遺言によって財産を承継させる「遺贈」には、包括遺贈と特定遺贈があります。

両者は遺言によって承継させる財産の範囲が異なり、その違いによって受遺者の権利義務や放棄の方法も変わります。民法990条は、包括受遺者について「相続人と同一の権利義務を有する」と定めており、包括遺贈に当たるか特定遺贈に当たるかは、受遺者が取得する財産だけでなく、債務の承継や放棄の手続にも関わります。

この記事では、包括遺贈と特定遺贈について、承継する財産の範囲から受遺者の権利義務、放棄の方法まで順に解説します。

※遺贈そのものの仕組みについては、「遺贈とはどんな制度なのか|相続との違いや第三者へ財産を渡せる仕組みを解説」で解説しています。

包括遺贈と特定遺贈では承継する財産の範囲が異なる

包括遺贈と特定遺贈は、受遺者が遺産のどの範囲を承継するかによって区別できます。

比較する事項包括遺贈特定遺贈
承継の対象遺産の全部または一定割合指定された個別の財産
遺言の例「全財産をAに遺贈する」「遺産の2分の1をBに遺贈する」「○○の土地をAに遺贈する」「○○銀行の預金500万円をBに遺贈する」
債務承継する割合に応じて負担する原則として遺産全体の債務を承継しない
受遺者の地位相続人と同一の権利義務を有する指定された財産について遺贈を受ける
放棄原則として3か月以内に家庭裁判所への申述が必要遺言者の死亡後、いつでも放棄できる

包括遺贈では、「全財産」「遺産の2分の1」といった形で、遺産の全部または一定割合が承継の対象となります。特定遺贈では、「この土地」「この預金」といった個別の財産が承継の対象となります。

この承継範囲の違いによって、包括受遺者には相続人と同一の権利義務が認められ、特定受遺者は遺言で指定された財産について遺贈を受けます。以下では、この違いが債務の承継や放棄の手続にどのように表れるのかを見ていきます。

包括遺贈では遺産に含まれる権利義務を割合に応じて承継する

包括遺贈には、「全財産をAに遺贈する」という全部包括遺贈と、「遺産の2分の1をAに遺贈する」という割合的包括遺贈があります。いずれも遺産全体を承継の対象とする点は共通しており、民法990条によって、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します。

たとえば、遺産の2分の1を包括遺贈された場合、預貯金や不動産などの積極財産とともに、被相続人が負っていた借金などの債務もその割合に応じて承継します。そのため、包括遺贈を受けるかどうかを考える際には、取得する財産とともに、遺産に含まれる債務の内容も把握する必要があります。

割合的包括遺贈によって包括受遺者と相続人などが遺産を共同して承継する場合には、包括受遺者も定められた割合で遺産全体の承継関係に加わります。遺産全体についてどの割合を承継するのかが、包括受遺者の権利義務の範囲を考える基準になります。

特定遺贈では遺言で指定された財産を取得する

特定遺贈では、「○○市○○町の土地をAに遺贈する」「○○銀行○○支店の預金500万円をBに遺贈する」といった形で、承継させる財産を指定します。

特定受遺者が承継するのは、遺言で指定された財産です。たとえば、特定の土地を遺贈された人は、被相続人に別途借入金があったという事情だけで、その借入金を割合的に承継することにはなりません。

遺言によって受遺者に一定の義務を負わせる「負担付遺贈」が定められている場合には、その負担を履行する責任が生じることがあります。民法1002条は、負担付遺贈を受けた者について、遺贈の目的の価額を超えない限度で、その義務を履行する責任を負うと定めています。

負担付遺贈によって負う義務は、遺産全体の債務を割合的に承継することとは区別して考える必要があります。
特定遺贈について遺産全体の債務を承継しないという場合には、包括受遺者のように遺産全体に対する割合を基準として債務を承継しないことを意味します。

放棄の方法も包括遺贈と特定遺贈で異なる

包括遺贈と特定遺贈では、遺贈を受けないことにした場合の手続も異なります。

包括受遺者には相続人と同一の権利義務が認められるため、包括遺贈の承認・放棄にも相続の承認・放棄に関する規律が及びます。包括遺贈を放棄する場合には、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ放棄の申述をする必要があります。 単に放棄する意思を伝える方法ではなく、家庭裁判所への申述によって行います。

一方、特定遺贈については、遺言者の死亡後、受遺者はいつでも遺贈を放棄できます。 包括遺贈に適用される相続の承認・放棄と同じ3か月の熟慮期間を前提とするものではありません。

このため、包括遺贈と特定遺贈の区別は、取得する財産の範囲に加えて、債務を含む権利義務の承継や、遺贈を受けない場合の手続にも直接影響します。

遺言を作成するときは承継させる範囲まで明確にする

包括遺贈と特定遺贈では受遺者の権利義務が異なるため、遺言書を作成する際には、誰にどの財産をどの範囲で承継させるのかを明確にします。

たとえば、所有する財産全体の2分の1をある人へ承継させる場合、その人は遺産全体について2分の1の割合を持つ包括受遺者となります。特定の自宅不動産を取得させる場合には、その不動産を目的とする特定遺贈となります。

遺言の文言から承継範囲が明確に読み取れない場合には、その遺贈が包括遺贈と特定遺贈のどちらに当たるのかについて解釈が必要になることがあります。受遺者が負う債務や放棄の手続にも違いが生じるため、遺言書では「誰に渡すか」とともに、「何を、どの範囲で承継させるか」が読み取れる内容にしておくことが重要です。

遺言書を作成する場面では、財産の承継方法に加えて、遺言書の方式や内容もあわせて検討します。遺言書を作成する必要性については、「遺言書が必要な人とは|相続のルールだけでは希望を実現しにくいケース」、方式の違いについては、「公正証書遺言と自筆証書遺言|どちらを選ぶかは『何を重視するか』で変わる」で解説しています。

まとめ|承継する範囲から受遺者の権利義務を考える

包括遺贈と特定遺贈を区別する出発点は、遺言によって承継させる財産の範囲です。遺産の全部または一定割合を承継させる場合には包括遺贈となり、包括受遺者はその範囲に応じて遺産に含まれる権利義務を承継します。
個別に指定した財産を承継させる場合には特定遺贈となり、その指定された財産が受遺者の承継対象となります。

この承継範囲の違いは、受遺者が取得する財産に加えて、債務の承継や遺贈を放棄する場合の手続にもつながります。 遺言を作成する際には、財産を渡す相手とともに、何をどの範囲で承継させるのかまで明確にすることが、受遺者の権利義務を定めるうえで重要になります。

遺贈と相続そのものの違いについては、「遺贈と相続の違いは?|『相続させる』と『遺贈する』を使い分ける理由を解説」で詳しく解説しています。