遺言書を確認すると、遺言執行者が指定されていることがあります。
その場合、「預貯金や不動産の承継は任せればよいのか」「相続人側で行うことは残っているのか」と迷うこともあるでしょう。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、財産の管理や承継など必要な行為を担います。ただし、相続開始後に必要となる対応のすべてを担当するわけではないため、まず遺言の内容を確認し、執行の対象と相続人側で対応する事項を明確にする必要があります。
この記事では、遺言執行者がいる場合に誰が何を担うのかを、相続開始後の流れに沿って解説します。
遺言執行者がいる場合は担当範囲を明確にする
遺言執行者が指定されている場合は、まず遺言の内容を確認し、執行すべき事項を特定します。
遺言内容を実現するために必要な財産管理や承継などは、その権限に基づいて行われます。たとえば、特定の不動産を長男へ相続させる内容や、相続人以外の人への遺贈があれば、その内容に応じて承継や名義変更などを行います。
一方、遺言で処理されていない財産や職務に含まれない事項については相続人側で対応するため、遺言を確認した段階で双方の担当範囲を明らかにしておくことが重要です。ここが明確になれば、その後に誰が何を行うのかも把握しやすくなります。
※遺言執行者の法的地位や権限などについては、以下の記事で解説しています。
「遺言執行者とは?|義務・権限・相続人との関係をわかりやすく解説」
就任後は遺言の内容が相続人へ通知される
遺言執行者が就任して任務を開始した場合は、遅滞なく遺言の内容を相続人へ通知します。
通知を受けた相続人は、遺言によって取得者が決まっている財産を把握するとともに、取得者が定まっていないものや、自ら対応すべき事項が残っていないかも確認します。
この段階で相続全体を見渡し、遺言執行の対象と相続人側が担う範囲を把握しておけば、その後の役割分担も具体的になります。
相続財産を調査し、執行対象を特定する
遺言を実行するには、対象となる財産を把握したうえで、記載された内容と死亡時の状況を照合する必要があります。
たとえば、「○○銀行の預金を妻に遺贈する」「自宅不動産を長男に相続させる」と定められていても、遺言作成から相続開始までの間に預金口座が解約されたり、不動産が売却されたりしていることがあるためです。
そこで、預貯金、不動産、有価証券などを必要に応じて調査し、死亡時に存在する財産と遺言の記載を対応させながら執行対象を特定します。さらに、遺言執行者は遅滞なく相続財産目録を作成して相続人へ交付するため、相続人側もその内容から把握された財産を確認できます。
こうして遺言の記載と実際に残された財産との対応関係を明らかにすることで、執行対象となる範囲が具体化します。
遺言内容に従って承継を行う
執行対象が確定したら、その権限の範囲で遺言内容を実現します。具体的な方法は対象となる財産によって異なり、預貯金であれば、金融機関へ遺言書や戸籍、遺言執行者であることを示す書類などを提出し、内容に従って払戻しや名義変更などを行います。
不動産については遺言に応じた登記が必要となり、相続人以外への遺贈などでは遺言執行者が登記に関与します。特定の不動産を相続人へ承継させる遺言では、遺言執行者が登記を行える場合があるほか、取得する相続人自身による申請も可能です。
有価証券についても、証券会社などが定める方法に従って名義変更などを行います。
このように、遺言で承継先が定められていても、預貯金の払戻しや名義変更などは別途行わなければなりません。遺言執行によって、その内容が実際の権利関係へ反映されます。
相続人は遺言執行を妨げる財産処分を避ける
遺言執行者がいる場合、相続人側もその執行を前提に行動する必要があります。民法では、遺言執行者がある場合、相続人による遺言執行を妨げる行為が制限されており、たとえば他の人への承継が定められている財産を勝手に処分すれば、遺言の実現に支障が生じます。
そのため、就任が確認できたら、対象となっている預貯金や不動産などについて、解約、売却、名義変更に着手する前に遺言の内容と執行範囲を把握します。そのうえで、遺言に基づく承継と相続人側の対応が抵触しないよう、それぞれの役割に沿って対応します。
遺言で取得者が決まっていない財産は遺産分割対象となる
遺言に記載されていない財産が見つかった場合は、遺言全体からその取得者が定まるかを判断します。
個別に記載がなくても、「その他一切の財産を妻に相続させる」といった包括的な条項があれば、それによって取得者が決まることがあります。こうした条項もなく、遺言全体を確認しても承継先を確定できないものについては、相続人全員による遺産分割協議の対象となります。
このように、一つの相続の中に、遺言によって取得者が決まる財産と、遺産分割協議によって取得者を決める財産が併存することがあります。記載のない財産が判明したときは、まず遺言全体から承継先を判断し、それでも定まらないものについて遺産分割協議を行います。たとえば、自宅不動産の取得者だけが指定され、預貯金についての定めも包括的な条項もなければ、その預貯金について協議が必要です。
※遺産分割協議については、以下の記事でわかりやすく解説しています。
「遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか」
「遺言書があれば遺産分割協議は不要?|必要になるケースも解説」
遺言執行と相続人側の対応は並行して行う
遺言執行者がいても、相続人側が担う事項は残ります。
取得者が決まっていない財産については相続人全員で遺産分割協議を行い、その結果に従って承継します。また、相続税の申告が必要であれば、財産を取得した相続人や受遺者などが期限内に申告・納税し、準確定申告が必要な場合も期限を踏まえて対応します。
相続放棄を検討している場合には家庭裁判所への申述期限があるため、遺言に基づく承継が行われている途中であっても、各相続人に関係する期限は別に管理しなければなりません。
したがって、遺言執行が行われている間に、相続人側では遺産分割や税務など自らに残る事項を並行して処理します。執行対象の承継が終わった後も、遺産分割に基づく名義変更、相続税の申告・納税などに未処理のものがあれば、それらを完了させます。
遺言執行者の任務終了と相続全体の完了時期は必ずしも一致しません。双方に必要な対応を終えたところで、相続全体の処理も完了します。
※相続手続の期限や対応期間の目安などについては、以下の記事を参考にしてください。
「相続手続きの期限一覧|相続開始後にやることを時系列で解説」
「相続手続きにかかる期間は?|長引く原因と手続全体の見通し」
遺言執行者と相続人の役割を明確にする
遺言執行者がいる相続では、遺言を確認した段階で、その後の役割分担を明確にしておく必要があります。
おおまかな関係は次のとおりです。
| 内容 | 主な担当者 |
|---|---|
| 遺言内容を実現するための財産承継 | 遺言執行者・財産を取得する相続人等 |
| 遺贈の実行 | 遺言執行者 |
| 遺言執行に必要な相続財産の管理 | 遺言執行者 |
| 取得者が決まっていない財産の遺産分割 | 相続人 |
| 相続税の申告・納税 | 財産を取得した相続人・受遺者等 |
| 相続放棄 | 各相続人 |
| 準確定申告 | 相続人等 |
実際の担当範囲は、遺言内容や死亡時の財産状況によって決まります。そのため、個々の相続について執行対象を確認したうえで、遺言執行内容と相続人側に残る期限・未処理事項を把握します。
こうした区分を明確にしておけば、「遺言執行者が行うと思っていた」「相続人が行うと思っていた」という状態を防ぎ、それぞれが担う事項を滞りなく処理しやすくなります。
担当範囲の判断が難しい場合は専門家へ相談する
実際の相続では、一部の財産しか記載されていない、相続人以外への遺贈がある、作成後に財産が増減しているなどの事情により、遺言執行者と相続人の役割を明確に分けにくいことがあります。
このような場合は、遺言の記載と死亡時の状況を照合し、どの財産が執行対象となるのか、相続人側で何を処理するのかを判断しなければなりません。また、家族や知人が遺言執行者に指定されていれば、その人自身に執行経験がなく、相続人側でもどこまで任せられるのか判断が難しい場合があります。
こうした状況では、早い段階で専門家へ相談することで、執行対象、相続人側で対応する事項、期限のある手続を把握しやすくなります。
また、不動産登記、相続税申告、遺言の解釈や相続人間の紛争など、その内容に応じた専門家との連携も必要です。
最初に役割分担と日程を明確にしておけば、途中で担当範囲を確認し直す負担も抑えられます。遺言執行と相続人側の対応が並行する相続ほど、早い段階で双方の範囲を確定しておくことが、その後の円滑な処理につながります。
※執行費用や専門家への報酬などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ|遺言執行者の就任後に相続人側に何が残るか確認する
遺言執行者が指定されている場合、その権限の範囲で遺言内容を実現します。相続人側では、まず執行対象となる範囲を把握したうえで、自分たちに残る対応を確認することが重要です。
遺言で取得者が決まらない財産があれば遺産分割協議を行い、相続税申告や準確定申告、相続放棄についても、それぞれの必要性と期限を踏まえて対応します。
そのため、遺言書を確認した段階で、執行対象と相続人側で対応する事項を分け、それぞれの開始時期や期限まで把握しておくと、相続全体の流れが明確になります。
遺言執行者がいることで、遺言を実現する主体は明確になりますが、それだけで相続全体が完了するとは限りません。何を任せられるのかに加え、相続人側で何を終える必要があるのかまで把握することが、相続全体を完了させるうえで重要です。