亡くなった方の遺品を整理している途中で遺言書が見つかると、相続人だけで遺産の分け方を決めてよいのか、すでに始めた名義変更を止めるべきなのか、遺言書を誰が実行するのかといった問題が生じます。

遺言書がある場合は、原則として遺言者が定めた承継内容に沿って手続を進めます。まず確認するのは、遺言書によって誰がどの財産を取得することになっているかです。
具体的には、遺言書の方式や記載された財産と取得者、遺言執行者の有無などを確認します。

この記事では、遺言書の発見後に確認すべき順序と、遺言書がない場合との手続の違いを、相続全体の流れに沿って解説します。

遺言書が見つかったら最初に確認するのは承継内容

遺言書が見つかった場合は、原則として遺言書に記載された内容に沿って相続手続を進めます。

まず確認するのは、誰が、どの財産を取得することになっているのかです。

遺言書には、相続人へ財産を相続させる内容だけでなく、相続人以外の個人や法人へ財産を遺贈する内容が記載されていることもあります。
また、すべての財産について取得者が指定されているとは限らず、一部の財産だけが記載されている場合もあります。

そのため、遺言書が見つかったら、記載内容を基に、財産ごとの取得者を整理し、その内容に沿って相続手続を進められるかを確認します。

一方、遺言書がない場合は、相続人を確定し、相続財産を調査したうえで、相続人全員による遺産分割協議によって財産の承継先を決めます。

この違いを整理すると、次のようになります。

確認事項遺言書がある場合遺言書がない場合
財産の承継先遺言書の記載内容から確認する相続人全員の協議で決める
財産を取得する人相続人、受遺者など原則として相続人
遺産分割協議遺言書に記載のない財産などについて行う原則として相続財産全体について行う
手続を進める人遺言執行者、相続人、受遺者など相続人
名義変更・払戻し遺言書などを提出して行う遺産分割協議書などを提出して行う

遺言書がある相続では、相続人全員で財産の分け方を決めることから始めるのではなく、まず遺言書によって承継先が決まっている財産を整理します。
その内容を基に、登記や預貯金の払戻しなど、財産ごとの手続を進めていきます。

遺言書で誰がどの財産を取得するのか確認する

遺言書の方式や有効性を確認したら、記載内容を把握し、財産の承継関係を整理します。

確認する主な項目は次のとおりです。
 ・ 複数の遺言書が存在しないか
 ・ 財産を取得する人は誰か
 ・ 取得する人が相続人か、相続人以外の受遺者か
 ・ 対象となる財産を特定できるか
 ・ 財産の全部が記載されているか
 ・ 割合で指定されているか、個別の財産で指定されているか
 ・ 遺言執行者が指定されているか

「長男に自宅を相続させる」と明確に記載されていれば、その不動産については遺言書を基に相続登記を進めます。
ただし、遺言書の作成後に不動産が売却されていたり、口座解約や預金の移動が行われていたりすることもあります。遺言書の記載内容と死亡時の財産を照合し、どの財産について取得者が確定しているかを把握します。

相続人と相続財産の調査は遺言書があっても必要

遺言書がある場合も、相続人と相続財産の調査は必要です。

相続人を確定しておかなければ、遺留分を有する人や、相続税の計算に用いる法定相続人の人数を確認できません。また、財産調査を行わなければ、遺言書に記載されていない預貯金、不動産、有価証券、借入金などを見落とすおそれがあります。

この工程では、主に次の事項を整理します。
 ・ 戸籍による相続人の確定
 ・ 遺言書で財産を取得する受遺者の確認
 ・ 不動産、預貯金、有価証券などの調査
 ・ 借入金や未払金などの債務の調査
 ・ 遺言書に記載された財産と死亡時の財産の照合
 ・ 遺言書に記載されていない財産の有無

調査結果が揃うと、遺言書に沿って手続を進める財産と、相続人全員で承継先を決める財産を区分できます。

遺言書に記載のない財産は遺産分割協議で承継先を決める

遺言書が一部の財産だけを対象としている場合、記載のない財産は相続人全員で遺産分割協議を行います。

自宅を長男へ相続させる旨だけが記載され、預貯金や有価証券の承継先が書かれていなければ、それらの財産については遺言書だけで取得者を確定できません。
ただし、遺言書に「その他一切の財産を妻に相続させる」などの包括的な記載があれば、個別に列挙されていない財産もその条項に含まれる可能性があります。

財産ごとに、どの手続によって承継先を決めるのかを整理すると、次のようになります。

 ・ 遺言書で取得者が確定している財産は、遺言書に沿って手続する
 ・ 遺言書に記載がなく、包括的な条項にも含まれない財産は、遺産分割協議で承継先を決める
 ・ 財産の特定や記載内容の解釈に争いがある場合は、法的な対応を検討する

遺言書の内容と手続を進める人が確定したら、財産ごとに名義変更や払戻しを行います。

不動産

遺言書で不動産の取得者が指定されている場合は、法務局へ所有権移転登記を申請します。
取得者が相続人であるか、相続人以外の受遺者であるかによって、登記原因、申請人、必要書類が異なります。遺言執行者の指定も申請方法に影響するため、遺言書の記載内容を踏まえて必要な手続を整理します。
遺言によって不動産を取得した相続人は、一定の場合に単独で登記を申請できます。受遺者が相続人以外(第三者)である場合は、原則的に相続人全員または遺言執行者との共同申請が必要です。

預貯金

預貯金については、口座のある金融機関へ遺言書、戸籍、印鑑証明書、遺言執行者の資格を示す書類などを提出し、払戻しや名義変更を行います。
必要書類は、取得者が相続人か受遺者か、遺言執行者がいるか、遺言書について検認が必要かによって異なります。金融機関ごとに所定の書式や確認事項も異なるため、事前に必要書類を確認しておきましょう。

株式・投資信託

上場株式や投資信託は、証券会社などへ相続発生を届け出て、相続人または受遺者の口座へ移管します。
非上場株式が含まれる場合は、株主名簿の書換えや会社への届出が必要です。税務上・会社法上の取扱いについても確認が必要となるため、関連する手続もあわせて進めます。

自動車その他の財産

自動車は運輸支局などで名義変更を行います。借地権、ゴルフ会員権、事業用資産などについても、それぞれの管理者や契約相手に承継手続を申し出ます。
遺言書によって取得者が決まっていても、名義や登録は各管理機関で手続を終えることで、遺言書の内容が実際の権利関係へ反映されます。

相続税の申告期限は遺言書の確認中でも到来する

遺言書が見つかった場合も、相続税の申告期限は変わりません。
相続税の申告と納税は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
遺言書の有効性や財産の帰属について確認が続いていても、10か月の期限は到来します。遺産が未分割である場合も、期限内に申告と納税を行わなければなりません。

このため、遺言書の確認と並行して、次の作業を進めます。
 ・ 相続人と受遺者の確認
 ・ 遺産と債務の調査
 ・ 財産評価
 ・ 相続税申告の要否の判定
 ・ 遺言内容を反映した取得財産の整理

相続税がかかる可能性がある場合は、登記や払戻しの完了を待たず、税理士へ相談して申告日程を管理します。

遺言書がある場合とない場合の手続の流れ

遺言書がある相続では

 1. 遺言書の種類と保管状況を確認する
 2. 必要に応じて家庭裁判所の検認を受ける
 3. 遺言書の有効性、記載された財産、取得者を確認する
 4. 相続人、受遺者、相続財産、債務を調査する
 5. 遺言執行者など手続を進める人を確認する
 6. 遺言書に記載のない財産について遺産分割協議を行う
 7. 遺言書または遺産分割協議の内容に沿って、登記、払戻し、名義変更を行う
 8. 必要に応じて相続税を申告する

遺言書がない場合

 1. 相続人、相続財産、債務を調査する
 2. 相続人全員で遺産の分け方を協議する
 3. 合意内容を遺産分割協議書にまとめる
 4. 協議内容に沿って、登記、払戻し、名義変更を行う
 5. 必要に応じて相続税を申告する

遺言書がある相続では、記載された承継内容を整理し、その内容を財産ごとの手続へ反映します。遺言書に記載のない財産があれば、その財産について遺産分割協議を行います。

まとめ

遺言書が見つかったら、最初に種類と保管状況を把握します。自宅などで保管されていた自筆証書遺言には、原則として家庭裁判所の検認が必要です。公正証書遺言と法務局で保管された自筆証書遺言は、検認を経ずに手続へ進めます。

次に、遺言書に記載された取得者、対象財産、遺言執行者を整理し、死亡時の財産と照合します。遺言書で取得者が決まっている財産は、その内容に沿って名義変更や払戻しを行います。記載のない財産については、包括的な条項の有無を確認したうえで、必要に応じて遺産分割協議を行います。

相続人と財産の調査、遺留分への対応、相続税の申告は、遺言書がある場合にも必要です。特に相続税の申告期限は、遺言書の確認や遺産分割の完了を待たずに到来します。

遺言書の存在を確認した後は、遺言書によって承継先が確定する財産、相続人の協議が必要な財産、期限を管理しながら進める税務手続を区分して整理します。この整理により、遺言者の意思を登記、預貯金、税務などの各手続へ適切に反映しながら、相続手続を進めることができます。