相続手続について調べていると、「遺産整理受任者」と「相続財産清算人」という言葉を目にすることがあります。
どちらも亡くなった人の財産に関する手続を行いますが、遺産整理受任者は相続人から委任を受けて相続手続を進める立場であり、相続財産清算人は相続人のあることが明らかでない場合に家庭裁判所が選任し、相続財産を清算する立場です。
両者は、権限の根拠、財産を扱う目的、最終的な財産の処理がそれぞれ異なります。この記事では、それぞれの役割と手続を踏まえ、遺産整理受任者と相続財産清算人の違いを解説します。
遺産整理受任者は相続人から委任を受けて相続手続を進める
相続が発生すると、相続人は被相続人の財産を承継します。実際の相続手続では、戸籍を収集して相続人を確定し、預貯金、不動産、有価証券などの相続財産を調査したうえで、必要に応じて遺産分割協議を行い、各財産の名義変更や解約などを進めます。
これらの相続手続を相続人からの委任に基づいて行うのが、遺産整理受任者です。「遺産整理受任者」とは、遺産整理に関する委任契約によって相続手続を受任した者を指す名称で、独立した法定資格の名称ではありません。
実際の遺産整理業務では、相続人との委任契約に基づき、相続財産の調査、財産目録の作成、預貯金や有価証券の解約・換金などが行われます。
遺産の分け方は相続人が協議して決め、遺産整理受任者はその結果に基づいて、委任された範囲の相続手続を行います。 たとえば、相続人が配偶者と子2人であれば、その3人が遺産の分け方を協議し、遺産整理受任者へ委任した場合には、委任契約で定めた範囲について、受任者が預貯金の解約や有価証券の名義変更などの手続を行います。
※委任契約に際しての委任状については、以下の記事を参考にしてください。
遺産整理の委任状とは|必要になる理由と委任する権限
相続財産清算人は相続人のあることが明らかでない場合に選任される
相続人のあることが明らかでない場合には、相続人による通常の財産承継を進めることができません。
相続人全員が相続放棄をした結果、相続する者がいなくなった場合も、この手続の対象に含まれます。
この場合、利害関係人や検察官の申立てにより、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。選任された相続財産清算人は、相続財産を管理・清算する権限に基づき、相続人捜索の公告や相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告などを経て、必要に応じて財産を換価し、債権者への弁済などを進めます。
清算後に財産が残った場合は、特別縁故者への財産分与などの手続を経て、承継する者がいない財産が最終的に国庫へ引き継がれます。相続財産清算人は、残された相続財産について債権者などとの法律関係を処理し、財産関係を終結させる役割を担います。
※相続放棄については、以下の記事で解説しています。
相続放棄とは|初めから相続人ではなかったことになる制度
権限の根拠と財産処理の違い
遺産整理受任者と相続財産清算人は、手続が必要となる場面から権限の根拠、財産の最終的な処理まで異なります。
| 比較項目 | 遺産整理受任者 | 相続財産清算人 |
|---|---|---|
| 手続が必要となる主な場面 | 相続人が相続手続を進める場合 | 相続人のあることが明らかでない場合 |
| 権限の根拠 | 相続人との委任契約 | 家庭裁判所による選任 |
| 主な役割 | 委任された相続手続を進める | 相続財産を管理・清算する |
| 遺産分割 | 相続人が協議し、受任者はその結果に基づいて手続を行う | 相続人による遺産分割を前提としない |
| 財産の最終的な処理 | 相続人への名義変更・換価・引渡しなど | 債務の弁済等を行い、残余財産について特別縁故者への分与や国庫帰属などの手続へ進む |
遺産整理受任者が行える手続は委任契約の内容によって決まり、相続財産清算人は民法上の権限に基づいて相続財産を管理・清算します。 相続財産清算人がその権限を超える行為をする場合には、家庭裁判所の許可が必要です。
相続人の有無と状況に応じて手続が異なる
親が亡くなり、相続人が確定していて、その相続人が遺産を承継する通常の相続では、相続人自身が相続手続を行うか、必要に応じて遺産整理業務を委任して手続を進めます。
これに対して、相続財産清算人の選任が問題となるのは、戸籍上相続人がいない場合や、相続人全員の相続放棄によって相続する者がいなくなった場合など、相続人のあることが明らかでないケースです。
相続人が存在しているものの所在が分からない場合は、「相続人のあることが明らかでないとき」とは区別して手続を考える必要があります。相続財産清算人は、民法上「相続人のあることが明らかでないとき」を対象とする制度であるためです。
相続人による承継と相続財産の清算を区別する
相続人が確定し、その相続人が遺産を承継する場合には、相続人が主体となって相続手続を進め、その一部を遺産整理受任者へ委任することができます。遺産整理受任者は、その委任内容と相続人による遺産分割協議の結果に基づいて、財産の名義変更や解約などを行います。
一方、相続人のあることが明らかでない場合には、家庭裁判所が選任した相続財産清算人が相続財産を管理し、債権者への弁済などを経て財産関係を清算します。
両者を区別する際は、相続人による財産承継を進める場面なのか、相続人のあることが明らかでないため相続財産そのものを清算する場面なのかを基準にします。