相続が始まると、戸籍などの取得費用、不動産の管理費、専門家への報酬、税金など、さまざまな支出が発生します。葬儀費用を立て替えていることもあるでしょう。
そこで迷いやすいのが、「この費用は誰が払うのか」「相続人全員で負担するのか」「相続財産から支払ってよいのか」という点です。

相続に伴う支出は、何のために発生した費用なのかによって取扱いが変わります。被相続人が生前から負っていた債務、相続財産を管理するための費用、相続手続の実費、専門家報酬、各相続人に課される税金では、それぞれ負担者を判断する基準が異なります。

この記事では、相続で発生する費用を種類ごとに分け、誰が負担するのか、相続財産から支払う場合にはどのように扱えばよいのかを解説します。

相続で発生する費用は性質ごとに分けて考える

相続で発生する主な費用は、まず次の5つに分けて考えます。

 1. 被相続人が生前から負っていた債務
 2. 相続財産を維持・管理するための費用
 3. 相続手続を行うための実費
 4. 専門家へ依頼したことで発生する報酬
 5. 各相続人に課される税金

借入金や未払金は、被相続人が生前から負っていた債務です。戸籍などの取得費用は、相続人を確定し、各財産の承継手続を行う過程で発生します。専門家報酬は依頼する業務に応じて発生し、相続税は財産を取得した人について計算されます。

費用の種類を特定したら、次に誰が負担するものなのかを判断します。相続人全員で分担する費用であれば負担割合を定め、特定の相続人が負担する費用であればその人の支出として扱います。相続人の一人が立て替える場合には、その後の精算方法まであらかじめ取り決めておくことが重要です。

この順序で考えることで、「相続に関係する費用だから相続財産から払う」と一括して処理することを避けられます。

相続財産から支払う前に費用の性質と負担者を見極める

相続財産から費用を支払うときは、まず、その支出がどのような性質のもので、誰が負担する費用なのかを明らかにします。
被相続人から承継した債務、財産の管理費、相続手続の共通実費、専門家報酬、各人の税金のどれに当たるのかを見極め、その結果に沿って支払方法を決めます。
相続人全員で負担する費用であれば、相続財産から支払う方法や、相続人の一人が立て替えて後から精算する方法が考えられます。

特に遺産分割前は、預貯金を含めて誰がどの財産を取得するのかが確定していません。この段階で預貯金から費用を支払うと、遺産分割時の残高にも影響します。
そのため、相続財産から支出した金額と、各相続人が個人で立て替えた金額は分けて記録します。遺産分割の際には、残っている相続財産と、それまでに支出した費用を踏まえて精算します。

ここからは、費用の種類ごとに負担関係を見ていきます。

被相続人が残した借入金や未払金は相続する債務として扱う

被相続人が亡くなった時点で借入金や未払金が残っていれば、その債務は相続の対象となります。

相続開始後は、預貯金や不動産などのプラス財産とあわせてマイナス財産も調査します。借入金のほか、生前の医療費や各種代金の未払い、税金の未納などが残っていることもあります。

財産より債務が多い場合には、相続放棄や限定承認を検討することもあるでしょう。相続放棄や限定承認には、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内という期間があります。

相続開始後にプラスの財産と債務を並行して調査することで、承継する財産と債務の全体を把握し、相続するのか、相続放棄などを検討するのかを判断できます。

※何が相続財産になるのか、財産調査が必要となる理由などについては、以下の記事で解説しています。
 「相続財産とは?|何が相続財産になるのか、借金も含まれるのか」
 「財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために」

※相続放棄に関しては以下の記事を参考にしてください。
 「相続放棄とは|初めから相続人ではなかったことになる制度」

相続財産の維持・管理費は支出目的によって扱いが変わる

遺産分割や名義変更が終わるまで、相続財産を管理しなければならないことがあります。その間に、財産を維持するための費用が発生することもあります。

たとえば、相続した建物に雨漏りがあり、建物の損傷を防ぐために応急修理をした場合、その支出は相続財産である建物を維持するための費用に当たります。
一方、取得予定の相続人が自分で住むために壁紙や設備を好みに合わせて交換した場合には、その人が取得後に利用することを目的とした支出として扱います。

相続人の一人が維持・管理費を立て替える場合には、対象となった財産、支出した目的や理由、金額を記録します。
高額な修繕などを行う場合には、実施前に他の相続人へ内容を共有し、誰が費用を負担するのか、立替払いをする場合にはどのように精算するのかまで取り決めておくと、遺産分割時の精算にも反映しやすくなります。

戸籍などの取得費用は相続手続の実費として管理する

相続手続では、相続人を確定するために戸籍を収集します。
被相続人について出生から死亡までの戸籍をたどるとともに、相続人についても必要な戸籍を取得します。被相続人に転籍があれば請求先が複数になることがあり、代襲相続などが生じていれば収集する戸籍も増えます。
その後、不動産や預貯金の名義変更・払戻しに移ると、印鑑証明書や住民票などの書類も必要になります。

相続人の一人が代表してこれらの書類を取得する場合には、取得手数料や郵送費をその人がいったん支払うことになります。

取得した書類、取得先、手数料、郵送費を記録し、相続人全員の手続に要した実費について負担割合を定めます。代表者が立て替えている場合には、各相続人の負担額を算出し、その金額を代表者へ精算します。

※手続に必要となる書類については、以下の記事で詳しく解説しています。
 「相続手続きに必要な書類一覧|戸籍・印鑑証明・住民票などを解説」

専門家への報酬は依頼内容によって変わる

専門家報酬は、依頼する業務の内容と範囲によって変わってきます。

相続には、相続人や財産の調査、書類の作成、不動産の相続登記、相続税申告、相続人間の紛争対応などがあり、どの手続が生じる発生するかによって関与する専門家と報酬も違ってきます。

たとえば、不動産の相続登記を司法書士へ依頼する場合、相続税申告を税理士へ依頼する場合、相続人間の代理交渉や遺産分割調停を弁護士へ依頼する場合では、それぞれ依頼内容に応じた報酬が発生します。戸籍収集や遺産分割協議書などの書類作成を行政書士へ依頼する場合も同様です。

専門家費用を把握するには、今回の相続で行うべき手続を洗い出し、どこまで自分で行い、どの部分を専門家へ依頼するのかを切り分けます。依頼範囲が明らかになれば、関与する専門家と業務内容も具体化し、見積りを取りやすくなります。

相続人全員の手続として専門家へ依頼する場合には、依頼前に報酬の分担方法も取り決めておくと、その後の精算も円滑です。

※専門家へ依頼する場合の考え方や違いなどについては、以下の記事で解説しています。
 「相続手続きは誰に頼む?|行政書士・司法書士・税理士・弁護士の違いを解説」
 「相続手続で行政書士へ依頼できるのはどんなこと?」

相続税は財産を取得者ごとに負担する

相続税の申告が必要な場合には、相続や遺贈によって財産を取得した人について税額を計算します。
相続税の総額を計算した後、各人が実際に取得した財産の割合などに応じて、それぞれの納付税額を算出します。
各人について算出された相続税は、その人が納付します。そのため、財産の取得内容によって相続人ごとの納税額も変わります。

相続税については、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行います。
遺産分割が終わっている、終わっていないにかかわらず、申告期限は到来します。相続税が発生する可能性がある場合には、財産調査と並行して申告が必要かを判断し、期限までに申告できるよう準備します。

葬儀費用は実際の負担者と相続税上の取扱いを分けて考える

相続開始直後には葬儀に関する支出も発生しますが、葬儀費用は実際に支払った人と金額を記録し、相続人間でどのように負担するのかを取り決めます。

また、相続税の計算上は、そのすべてが同じように扱われるわけではありません。以下の一定の葬式費用については、遺産総額から控除することが認められています。
対象には、お通夜・告別式、火葬・埋葬・納骨にかかった費用、遺体や遺骨の回送費用、読経料などがあります。一方、香典返し、墓石や墓地の購入費用、初七日や法事などの費用は、相続税上の葬式費用には含まれません。

相続税を申告する場合には、支出した葬儀費用のうち、相続税の計算上控除できるものを区分します。領収書や支払記録を残しておけば、相続人間で精算する金額と、相続税の計算に使用する金額をそれぞれ把握できます。

一人が立て替えるなら精算方法を決めておく

相続人の一人が代表して手続すると、戸籍の取得費用、郵送費、財産管理費などを立て替えることがあります。

立替払いをした場合には、日付、支払先、内容、金額を記録し、領収書なども保管します。相続人全員で分担する費用については、その記録をもとに各相続人の負担額を定め、立替者へ精算します。
戸籍取得費用や郵送費は一件ごとは少額でも、相続手続が進むにつれて件数が増えます。専門家報酬や財産管理費も含め、支出した時点から記録しておけば、最終的な精算額をその記録から算出できます。

まとめ|相続手続費用は支出目的から負担すべき人を決める

相続手続の費用は、その支出が発生した目的に沿って負担すべき人を判断します。

被相続人が残した債務は相続する債務として扱います。財産の維持・管理費は、何のための支出だったのかを基準に負担関係を判断し、相続手続の実費は相続人間で分担方法を定めます。専門家報酬は依頼する業務によって発生し、相続税は財産を取得した人ごとに計算されます。

相続人の一人が費用を立て替える場合には、支出内容と金額を記録し、各相続人の負担額を定めて精算します。相続財産から支払う場合には、その費用が何に当たり、誰が負担すべきものかを明らかにしたうえで、支出内容と金額を相続人間で共有します。

これらを自分で行う場合には、該当する手続、期限、提出書類、費用を一つずつ特定し、相続全体の状況を把握しなければなりません。自分で行えば専門家報酬を抑えられますが、相続手続に慣れていない人にとっては、必要な手続を漏れなく洗い出し、最後まで管理する作業そのものが大きな負担になります。
一方、専門家へ依頼する場合には報酬が発生するものの、相続全体を把握したうえで、行うべき手続や費用を明らかにし、その後の各種手続まで見通した対応が可能となりますので、相続発生時から支援を依頼することも有効な対応策となります。

相続費用については、「相続に関係する費用だから」と一括りにせず、支出目的と負担すべき人を確認し、立替払いや相続財産からの支出がある場合には、その内容と金額を記録しながら管理することが重要です。

※相続手続の全体像や手続の進め方などについては、以下の記事を参考にしてください。
 「相続手続きは何から始めるか|親が亡くなった後に家族がたどる順番とその理由」
 「遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか」