亡くなった方が公正証書遺言を作成しており、その遺言書が手元にある場合、「このまま名義変更を始めてよいのか」「遺産分割協議は必要なのか」「遺言執行者が指定されていたら誰が対応するのか」といった疑問が生じます。

公正証書遺言は生前に作成されるため、相続開始までの間に家族関係が変わったり、預貯金や不動産などが増減したりすることがあります。そのため、記載された内容だけを見て直ちに名義変更を進められるとは限りません。

相続開始後は、遺言内容と相続開始時の相続関係・財産状況を照合し、誰が何を取得するのか、遺産分割が必要なものはないか、遺言執行者と相続人のどちらが対応するのかを整理します。

この記事では、公正証書遺言がある場合について、生前に定められた内容を実際の財産承継へ反映するまでの流れを解説します。

公正証書遺言がある場合の相続手続きの流れ

公正証書遺言がある場合は、そこに記載された内容を確認したうえで、相続開始時の相続関係・財産状況と照合し、その結果に応じて必要な対応や手続を進めることになります。

全体の流れは、おおむね次の6つに整理できます。

 1. 公正証書遺言の内容を確認する
 2. 相続人と相続財産を調査する
 3. 遺言と相続開始時の状況を照合し、取得関係を確定する
 4. 遺言執行者の有無と担当範囲を確認する
 5. 預貯金・不動産等の承継と期限ある手続を進める
 6. 未処理の財産や手続がないか確認して相続を完了する

遺言作成時から相続開始までに変化がなければ、その内容に沿ってそのまま承継を進められることもあります。
一方、家族関係や財産状況が変わっていれば、遺言だけでは取得者を確定できず、別途遺産分割が必要になる場合もあります。

したがって、公正証書遺言は相続開始後の財産承継を判断する土台となりますが、実際の対応は相続開始時の状況を確認したうえで決まります。

※公正証書遺言の準備・作成については、以下の記事で詳しく解説しています。

公正証書遺言は検認不要

公正証書遺言については、家庭裁判所で検認を受ける必要がありません。

検認は、相続人に遺言の存在と内容を知らせるとともに、検認時点における遺言書の内容を明確にし、その後の偽造・変造を防ぐための手続です。

公正証書遺言は公証人が作成し、原本が公証役場で保管されているため、法律上、検認の対象から除かれています。

そのため、相続開始後は検認の申立てを挟まず、まず記載内容を確認します。誰に何を承継させるのか、相続人以外への遺贈があるか、遺言執行者が指定されているか、個別に記載されていない財産を処理する条項があるかなどが主な確認事項です。

ここで把握するのは、あくまで生前に予定されていた承継内容です。実際にそのとおり進められるのかは、相続開始時の状況と照らし合わせて判断することになります。

※家庭裁判所での検認が必要なケースやその手続に関しては、以下の記事で解説しています。

相続人・相続財産の調査

遺言の内容を把握したら、戸籍を収集して相続開始時の相続人を確定するとともに、死亡時に存在していた財産を調査します。

遺言を作成してから相続が開始するまでには、数年、場合によってはさらに長い期間が空きます。その間に婚姻や離婚、出生、死亡などがあれば、家族関係も変化します。

たとえば、財産を取得する予定だった人が遺言者より先に死亡していることもあります。また、遺言だけでは処理できない財産について遺産分割が必要になれば、誰が協議に参加するのかを確定しておかなければなりません。

同様に、財産の内容も遺言作成時のままとは限りません。記載された預金口座がすでに解約されていたり、不動産が売却されていたりする一方、作成後に新たな預金口座や不動産、有価証券などが増えている場合もあります。

そこで、戸籍による相続関係の確認と並行して、死亡時の預貯金、不動産、有価証券などを調べます。遺言作成後の変化を把握しておくことで、次の段階で記載内容を相続開始時の状況へ正確に当てはめられます。

遺言内容と相続開始時の状況の照合

相続人と財産が判明したら、生前残された内容と相続開始時の状況を照合し、財産ごとの取得関係を整理します。

ここでは、個別に記載された財産だけを見るのではなく、「その他一切の財産を妻に相続させる」といった包括的な条項も含め、遺言全体から承継先を判断します。

遺言による取得者の確定

たとえば、「自宅の土地建物を長男に相続させる」と定められており、その不動産が相続開始時にも存在していれば、その内容に沿って承継を進めます。

個別の財産名が記載されていなくても、その他の財産を処理する条項があれば、その対象となる可能性があります。そのため、相続開始時に存在する各財産について、遺言のどの条項が適用されるのかを確認します。

こうして遺言に基づいて取得者を特定できるものを整理し、その後の払戻しや登記などへつなげます。

遺言で処理されない財産の遺産分割

遺言全体を確認しても取得者を特定できない財産が残る場合は、その部分について相続人全員で遺産分割協議を行います。

たとえば、自宅不動産と特定の預金口座だけについて取得者が定められ、その後に別の預金口座が開設されていたとします。新しい口座まで対象とする条項があればそれに従いますが、該当する定めがなければ、遺産分割によって承継先を決めることになります。

このように、一つの相続の中に、遺言に基づいて承継するものと、遺産分割によって取得者を決めるものが併存する場合があります。両者を区別したうえで、死亡時に存在した財産全体について取得関係を確定させます。

遺言執行者の確認と役割分担

公正証書遺言に遺言執行者が指定されている場合は、その人が実際に就任するかを確認したうえで、遺言執行者が担当する範囲と相続人側に残る対応を整理します。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な行為を行います。相続人以外への遺贈など、その職務に含まれる財産承継については、必要な対応を遺言執行者が進めます。

※遺言執行者の権限や役割などについては、以下の記事を参考にしてください。

これに対し、遺言から取得者を特定できない財産の遺産分割などは、相続人側で進めることになります。

ここで重要なのは、財産の取得者と実際に対応する人を混同しないことです。担当範囲が曖昧なまま個別の手続に着手すると、双方が同じ財産について動いたり、反対に相手が対応するものと考えて未処理のまま残ったりする可能性があります。

取得関係と役割分担の双方を整理しておけば、その後の財産承継も進めやすくなります。

預貯金・不動産等の承継手続

取得者、手続きを担当する人が定まった財産から、実際の承継へ進みます。

不動産は、確定した取得内容を登記へ反映します。相続人への承継と相続人以外への遺贈では必要となる登記も異なるため、それぞれに応じた申請が必要です。
預貯金については、口座のある金融機関へ公正証書遺言や戸籍などの必要書類を提出し、遺言または遺産分割の内容に沿って払戻しなどを行います。
有価証券についても、証券会社など所定の窓口で対応します。

公正証書遺言を作成していても、死亡後の預貯金や不動産などの名義が自動的に変わるわけではありません。生前に定められた内容を実際の名義や権利関係へ反映するには、財産ごとの承継手続が必要になります。

相続放棄・申告・登記の期限管理

財産承継を進める一方で、期限が定められている手続については別途管理する必要があります。

相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。放棄を検討している場合には、遺産の処分などによって単純承認となることがあるため、財産承継に着手する前に判断する必要があります。

被相続人について準確定申告が必要であれば、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告・納税します。相続税については、申告が必要な場合、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内が申告・納税期限です。

不動産を相続した場合には、原則として、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要もあります。

これらの期限は、遺言の確認や財産調査、遺産分割が終わるまで待ってくれるものではありません。そのため、財産状況を把握する段階から期限のある手続の要否にも目を配り、必要なものは財産承継と並行して進めます。

最後に、遺言で処理されていない財産が残っていないか、必要な払戻しや登記が完了しているか、申告などへの対応が済んでいるかを確認します。個々の財産だけでなく、相続開始時に存在した財産と必要な対応の全体を確認することで、一連の相続を完了させます。

※相続手続の期限一覧を以下の記事に掲載していますので、参考にしてください。

まとめ|公正証書遺言を実際の財産承継へ反映する

公正証書遺言があれば家庭裁判所の検認は不要ですが、記載された内容だけを見て、そのまま各財産の名義変更へ進められるとは限りません。

遺言作成から相続開始までの間には、家族関係や財産状況が変化することがあります。そのため、生前に定められた内容を相続開始時の状況と照合し、財産ごとの取得関係や遺言執行者との役割分担を整理したうえで、実際の承継へ反映します。

特に、遺言作成後に財産が増減している場合や、取得予定者が先に死亡している場合などは、遺言と相続開始時の状況との対応関係を慎重に判断する必要があります。こうした整理が難しい場合には、早い段階で専門家へ相談し、必要な対応と担当範囲を明確にしてから財産承継へ進む方法もあります。

公正証書遺言がある相続では、生前に定められた内容を出発点として、相続開始時の状況に即して取得関係を整理し、その結果を実際の財産承継へ反映することが一連の流れとなります。

※専門家への依頼を検討する場合などについては、以下の記事でわかりやすく解説しています。