり、預貯金の払戻しや相続登記などの承継手続に着手したりすると、後から遺言書との関係を整理し直すことになりかねません。

遺言書だけでは財産ごとの承継方法を判断できない場合は、個別の払戻しや相続登記などに着手する前に専門家へ相談し、遺言書と死亡時の財産との対応関係を整理しておくと、手戻りを防ぎやすくなります。

※遺言書の作成はどの専門家に頼んだらよいのかは、以下の記事を参考にしてください。

まとめ

遺言書があれば、すべての財産について遺産分割協議が不要になるわけではありません。

まず法定相続人と死亡時の相続財産を確定・把握し、遺言書の記載内容と照合します。遺言書によって取得者が決まっている財産はその内容に従って承継し、取得者が決まっていない財産が残れば、その財産について相続人全員で遺産分割協議を行います。

したがって、一つの相続の中に、遺言書によって承継する財産と、遺産分割協議によって承継先を決める財産が併存することもあります。

また、遺言書の記載と現在の財産が一致しない場合や、受遺者・遺言執行者が関係する場合、遺言書と異なる分け方を希望する場合には、その権利関係や手続上の取扱いを確認してから、具体的な承継手続に着手します。

遺産分割協議が必要かを判断する基準は、その遺言書によって各財産の取得者が確定しているかどうかです。

遺言書と死亡時の財産を照合し、財産ごとに承継方法を区分することで、遺産分割協議が必要な範囲が明確になり、預貯金の払戻しや相続登記などの具体的な手続へ移ることができます。

※遺産分割協議に関してはこちらの記事が参考になります。