遺言で財産を承継させる方法には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
どちらも遺贈であることに変わりはありませんが、同じ制度ではありません。

最も重要な違いは、包括遺贈は遺産全体を対象として全部または一定割合を承継させる制度であるのに対し、特定遺贈は個別の財産を承継させる制度であるという点です。
この違いによって、受遺者が取得する権利や負担する義務も大きく異なります。

この記事では、包括遺贈と特定遺贈の違いを、実務上の影響も踏まえて解説します。

※そもそも遺贈とはどんな制度なのかは以下の記事で解説しています。
 「遺贈とはどんな制度なのか|相続との違いや第三者へ財産を渡せる仕組みを解説」

包括遺贈は遺産全体を対象として全部または一定割合を承継する制度

包括遺贈とは、遺産全体を対象として、その全部または一定割合を承継させる遺贈です。

例えば、
 「全財産をAへ遺贈する」
 「遺産の2分の1をBへ遺贈する」

といった遺言が包括遺贈に当たります。

包括遺贈では、特定の財産だけを取得するのではなく、遺産全体を対象として包括的に権利を取得します。
預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も、承継する割合に応じて引き継ぐことになります。

特定遺贈は個別の財産を承継する制度

特定遺贈とは、承継させる財産を個別に指定する遺贈です。

例えば、
 「□□県〇〇市の土地をAへ遺贈する」
 「○○銀行の預金500万円をBへ遺贈する」

といった遺言が特定遺贈に当たります。
特定遺贈では、指定された財産だけを取得します。原則として、その財産とは関係のない借金などまで引き継ぐことはありません。

つまり、包括遺贈と特定遺贈では、承継の対象となる財産の範囲そのものが異なります。

包括受遺者は相続人に近い権利義務を持つ

包括受遺者(包括遺贈を受ける人)は、遺産全体を対象として全部または一定割合を承継することから、民法上、包括遺贈の限度で相続人と同一の権利義務を有するとされています。
これは、包括受遺者が相続人になるという意味ではありません。
遺産全体の承継に関わる立場である以上、そのために必要な権利や義務については、相続人と同様に取り扱うという趣旨です。

例えば、包括受遺者は、自己のために包括遺贈があったことを知った日から3か月以内であれば、包括遺贈を放棄することができます。
この期間は相続人の熟慮期間と同様、遺産の内容を確認したうえで、承継するかどうかを判断するための期間です。

遺産を調査した結果、多額の借金があることが分かれば、その期間内に放棄することもできるといった具合です。
家庭裁判所へ放棄を申し述べる手続ではなく、包括受遺者が放棄の意思表示をすることによって行います。

また、包括受遺者は遺産全体を対象として財産を取得するため、借金などの債務についても、その承継割合に応じて負担します。

このように、包括遺贈は財産だけを受け取る制度ではなく、遺産全体に関する権利と義務を承継する制度として設計されています。

特定受遺者は指定された財産だけを取得する

特定受遺者(特定遺贈を受ける人)は、遺言で指定された財産だけを取得する立場です。
包括受遺者のように遺産全体を承継するわけではないため、民法上、相続人と同一の権利義務を有することにはなりません。

また、指定された財産を取得するだけであるため、原則として遺産全体の借金を承継することもありません。

特定受遺者は、遺言者の死亡後であれば、いつでも特定遺贈を放棄することができます。

つまり、特定遺贈は、個別財産を取得させることを目的とした制度であり、包括遺贈のような広い権利義務までは認められていないのです。

承継させたい範囲を明確にすることが重要

包括遺贈と特定遺贈のどちらを利用するかは、どのように財産を承継させたいかによって決まります。

例えば、
 ・ 遺産全体を対象として全部または一定割合を承継させたいのであれば包括遺贈
 ・ 特定の土地や預貯金だけを承継させたいのであれば特定遺贈

というように使い分けます。

遺言の内容が曖昧だと、包括遺贈なのか特定遺贈なのかが争われることもあります。
そのため、遺言を作成するときは、「誰に財産を承継させるか」だけでなく、「遺産全体を対象とした承継なのか、それとも個別財産だけの承継なのか」を明確にしておくことが重要です。

※遺言書についての概要については、以下の記事を参考にしてください。
 「遺言書が必要な人とは|相続のルールだけでは希望を実現しにくいケース」
 「公正証書遺言と自筆証書遺言|どちらを選ぶかは「何を重視するか」で変わる」

まとめ|包括遺贈と特定遺贈は取得する権利や負担する義務が異なる

包括遺贈と特定遺贈は、どちらも遺言によって財産を承継させる制度ですが、その法律上の地位は大きく異なります。

包括遺贈では、遺産全体を対象として全部または一定割合を承継するため、包括遺贈の限度で相続人と同一の権利義務を有し、債務の負担や放棄の方法についても特定遺贈とは異なる取扱いを受けます。
一方、特定遺贈では、指定された財産だけを取得するため、遺産全体に関する権利義務を承継することはなく、放棄の方法も包括遺贈とは異なります。

この違いを理解しておくことで、遺言作成の際、自分の意思に合った財産承継の方法を選択しやすくなるでしょう。

※遺贈と相続の違いについては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
 「遺贈と相続の違いは?「相続させる」と「遺贈する」を使い分ける理由を解説」