「遺言で財産を友人やお世話になった人へ渡したい。」
「法定相続人ではない孫や内縁の妻(夫)にも財産を残したい。」
このような意思を実現するために利用されるのが「遺贈」です。
遺贈とは、遺言によって自分の財産の全部または一部を他の人へ与えることです。受遺者は法定相続人に限られないため、相続人ではない孫、内縁の配偶者、友人などを財産の取得者として指定できます。 民法も、遺言者が包括または特定の名義で財産の全部または一部を処分できることを定めています。
遺贈を利用すると、法定相続人以外の人も含めて、遺言者自身が財産を誰に取得させるかを定められます。
遺贈では相続人以外にも財産を承継させられる
遺贈によって財産を受け取る人を「受遺者」といい、法定相続人であることは要件とされていません。
例えば、法定相続人ではない孫や内縁の配偶者、長年介護をしてくれた親族、友人などを受遺者として指定できます。法人などに財産を遺贈することも可能です。
相続では、被相続人が死亡すると、法律上相続人となる人が被相続人の財産上の権利義務を承継します。
遺贈では、遺言によって受遺者を指定できるため、法定相続人に当たらない人にも財産を取得させることができます。
推定相続人以外の人へ財産を与える場合には、遺言書で「遺贈する」と記載する方法が用いられます。法務省の自筆証書遺言書保管制度に関する案内でも、推定相続人以外の者には「遺贈する」と記載する方法が示されています。
相続人を受遺者にすることもできる
法定相続人も受遺者として財産の遺贈を受けることができます。
例えば、長男に別荘を取得させる場合、長男への遺贈として定めることができます。相続人に財産を取得させる遺言では、「相続させる」という文言を用いる方法もあり、法務省の案内でも、推定相続人については「相続させる」または「遺贈する」とする記載方法が示されています。
相続人が財産を取得する場合でも、「相続させる」旨の遺言と遺贈では、その財産を取得する法律上の構成や必要となる手続に違いがあります。 不動産については、2023年4月1日から、遺贈によって不動産を取得した相続人も、遺贈による所有権移転登記を単独で申請できるようになっています。
相続人に財産を取得させる場合には、誰に何を取得させるかとともに、「相続させる」旨の遺言とするのか、遺贈とするのかによって、その後の手続も変わります。
※遺贈と相続の違いについては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
遺贈と相続の違いは?「相続させる」と「遺贈する」を使い分ける理由を解説
包括遺贈と特定遺贈では受遺者の権利義務が異なる
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。
包括遺贈は「財産の3分の1を遺贈する」のように、遺産の全部または一定割合を対象とする遺贈です。
包括受遺者は、その割合に応じて相続人と同一の権利義務を有し、財産と債務を承継します。
特定遺贈は「自宅を遺贈する」「預貯金500万円を遺贈する」のように、取得させる財産を特定して行う遺贈です。
特定受遺者が取得するのは、遺言で指定された財産です。包括受遺者のように、遺産に対する割合に応じて相続人と同一の権利義務を承継する立場とは区別されます。
包括遺贈と特定遺贈では、遺贈を放棄するときの扱いも異なります。
包括受遺者には相続人に関する相続の承認・放棄の規定が適用されるため、自己のために包括遺贈があったことを知った時から3か月の熟慮期間が問題になります。特定遺贈の受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈を放棄できます。
遺贈を定める際には、個別の財産を指定するのか、遺産の全部または一定割合を指定するのかによって、受遺者が取得する権利や承継する債務、放棄の扱いが変わります。
※包括遺贈と特定遺贈の違いについては、以下の記事を参考にしてください。
包括遺贈と特定遺贈の違いとは?取得する権利や負担する義務をわかりやすく解説
遺贈によって遺留分が侵害されることがある
遺贈によって特定の人に財産を取得させた結果、配偶者や子などの遺留分を侵害することがあります。
遺贈によって遺留分が侵害されても、そのことだけで遺贈が無効になるわけではありません。遺留分権利者が遺留分侵害額請求を行うと、受遺者などに対して侵害額に相当する金銭債権が生じます。 裁判所も、遺留分を侵害する遺贈等が法律上当然に無効となるものではなく、遺留分侵害額請求によって金銭債権が生じると案内しています。
例えば、遺言によって特定の人に多くの財産を遺贈した結果、配偶者や子などの遺留分を侵害していれば、受遺者が財産を取得した後に金銭の支払いを求められることがあります。
そのため、遺言を作成する側では、財産を誰に取得させるかを定める際に、遺留分侵害額請求が生じる可能性も踏まえて内容を検討する必要があります。
※遺留分や遺留分侵害額請求の制度や仕組みについては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
遺留分とは?|誰が請求できるのか・割合・期限をわかりやすく解説
遺留分侵害額請求とは|遺言書があっても請求できるのはなぜか
遺贈を受けるかは受遺者自身が決められる
遺言者が遺贈を定めても、受遺者には遺贈を受けるかどうかを選ぶ余地があります。そのため、遺贈する側では、財産を与えることに加えて、受遺者が取得後に負う負担も考えておく必要があります。
包括遺贈では被相続人の債務も承継するため、遺産の内容を調べずに受け入れると、財産とともに債務を負担することがあります。
特定遺贈でも、維持費や管理費のかかる不動産など、取得後の負担を考慮して放棄を選ぶことがあります。
遺贈する側は遺言によって財産の取得者を指定し、受遺者は遺贈を受けるかどうかを選ぶことができます。
遺贈を定める際には、誰を受遺者とするのか、どの財産を与えるのか、包括遺贈と特定遺贈のどちらにするのか、その財産や遺産にどのような負担が伴うのかまで考えて内容を定めます。