相続手続きを始めると、「すべて完了するまでにどのくらいの期間がかかるのか」が気になる方も多いでしょう。
仕事や家事と並行して行うのであれば、いつまで手続が続くのか、早い段階で見通しを立てておきたいところです。

相続手続には、相続人の調査、財産・債務の調査、遺産分割、不動産の相続登記、預貯金の払戻しなど、複数の段階があります。前の手続が終わらなければ開始できないものもあるため、いずれかの段階で時間を要すると、その後の手続全体にも遅れが生じます。

また、相続放棄や相続税申告など、期限が定められている手続もあります。相続全体の終了時期を見据えつつ、期限から逆算して早めに着手すべき手続も見極めなければなりません。

この記事では、相続開始から財産の承継が終わるまでを順番に追いながら、各手続の期間を左右する事情と、相続全体の見通しを立てるためのポイントを解説します。自分の相続がどの段階で時間を要しそうかが分かれば、終了時期も見積もりやすくなります。

相続手続きの期間は「調査・決定・承継」に要する時間で変わる

相続手続は、大きく「調査」「取得者の決定」「財産承継」という流れで構成されます。

最初に、戸籍などを収集して相続人を確定します。それと並行して、預貯金、不動産、有価証券などの財産と、借入金や未払金などの債務を調査します。遺言書が見つかっている場合には、その内容も把握します。

遺言書によって承継先が決まっていない財産があれば、相続人による遺産分割協議を行います。誰がどの財産を取得するのかが決まると、その内容を不動産や預貯金などの承継手続へ反映します。

相続手続の主な流れと、期間に影響する事情をまとめると次のとおりです。

段階主な内容期間に影響する主な事情
相続人の調査戸籍収集・相続人の確定転籍、代襲相続、相続人の人数など
財産・債務の調査預貯金、不動産、有価証券、債務などの把握財産の種類、金融機関数、資料の有無など
承継内容の確定遺言書の内容確認・遺産分割協議遺言内容、相続人間の話合いなど
財産ごとの承継相続登記、預貯金、有価証券など財産の種類、提出先、提出書類など
税務相続税申告・納税財産評価、遺産分割の状況など

相続人が確定すれば、遺産分割協議に参加する人が決まります。財産調査が終われば、何を分けるのかが明らかになり、取得者が決まれば、相続登記や預貯金の払戻しなどに着手できます。

このつながりを押さえることで、自分の相続が現在どの段階にあり、次の手続をいつ始められるのかが見えてきます。

※相続手続きの全体像や制度概要については、以下の記事で解説しています。
 「遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか」

相続人の調査は戸籍をどこまで集めるかで期間が変わる

相続手続の初期に行うのが、相続人の確定です。

被相続人について出生から死亡までの戸籍をたどり、誰が相続人になるのかを確定します。さらに、相続人についても戸籍を取得し、現在の相続関係までつなげます。

被相続人が転籍を繰り返していれば、複数の市区町村へ戸籍を請求することになります。また、被相続人の子が先に亡くなっていて孫が代襲相続するケースなどでは、調査する親族関係が広がり、収集する戸籍も増えます。

戸籍収集では、取得した戸籍から次の本籍地や親族関係を読み取り、追加で請求すべき戸籍を特定します。そのため、最初の請求だけですべてが揃わず、複数回にわたって取得することもあります。

戸籍を最後までたどって相続人を確定すると、遺産分割協議に参加する人が明らかになります。ここで漏れがあれば遺産分割そのものをやり直す原因になるため、相続関係を確定したうえで遺産分割などの次段階に移ります。

※相続人調査に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
 「相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか」

財産調査にかかる期間は、被相続人の財産をどこまで把握できているかで変わる

相続人の調査と並行して、被相続人が残した財産と債務を調べます。

対象となるのは、預貯金、不動産、有価証券などの財産と、借入金や未払金などの債務です。生命保険などについても契約内容を調べ、相続手続の対象となる財産とそれ以外のものを区分します。

通帳、不動産関係書類、証券会社からの郵便物などが残っていれば、それらを手掛かりに調査できます。財産関係の資料が見つからない場合は、郵便物や取引履歴などから、利用していた金融機関や保有財産をたどります。

金融機関から残高証明書や取引履歴を取得する場合には、それぞれの金融機関へ請求します。不動産についても、所有している物件を特定したうえで、登記事項や評価額などを調べます。

財産と債務が判明すれば、遺産分割の対象も明確になります。また、債務の状況によって相続放棄などを検討するのであれば、その判断にも調査結果を反映します。

したがって、財産調査にかかる期間を見積もる際には、現在判明している財産の数だけでなく、所在が分からない財産や債務について追加調査を要するかどうかまで見込んでおきます。

※相続財産や財産調査に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
 「相続財産とは?|何が相続財産になるのか、借金も含まれるのか」
 「財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために」

遺産分割協議にかかる期間は相続人間の話合いで大きく変わる

相続人と相続財産が確定したら、遺産分割協議が必要な財産について取得者を決めます。

相続人全員の意向がまとまっていれば、具体的な分割内容を定め、遺産分割協議書を作成したうえで各財産の承継手続に移ります。

相続人が遠方に住んでいれば、連絡や書類のやり取りにも時間を要します。また、不動産を誰が取得するのか、預貯金をどのように分けるのかなどについて意見が一致しなければ、合意に至るまで遺産分割協議が続きます。

話合いで合意できない場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることがあります。調停では期日を重ねながら合意を目指し、まとまらなければ審判へ移行します。

その間、遺産分割の結果を前提とする相続登記や預貯金の払戻しなどにも影響が及びます。

相続全体の終了時期を見積もる際には、相続人全員と連絡が取れているか、財産の分け方について大きな意見の違いがないかを踏まえ、協議に要する期間を見込んでおきます。

※遺産分割協議の概要は以下の記事でわかりやすく解説しています。
 「遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか」

不動産の相続登記は必要書類を揃えて法務局へ申請する

不動産の取得者が決まったら、相続登記を行います。

遺産分割によって不動産を取得する場合には、相続関係を証明する戸籍などに加えて、遺産分割協議書や印鑑証明書などを用意します。遺言によって取得する場合には、その内容に応じた書類を揃えます。

提出書類が揃ったら、不動産を管轄する法務局へ登記を申請します。その後、法務局で審査が行われ、問題がなければ登記が完了します。申請から完了までの期間は、管轄法務局の処理状況によって変わります。

書類に不足や誤りがあれば補正が必要となり、その対応に要した分だけ完了時期も遅くなります。

また、相続登記には申請義務があります。相続により不動産を取得した相続人は、原則として、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請します。遺産分割によって取得した場合には、遺産分割が成立した日から3年以内の申請義務もあります。

不動産を相続する場合には、取得者の確定時期、提出書類が揃う時期、法務局での処理期間を踏まえて、登記完了までの日程を見積もります。

預貯金の相続手続は金融機関ごとの必要書類と処理期間を見込む

預貯金を相続する場合には、口座のある金融機関ごとに相続手続を行います。

まず金融機関へ相続が発生したことを連絡し、所定の相続届や提出書類を取り寄せます。そのうえで、被相続人と相続人の戸籍、遺産分割協議書または遺言書、印鑑証明書などを揃えます。

金融機関によって、所定書式や提出方法、原本の取扱いなどが異なります。相続人全員による署名や実印での押印を求められる手続では、書類を各相続人へ回して完成させる時間も見込まなければなりません。

書類を提出すると、金融機関側で相続人や払戻しを受ける人などについて審査が行われます。書類に不足や記載漏れがあれば、追加提出や訂正を行ったうえで改めて審査を受けます。

複数の金融機関に口座がある場合は、それぞれに相続手続を行います。同じ戸籍や遺産分割協議書の原本を使用する場合には、原本還付の時期によって次の金融機関への提出時期が変わることもあります。

預貯金の承継に要する期間は、金融機関数、書類の準備期間、相続人間での書類のやり取り、各金融機関の審査期間を踏まえて見積もります。金融機関が多い場合には、並行して処理できるものから着手すると、全体の所要期間を短縮しやすくなります。

相続税の申告は10か月の期限から逆算する

相続税申告が必要な場合は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行います。

この10か月の間に相続人を確定し、財産と債務を調査したうえで、相続税の対象となる財産を評価し、各相続人が取得する財産を踏まえて税額を計算します。

土地や非上場株式などが含まれていれば、財産評価にも時間を要します。預貯金や有価証券などについても、申告資料を金融機関などから取得します。

遺産分割が申告期限までにまとまらない場合でも、10か月の申告期限は到来します。その場合には未分割の状態を前提として申告し、分割後に所定の税務手続を行うことがあります。

相続税が発生する可能性がある場合には、財産調査の段階から申告資料も収集し、10か月の期限から逆算して、財産評価、遺産分割、申告書作成に要する期間を見込んでおきます。

期限が短い手続はほかの相続手続と並行して行う

相続には、それぞれ期限の異なる手続があります。

相続放棄・限定承認は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。被相続人について所得税の準確定申告が必要であれば、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内が原則となります。相続税の申告・納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。

これらの期限は、相続人や財産を調査している間にも近づいてきます。

たとえば、財産調査が終わるまで相続放棄の判断を保留していると、3か月の期限が先に迫ることがあります。その場合には財産と債務の調査を優先し、期限内に判断できない事情があれば、熟慮期間の伸長申立ても検討します。

相続開始後は、期限のある手続を時系列で一覧化し、3か月、4か月、10か月と到来する各期限から逆算して着手時期を定めます。

※相続手続における期限管理については、以下の記事で時系列に解説していますのであわせてご覧ください。
 「相続手続きの期限一覧|相続開始後にやることを時系列で解説」

相続手続きが長引きやすいケース

相続手続の期間を大きく左右するのは、次の手続へ移るための前提がいつ確定するかです。

特に長期化しやすいのは、次のようなケースです。

  • 相続人が多い、または相続関係が複雑
  • 被相続人の転籍が多く、戸籍の収集が長引く
  • 財産の所在を把握できていない
  • 預貯金、不動産、有価証券などの財産が多い
  • 借入金などの債務について追加調査を要する
  • 遺言書の内容と死亡時の財産との対応を判断する必要がある
  • 相続人間で遺産分割の意見がまとまらない
  • 不動産や非上場株式など、評価に期間を要する財産がある
  • 複数の金融機関や手続先への対応が生じる

たとえば、戸籍収集が長引けば、相続人の確定も遅れます。財産の所在が不明であれば、遺産分割の対象を確定するまでに追加調査を要します。遺産分割の話合いがまとまらなければ、取得者の確定を前提とする手続にも着手できません。

複数の事情が重なっている場合には、それぞれがどの段階に影響するのかまで見ておく必要があります。

相続人の確定、財産調査、遺産分割などに分けて考えることで、どの段階で日程に余裕を持たせるべきかが具体的になります。

相続手続きの終了時期を知るには、最初に全体の日程を組み立てる

相続手続の終了時期を見積もるには、最初に自分の相続で行うべき手続を洗い出します。

相続人と財産・債務を調査し、遺言書の有無と内容を把握したうえで、遺産分割協議の対象となる財産、相続登記を行う不動産、相続手続を要する金融機関、相続税申告の要否などを特定します。

各手続の前後関係が分かれば、先行する手続の完了を待つものと、並行して処理できるものを区分できます。

たとえば、戸籍収集しながら財産を調査することは可能です。金融機関からの回答を待っている間に、不動産や債務を調べることもできます。相続税申告が必要であれば、遺産分割と並行して財産評価や申告資料の準備を行います。

さらに、相続放棄の3か月、準確定申告の4か月、相続税申告の10か月といった期限を全体の日程に重ねます。これによって、先に着手すべき手続、並行して行える作業、それぞれを終えるべき時期が具体的になります。

自分で手続を行う場合には、この日程設計に加えて、戸籍収集、財産調査、書類作成、各窓口への提出、進捗管理まで担います。初めて相続手続を行う人にとっては、自分のケースに該当する手続を漏れなく洗い出し、期限との前後関係まで組み立てる作業にも相応の時間を要します。

専門家へ依頼する場合には、依頼する業務の範囲に応じて、相続関係や財産状況の調査、必要な書類の作成、各種手続などを任せることができます。自分で行う作業を減らせるため、その分の時間的な負担も抑えられます。

自分だけで全体の日程を組み立てることが難しい場合には、早い段階で専門家へ相談し、どの手続を自分で行い、どの部分を依頼するのかを決めておくと、その後の見通しを立てやすくなります。

※相続手続を専門家に依頼する場合には、以下の記事も参考にしてみてください。
 「相続手続きは誰に頼む?|行政書士・司法書士・税理士・弁護士の違いを解説」
 「相続手続で行政書士へ依頼できるのはどんなこと?」

まとめ|相続手続きの期間は、時間を要する段階を最初に見極める

相続手続きの完了時期を見積もるには、どの段階が全体の日程を左右するのかを特定することが出発点です。

相続人の確定に期間を要するのか、財産調査が長引きそうなのか、遺産分割協議に時間を要するのか。それぞれによって、後続する相続登記や預貯金の払戻しに着手できる時期が変わります。

そのうえで、相続放棄、準確定申告、相続税申告などの期限を重ね、期限から逆算して先に着手する手続を定めます。並行して処理できるものは同時に行うことで、待ち時間がそのまま相続全体の遅れになることも避けやすくなります。

したがって、「相続手続は一般的に何か月かかるのか」という数字だけでは、自分の相続がいつ終わるのかまでは分かりません。自分の相続で行うべき手続を洗い出し、全体の日程を左右する段階と期限のある手続を特定することで、現実的な完了時期を見積もれるようになります。