相続手続を専門家へ依頼しようと調べていると、遺産整理の費用として数十万円から、場合によっては百万円を超える報酬額が示されていることがあります。
「預貯金の解約や名義変更の手続なのに、なぜこれほど費用がかかるのだろう」と感じる方もいるかもしれません。
もっとも、遺産整理の費用は、書類を作成するためだけに発生しているわけではありません。
相続では、相続人を確定し、財産を調査し、遺産分割を行い、その内容を実際の手続へ反映させる必要があります。
そのため、費用を理解するには、まず何を依頼しているのかを理解する必要があります。
この記事では、遺産整理の相場を紹介する前に、そもそも遺産整理の費用が何に対して発生しているのかという視点から解説します。
結論からいえば、遺産整理の報酬は書類作成の対価ではなく、相続制度が予定する財産承継を実現するための業務全体に対する対価として考える必要があります。
遺産整理とは何を行う業務なのか
相続が発生すると、相続放棄した場合を除いて、相続財産は法律上相続人へ承継されます。
おおまかには、
・ 相続人調査
・ 財産調査
・ 遺産分割協議
・ 各種相続手続
・ 財産分配
という流れで進めていくことになります。
例えば、相続人が確定していなければ遺産分割協議はできません。また、財産の内容が分からなければ、どのように承継するのかを決めることもできません。
さらに、遺産分割協議が成立した後も、預貯金の解約、不動産の名義変更、有価証券の移管などの手続を完了しなければ、実際の財産承継は実現しません。
相続制度は、被相続人の意思を尊重し、残された家族の生活に配慮しながら、財産を適切に承継させることを目的としています。
遺産整理とは、その目的を現実の手続として実現するために、一連の相続手続を整理しながら進める業務です。
遺産整理は、まず相続人と財産を確定することから始まります。
なぜこれらの調査が必要になるのかは、以下の記事で詳しく解説しています。
「相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか」
「財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために」
遺産整理の費用は何に対して発生するのか
遺産整理の費用と聞くと、多くの方は書類作成や金融機関での手続をイメージします。
しかし、遺産整理の実務はそれだけではありません。
相続では、
・ 誰が相続人なのかを確認する
・ どのような財産が存在するのかを調査する
・ どのように承継するのかを整理する
・ 必要な手続を順番に進める
という作業が必要になります。
これらは独立した手続ではなく、相互に関連しながら進んでいきます。
例えば、相続人調査が不十分であれば遺産分割協議をやり直す可能性があります。また、財産調査が不足していれば、後から新たな財産が見つかる可能性もあり、再度協議が必要になることもあります。
遺産分割協議を進めるためには、相続人全員による意思確認や合意形成が必要になる場面もあります。
そのため、遺産整理では個々の手続だけでなく、相続全体を整理しながら進行管理していくことが重要になります。
つまり、遺産整理報酬は書類一枚の作成費用ではなく、相続制度が予定する財産承継を実現するための業務全体に対する対価として発生しているのです。
相続人全員の合意が必要になる理由や、遺産分割協議の役割については、以下の記事で詳しく解説しています。
「遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか」
なぜ財産額によって費用が変わるのか
遺産整理業務に対する専門家への報酬は、相続財産が多い人ほど費用が高くなるのはなぜだろうと疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。
もっとも、これは財産額そのものを基準にして、報酬が決められるわけではありません。
一般に、財産額が大きくなるほど、
・ 財産の種類が増える
・ 手続先が増える
・ 調査範囲が広がる
といった傾向があります。
例えば、預貯金だけの相続と、不動産や有価証券、複数の金融機関口座を含む相続とでは、必要となる調査や手続の量が大きく異なります。
また、相続開始時点で実際の業務量を正確に見積もることは容易ではありません。
そのため、多くの専門家は財産額を業務量の目安として報酬基準に採用しています。
つまり、財産額そのものが報酬の対象なのではなく、財産額から想定される業務量が報酬に反映されているのです。
また、相続人の数や財産の内容によっても業務量は大きく変わります。
例えば、相続人が一人であれば、意思確認や書類収集は比較的シンプルです。
一方で、相続人が五人いる場合には、それぞれとの連絡調整や署名押印の取得などが必要になります。
また、財産についても、
・ 預貯金のみの場合
・ 不動産を含む場合
・ 有価証券を含む場合
では、必要となる手続が異なります。
そのため、同じ財産額であっても、相続人の構成や財産の内容によって費用が変わることがあります。
遺産整理の費用は、単純な財産額ではなく、実際に必要となる業務量によって左右される側面が大きいのです。
専門家へ遺産整理の依頼を検討する場合に、多くの方は相場や費用感といった金銭面が気になります。確かに、費用の目安を知ることは重要です。
しかし、相場だけで単純に比較すると、「この事務所は高い」「こっちの方が安い」という判断になりがちです。
実際には、専門家の事務所ごとに対応する範囲や業務内容によって報酬体系が異なります。
遺産整理の費用は金額だけで比較するものではなく、その費用によってどのような業務が行われるのかという視点で考えることが重要です。
費用を見るときに注意したいこと
遺産整理では、全ての業務を一人の専門家だけで完結できるとは限りません。
例えば、不動産の相続登記は司法書士、相続税の申告が必要な場合には税理士の関与が必要になります。
そのため、見積書に記載された費用について、
* 他士業の費用を含んでいるのか
* 別途何が必要になるのか
を確認しておくことが重要です。
一見すると安く見える見積であっても、後から司法書士費用や税理士費用が追加されることがあります。
遺産整理に関する費用を比較するときは、単純な金額だけでなく、どこまでの業務が含まれているのかを確認する必要があります。
遺産整理業務を受任する専門家と相続財産清算人では、その役割が異なります。
「遺産整理受任者と相続財産清算人は何が違うのか?」
結論|遺産整理の費用は業務全体への対価
相続制度は、
・ 被相続人の意思を実現すること
・ 残された家族の生活に配慮すること
・ 財産を適切に承継させること
を目的としています。
そして、遺産整理は、その目的を実際に手続を行って実現するための業務です。
相続人調査、財産調査、遺産分割協議、各種相続手続、財産分配という流れを進めることで、初めて財産承継は完了します。
そのため、遺産整理の費用は単なる書類作成費ではありません。
相続制度が予定する財産承継を実現するために必要な業務全体への対価として考えることが重要です。
相場を確認することも大切ですが、それ以上に「何を依頼するのか」「どこまで対応してもらえるのか」という視点で費用を検討することが、納得できる依頼先選びにつながります。
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