相続手続を始めようとすると、戸籍、印鑑証明書、住民票、遺産分割協議書など、多くの書類が必要だと分かります。
しかし、必要書類を一覧で調べても、自分の相続ではどの書類が必要なのか、どの順番で集めればよいのか判断できず、手が止まってしまう方も少なくありません。

相続手続では、最初から書類名を覚える必要はありません。まず把握すべきなのは、誰が財産を取得するのか、どの財産について手続を行うのか、そして、その内容をどこへ証明するのかという点です。
必要書類は、相続手続の流れに沿って、証明すべき内容に応じて揃えていきます。

この記事では、相続手続の流れに沿って、各書類が何を証明するために必要なのかを解説します。

相続手続は「必要な書類」ではなく「何を証明するか」から考える

相続手続では、法務局、金融機関、税務署など、提出先によって必要書類が異なります。

もっとも、提出先は異なっても、確認している内容には共通する部分があります。

 ・ 誰が亡くなったのか
 ・ 誰が相続人なのか
 ・ 誰がどの財産を取得するのか
 ・ その内容について、相続人全員の合意や遺言書などの根拠があるのか

戸籍は相続人を確定するため、遺産分割協議書や遺言書は財産の取得者を証明するため、印鑑証明書は相続人本人の意思を裏付けるために使用します。
このように、「何を証明するための書類なのか」を理解すると、自分の相続で必要となる書類も把握しやすくなります。

相続手続の流れと必要書類

相続手続は、おおむね次の流れで進みます。

 1. 相続人を確定する
 2. 相続財産の内容を把握する
 3. 財産を取得する人を決める
 4. 各財産の名義変更や払戻しを行う
 5. 必要に応じて相続税を申告する

前の工程で整理・確定した内容を、次の工程で証明するために必要書類を提出します。
例えば、相続人が確定していなければ遺産分割協議は行えません。また、誰が財産を取得するかが決まっていなければ、不動産の相続登記や預貯金の払戻しも進められません。

必要書類は手続ごとに独立しているのではなく、相続手続全体の流れに沿って、次の工程へつながっています。

相続人を確認するための書類

最初に行うのは、誰が相続人なのかを確定することです。
相続人が確定していなければ、その後の遺産分割協議や名義変更を進めることはできません。この工程が、相続手続全体の出発点となります。

この工程では、主に次の書類を使用します。

書類主に証明する内容
被相続人の出生から死亡までの戸籍法定相続人を確定するため
相続人の現在戸籍相続人であること
戸籍の附票・住民票など住所などを確認する場合

戸籍によって相続人を確定したら、次は誰が何を相続するのかを検討するため、相続財産の調査へ進みます。

戸籍の取得は、ご自身で行うことも可能です。ただし、出生から死亡までの戸籍を漏れなく収集し、相続関係を正確に読み取るには、相応の時間と手間がかかります。
戸籍の読み取りや相続人の確定に不安がある場合は、早い段階で専門家へ相談しておくと、その後の手続も進めやすくなります。

相続財産を確認するための書類

相続人が確定したら、次は相続財産の内容を把握します。
財産の全体像が分からなければ、誰がどの財産を取得するのかを決められないためです。

調査対象は不動産だけでなく、預貯金、有価証券、自動車、負債なども含め、相続財産全体を取りまとめます。

財産主な資料
預貯金残高証明書、通帳など
不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書など
株式・投資信託残高報告書など
自動車車検証など
借入金・ローン借入残高証明書など

財産調査によって全体像を把握できると、誰がどの財産を取得するのかを具体的に検討できる段階になります。

一方で、この段階で財産を見落とすと、後から預貯金や不動産、負債などが判明し、遺産分割や名義変更をやり直さなければならないこともあります。
相続財産が多い場合や種類が多岐にわたる場合は、財産目録などを作成しながら一覧化すると、その後の手続まで円滑につなげやすくなります。

財産を取得する人を証明するための書類

相続人と財産の内容を把握できたら、次は誰がどの財産を取得するのかを確定します。

遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容を遺産分割協議書として取りまとめます。
一方、遺言書がある場合は、その記載内容に沿って取得者を特定し、必要に応じて遺言執行者が手続を進めます。

この工程では、主に次の書類を使用します。

書類主な役割
遺産分割協議書相続人全員が合意した承継内容を証明する
相続人全員の印鑑証明書協議書への実印による合意を証明する
遺言書遺言者が定めた承継内容を証明する

これらの書類によって、各財産について取得者が確定します。

遺産分割協議書や遺言書は、その後の相続登記や預貯金の払戻しなど、多くの手続で提出する重要書類です。内容に不備があると、提出先から補正や再提出を求められることもあるため、この段階で記載内容を正確に整えておくことが重要です。

財産を取得する人が決まったら提出先ごとに書類を揃える

遺産分割協議や遺言書によって取得者が確定した後は、財産ごとの手続へ進みます。
この工程では、誰が財産を取得するのかを各提出先へ証明し、相続による権利移転を正式な記録へ反映させます。

提出先は異なりますが、確認している内容には共通点があります。

 ・ 誰が亡くなったのか
 ・ 誰が財産を取得するのか
 ・ その内容に基づいて手続を行う権限があるのか

これらを証明するために、戸籍、遺産分割協議書、遺言書、印鑑証明書などを組み合わせて提出します。

財産提出先主な追加書類
不動産法務局相続登記申請書など
預貯金金融機関金融機関所定の相続届など
株式・投資信託証券会社所定の相続手続書類など
自動車運輸支局など移転登録申請書など

提出先によって申請書類は異なりますが、相続関係や取得者を証明する基本書類は、複数の手続で共通して使用することが少なくありません。
そのため、提出先ごとに一から書類を集めるのではなく、相続手続全体を見渡しながら準備を進めると、重複する作業を減らしやすくなります。

相続税申告で必要になる書類

不動産の名義変更や預貯金の払戻しが終わっても、相続手続がすべて完了するとは限りません。
相続財産の総額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告と納税が必要になるためです。

相続税の申告では、新たに一から資料を集めるというよりも、それまでの工程で収集・作成した書類を活用します。
例えば、相続人を確定するために取得した戸籍、財産調査で収集した資料、遺産分割協議書や遺言書などは、相続税申告でも重要な資料となります。
さらに、財産評価や債務、各種特例の適用要件を確認するための資料も準備します。

主な書類・資料主な用途
戸籍謄本など相続人を確定する
遺産分割協議書・遺言書財産の取得者を証明する
不動産・預貯金などの資料財産評価を行う
債務や葬式費用の資料控除対象を確認する
相続税申告書相続税を申告する

相続税の申告期限は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
必要書類の収集や遺産分割に時間を要した場合でも、申告期限は延長されません。
このため、相続税が発生する可能性がある場合は、登記や金融機関の手続と並行して準備を進めることが重要です。

相続手続は一度集めた書類を複数の手続で使う

ここまで見てきたように、相続手続では提出先ごとに新たな書類を集めるわけではありません。

最初に取得した戸籍は、相続登記、預貯金の払戻し、相続税申告など、複数の手続で利用することがあります。
また、遺産分割協議書や遺言書も、不動産や金融資産など複数の財産について共通して使用する重要書類です。

そのため、書類は次の順番で区分して整理すると、効率よく手続を進められます。

 1. 相続人を確定するための書類
 2. 相続財産を把握するための資料
 3. 財産の取得者を証明する書類
 4. 提出先ごとの申請書類
 5. 相続税申告で使用する資料

このように区分して整理すると、どの工程で何を証明するための書類なのかが分かりやすくなります。また、同じ書類を何度も取得する手間も減らせます。

もっとも、相続財産が多い場合や、不動産・預貯金・有価証券など複数の財産について同時に手続を進める場合は、提出先ごとの必要書類や進行状況を管理するだけでも大きな負担になります。
ご自身で進めることも可能ですが、書類の不足や記載内容に不備があると、提出先ごとに補正や再提出を求められ、そのたびに手続全体が遅れることもあります。
手続が複雑になりそうな場合や、できるだけ効率よく進めたい場合は、相続全体を見渡しながら専門家へ相談することも有効な選択肢です。

まとめ

相続手続で必要になる書類は、「戸籍」「印鑑証明書」「住民票」といった書類名だけを見ても判断できません。

まず相続人を確定し、次に相続財産の内容を把握します。その後、誰がどの財産を取得するのかを確定し、その内容を法務局や金融機関、税務署などへ証明するために、それぞれの書類を組み合わせて提出します。

つまり、必要書類は相続手続の流れに応じて決まるものであり、最初から一覧だけを見て集めるものではありません。

また、最初に取得した戸籍や作成した遺産分割協議書は、相続登記、預貯金の払戻し、相続税申告など複数の手続で共通して利用することがあります。相続全体を見据えて書類を区分・整理しておけば、重複した作業を減らし、その後の手続も円滑に進めやすくなります。

相続人の数が多い場合、財産の種類が多い場合、提出先が複数に及ぶ場合は、必要書類の判断や進行管理だけでも大きな負担になります。そのようなときは、早い段階で専門家へ相談することで、書類収集から各種手続まで一貫して進めやすくなるでしょう。