はじめに|相続手続きには順序と期限がある

親が亡くなると、葬儀や行政上の届出に加え、預貯金、不動産、借入金などの相続についても対応しなければなりません。複数の手続と期限があるため、何から着手すべきか分かりにくいこともあります。

相続手続には、一定の順序があります。遺言書の有無を把握し、法定相続人を確定したうえで、財産と債務を調査し、その結果を遺産分割や各財産の承継へ反映していくのが基本的な流れです。

ただし、一つの工程が終わるまで次の手続を始めないという意味ではありません。相続放棄の3か月、準確定申告の4か月、相続税申告の10か月など、時間の経過によって期限が到来する手続があります。遺言書・相続人・財産の調査を行いながら、期限のあるものは並行して対応します。

この記事では、親が亡くなった後に家族がたどる主な流れと、それぞれの工程をこの順序で行う理由を解説します。

相続開始直後の対応

親が亡くなった直後は、相続財産の承継より先に、死亡届や葬儀、当面の生活に関わる対応があります。

死亡届は、死亡を知った日から7日以内に提出します。実際には、葬儀社から案内を受けながら手配することも多いでしょう。

あわせて、亡くなった方の口座から支払われていた費用も把握しておきます。公共料金、介護施設の利用料、携帯電話料金、クレジットカードの支払いなどが継続している場合、口座凍結によって引落しが止まる可能性があるためです。

また、亡くなった方に事業所得や不動産所得などがあり、確定申告が必要だった場合には、相続人が準確定申告を行います。期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。遺産分割の成立を待つ手続ではないため、該当する場合は早い段階から税務上の対応も行います。

預貯金口座の凍結と当面の資金

金融機関が口座名義人の死亡を把握すると、その口座は凍結されます。凍結後は預金の引出しだけでなく、自動引落しも停止します。

たとえば、父親の口座から母親の生活費や施設利用料を支払っていた場合には、別の支払方法を用意しなければなりません。そのため、死亡前にどの口座から何が支払われていたのかを把握しておくことが重要です。

遺産分割が終わるまで預貯金を一切払い戻せないわけではありません。生活費や葬儀費用などの資金需要に対応するため、各相続人が一定額まで単独で払戻しを受けられる制度があります。家庭裁判所を経ずに払い戻せる額は、原則として「相続開始時の預貯金額×3分の1×その相続人の法定相続分」で計算し、一つの金融機関につき150万円が上限です。資金が必要な場合は、キャッシュカードで任意に引き出すのではなく、金融機関所定の相続手続や預貯金の仮払い制度を利用します。

当面の生活に関わる対応と並行して、相続そのものの調査にも着手します。

遺言書の確認

遺産の分け方を話し合う前に、亡くなった方が遺言書を残していないかを探します。

遺言書に「自宅は妻へ」「預金は長男へ」「賃貸アパートは長女へ」といった承継内容が定められていれば、その内容がその後の財産承継に影響します。

遺産分割を始めた後に遺言書が見つかると、すでに行った協議や承継手続を見直すことがあります。そのため、自宅や貸金庫などを探すほか、法務局の自筆証書遺言書保管制度や、公証役場の遺言検索も利用して所在を把握します。法務局の制度を利用している場合、相続人などは遺言書が保管されているかを調査できます。

自筆証書遺言が見つかった場合は、家庭裁判所の検認が必要となるものがあります。法務局の遺言書保管所に保管された自筆証書遺言と公正証書遺言については、検認は不要です。遺言書の種類と保管方法によって、その後の取扱いが異なります。

相続人の確定

遺言書の探索とあわせて、戸籍を収集して今回の法定相続人を確定します。

亡くなった方について必要な戸籍をたどると、配偶者や子だけでなく、前婚の子、認知した子、養子などが判明する場合があります。

遺産分割協議は相続人全員で行うため、一人でも漏れたまま成立させることはできません。戸籍収集の目的は、今回の法定相続人を漏れなく確定し、その後の遺産分割や財産承継の当事者を明らかにすることにあります。

被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めただけで収集が終わるとは限りません。代襲相続や兄弟姉妹相続では、そこから判明した相続人の範囲に応じて追加の戸籍を取得します。一連の記録から今回の法定相続人を漏れなく証明できれば、相続人を確定するための収集は完了です。

複数の金融機関や法務局へ相続人を証明する場合には、法定相続情報証明制度を利用すると、戸籍一式を繰り返し提出する負担を軽減できます。この制度を利用する場合も、最初の戸籍収集そのものが省略されるわけではありません。収集した戸籍から法定相続情報一覧図を作成し、その後の各手続で活用します。

財産・債務の調査

相続人の確定と並行して、預貯金、不動産、有価証券などの資産と、借入金や保証債務などを調査します。

預貯金や不動産だけでなく、住宅ローン、カードローン、事業上の借入金、保証人となっている契約なども対象です。証券口座やネット銀行、生命保険などは、通帳だけでは把握できないこともあるため、郵便物や契約書類も手掛かりにします。

相続では資産だけでなく債務も承継対象となるため、財産調査では「いくら残っているのか」とともに、「どのような権利や義務が残っているのか」を把握します。

なお、戸籍収集が完了してから財産調査を始める必要はありません。相続放棄の熟慮期間は原則3か月で進むため、通帳、借入関係の書類、固定資産税の通知、証券会社や保険会社からの郵便物などは早い段階から収集します。

相続放棄・限定承認の期限

財産と債務を把握した結果、債務超過が疑われる場合には、相続放棄や限定承認を検討します。相続放棄は各相続人が行うことができますが、限定承認は相続人全員が共同して行う必要があります。

相続放棄や限定承認を選択するための熟慮期間は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月です。財産調査が終わるまで期限が止まる仕組みではありません。3か月以内に判断できない事情があれば、期間内に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法があります。

そのため、借入金の有無が分からない状態のまま期限を迎えないよう、財産・債務の調査は早期に行います。

すでに3か月を過ぎてから予想していなかった債務が判明した場合には、事情によって法的な判断が異なります。その時点で相続放棄ができないと自己判断せず、個別に対応を検討します。

遺産分割協議

遺言書有無、法定相続人、財産・債務の範囲を把握したら、遺産分割が必要な財産について取得者を話し合います。

遺言によって承継先が決まっている財産があれば、その内容を踏まえて協議対象を定めます。相続人全員で話し合うのは、今回の相続で相続人による分割が必要な財産です。

自宅の利用、事業用資産の承継、不動産を売却して代金を分けるかどうかなどを踏まえ、各財産の取得者を決めます。協議が成立したら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。

この段階より前に相続人や財産の調査を行うのは、協議の当事者と対象財産を確定するためです。調査が不十分なまま話し合いを始めると、後から別の相続人や財産・債務が判明し、協議をやり直す原因になります。

財産承継と税務手続

遺産分割協議が成立したら、その内容を各財産の承継へ反映します。

預貯金については金融機関で払戻しなどを行い、不動産については相続登記、株式などについては所定の名義変更を行います。

相続税の申告が必要な場合は、通常、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告・納付します。遺産分割協議が長引いても申告期限そのものは延びないため、申告が見込まれる場合には、協議と並行して財産評価や申告資料の準備を行います。

不動産については、2024年4月1日から相続登記が義務化されています。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請するのが原則で、2024年4月1日より前に発生した相続で未登記の不動産も対象です。施行前から取得を知っていた場合は、原則として2027年3月31日までに対応します。

遺産分割がまとまらないまま登記期限が近づく場合には、相続人申告登記などによって基本的な申請義務を履行する方法があります。不動産が判明した時点から、遺産分割の進行状況と登記期限をあわせて管理します。

まとめ|相続の流れと期限を並行して管理する

親が亡くなった後の相続手続は、おおむね次の流れで進みます。

段階主な対応
相続開始直後死亡届・当面の支払いへの対応
初期調査遺言書の確認・相続人の確定・財産と債務の調査
判断相続放棄・限定承認の検討
分割遺産分割協議
承継預貯金の払戻し・相続登記・その他の名義変更
並行管理準確定申告・相続税申告・相続登記などの期限

この流れは、相続の前提を固める順序を示したものです。実際には、戸籍収集と財産調査を並行したり、遺産分割協議中に相続税申告の準備を始めたりします。

特に、相続放棄・限定承認の3か月、準確定申告の4か月、相続税申告の10か月、相続登記の3年という期限は、前の工程が終わるまで停止するものではありません。相続全体の流れと期限の双方を見ながら対応する必要があります。

相続開始後は、遺言書、法定相続人、財産・債務を把握し、その結果を踏まえて遺産分割や財産承継を行います。同時に、期限のある手続については、調査の進行状況にかかわらず期限から逆算して対応します。

相続放棄の期限が迫っている、財産や債務の全体像を把握できない、相続人が多く戸籍をたどりきれないといった事情がある場合は、すべてを自分で整理してから相談する必要はありません。現在手元にある資料をもとに専門家へ相談し、優先して対応すべき手続を整理する方法もあります。