相続手続を始めると、戸籍や印鑑証明書、住民票、遺産分割協議書など、さまざまな書類が必要になります。
しかし、必要書類を一覧で調べても、自分の相続ではどれを用意すればよいのか、どの順番で集めればよいのか分からず、準備が進まないことがあります。
相続手続に必要な書類は、誰が相続人なのか、どのような財産があるのか、誰がその財産を取得するのかによって異なります。さらに、不動産の相続登記や預貯金の払戻しなど、提出先ごとに指定される書類もあります。
この記事では、相続手続の流れに沿って、各書類が何を証明するために必要なのか、どのように収集すればよいのかを解説します。
相続人を確認するための書類
相続手続では、亡くなった方(被相続人)の死亡と、誰が法定相続人になるのかを戸籍によって証明します。遺産分割協議を行う場合には、協議に参加すべき相続人を漏れなく確定する必要があります。
この段階で主に使用する書類は、次のとおりです。
| 書類 | 主に証明する内容 |
|---|---|
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む) | 死亡の事実と法定相続人の範囲 |
| 相続人の現在戸籍 | 相続人であること |
| 被相続人の住民票の除票・戸籍の附票 | 被相続人の住所や住所の変遷 |
| 相続人の住民票 | 財産を取得する相続人の住所など |
被相続人については、死亡時の戸籍から出生時までさかのぼって確認するのが基本です。婚姻や転籍によって戸籍が分かれている場合には、除籍謄本や改製原戸籍も取得します。
また、相続人の範囲によっては、被相続人以外の戸籍も必要です。例えば、子が先に亡くなり、孫が代襲相続する場合には、その親子関係を示す戸籍を収集します。
戸籍と住民票・戸籍の附票では、証明する内容が異なります。 戸籍は親族関係や死亡の事実を示すものであり、住民票や戸籍の附票は住所を証明するために使用します。
例えば、不動産の相続登記では、登記記録に記載された所有者と被相続人が同一人物であることを確認するため、被相続人の住民票の除票や戸籍の附票が必要になる場合があります。また、新たに所有者となる相続人の住所を示す資料も必要です。
このように、実際に収集する戸籍の範囲や住所証明書類は、相続関係と手続内容によって異なります。
※相続人調査や戸籍の収集範囲については、以下の記事で解説しています。
相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか
相続手続きで戸籍はどこまで必要?|集める範囲と取得方法を解説
相続財産を確認するための書類
相続人を確認するための戸籍収集と並行して、被相続人にどのような財産や債務があるかを調べます。財産の種類や内容が分からなければ、遺産分割の対象を確定したり、各財産の承継手続を進めたりできないためです。
調査対象には、不動産のほか、預貯金、有価証券、自動車、負債なども含まれます。
| 財産 | 主な資料 |
|---|---|
| 預貯金 | 残高証明書、通帳など |
| 不動産 | 登記事項証明書、固定資産評価証明書など |
| 株式・投資信託 | 残高報告書など |
| 自動車 | 車検証など |
| 借入金・ローン | 借入残高証明書など |
これらの資料は、財産の存在や内容を調べるだけでなく、その後の手続でも使用することがあります。
例えば、不動産の登記事項証明書では所有者や不動産の表示を確認し、固定資産評価証明書などの評価資料は、相続登記の登録免許税を計算する際に使用します。
また、預貯金の残高証明書は、相続開始時点の残高を把握し、遺産分割や相続税の申告に必要な金額を確認するためにも利用します。
ただし、財産調査のために収集した資料が、そのまま名義変更や払戻しの申請書類になるとは限りません。 実際の承継手続では、財産の取得者を証明する書類と、提出先が指定する申請書類を組み合わせて使用します。
※相続財産の範囲や財産調査については、以下の記事で解説しています。
財産調査が必要となる理由は?|何を相続するのかを確認するため
相続財産とは?|何が相続財産になるのか、借金も含まれるのか
財産を取得する人を証明するための書類
相続財産を誰が取得するのかを証明する書類は、遺言、遺産分割協議、法定相続分のいずれによって承継するかによって異なります。
遺言書で財産の取得者が定められている場合は、その遺言書が承継の根拠となります。一方、遺産分割協議によって取得者を決めた場合には、相続人全員の合意内容を記載した遺産分割協議書を使用します。
主な書類と役割は次のとおりです。
| 書類 | 主な役割 |
|---|---|
| 遺産分割協議書 | 相続人全員が合意した承継内容を証明する |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割協議書に押された実印が本人の登録印であることを証明する |
| 遺言書 | 遺言者が定めた承継内容を証明する |
遺産分割協議書を作成する場合は、相続人全員が実印を押し、通常はそれぞれの印鑑証明書を用意します。印鑑証明書は協議書への押印を証明するものであり、それ自体が財産の取得者を決める書類ではありません。
遺言書によって承継する場合は、遺産分割協議書や相続人全員の印鑑証明書が必要とは限りません。ただし、自宅などで保管されていた自筆証書遺言については、原則として家庭裁判所の検認が必要です。公正証書遺言と、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は、検認を必要としません。
また、遺産分割協議を行わず、法定相続分によって不動産を相続登記する場合には、相続関係と法定相続分を証明する戸籍などを使用します。
このように、遺産分割協議書と遺言書が常に両方必要になるわけではありません。財産の承継方法を明らかにしたうえで、それに対応する書類を準備します。
※遺言書が見つかった場合の対応や遺産分割協議については、以下の記事で解説しています。
遺言書が見つかったらどうする?|最初に確認すべきことと手続の流れ
遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか
提出先ごとに必要となる申請書類・添付資料
相続関係と財産の承継内容を証明する書類に加え、各提出先が指定する申請書類も必要です。
例えば、不動産の相続登記では法務局へ登記申請書を提出し、預貯金の払戻しでは金融機関所定の相続手続書類を使用します。相続税の申告が必要な場合は、税務署へ相続税申告書と必要な添付資料を提出します。
| 財産・手続 | 提出先 | 主な追加書類・資料 |
|---|---|---|
| 不動産 | 法務局 | 相続登記申請書、固定資産税評価額が分かる資料など |
| 預貯金 | 金融機関 | 金融機関所定の相続届など |
| 株式・投資信託 | 証券会社 | 所定の相続手続書類など |
| 自動車 | 運輸支局など | 移転登録申請書、自動車検査証など |
| 相続税申告 | 税務署 | 相続税申告書、財産評価・債務・葬式費用に関する資料など |
表は代表的な書類を示したものです。実際には、遺言書の有無、遺産分割の方法、手続を行う人などによって追加書類が変わります。
預貯金については、遺産分割協議書を作成していない場合でも、金融機関所定の書類や相続人の同意書類などによって手続を進めることがあります。必要書類と提出方法は金融機関ごとに確認します。
不動産の相続登記についても、遺言、遺産分割協議、法定相続分による登記では必要な添付書類が異なります。
また、2024年4月1日から相続登記は義務化されており、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則3年以内に申請する必要があります。 遺産分割が成立した場合には、その成立日から3年以内に分割内容を反映した登記を申請する義務もあります。
2024年4月1日より前に不動産を相続したことを知っていた場合も、未登記であれば2027年3月31日までに相続登記を申請する必要があります。
相続税の申告では、相続財産の内容や評価額に加え、債務、葬式費用、財産の取得状況などを証明する資料が必要です。配偶者の税額軽減などの特例を適用する場合には、その要件を満たすことを示す書類も求められます。
相続税の申告期限は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。 遺産分割が成立していなくても、そのことだけで申告期限が延びるわけではありません。
したがって、申告が必要な場合、遺産分割や名義変更の進行状況にかかわらず、期限までに必要な申告を行います。
提出先ごとの必要書類を調べる際は、書類の種類だけでなく、それぞれの手続に定められた期限も確認しておく必要があります。
※相続手続の期限、印鑑証明書はどこまで必要になるのかについては、以下の記事で解説しています。
相続手続きの期限一覧|相続開始後にやることを時系列で解説
相続手続きで印鑑証明書は何通必要?|有効期限や提出先も解説
複数の相続手続で使用する書類の集め方
最初に取得した戸籍は、相続登記、預貯金の払戻し、相続税申告など、複数の手続で使用することがあります。遺産分割協議書や遺言書も、不動産や金融資産など、複数の財産の承継に共通して使用する重要な書類です。
ただし、提出先によって必要書類の範囲、証明書の発行時期、原本の取扱いが異なります。 同じ書類を複数の手続で使用する場合は、提出先ごとの条件を踏まえて収集する必要があります。
書類は、次の順序で準備すると不足や重複を把握しやすくなります。
- 遺言書の有無と財産の種類を確認する
相続する財産を調べ、法務局や金融機関などの提出先を把握します。 - 相続人と財産を調査する
相続人を証明する戸籍と、財産・債務の内容を調べる資料を並行して収集します。 - 財産の承継方法に応じた書類を用意する
遺言や遺産分割の内容に応じて、遺産分割協議書、印鑑証明書などを準備します。 - 提出先ごとの条件を確認する
必要な申請書類、証明書の発行時期、原本返却の可否を確認します。
例えば、相続登記に添付する遺産分割協議書の印鑑証明書には、発行後3か月以内という制限はありません。一方、金融機関では発行から一定期間内のものを求められる場合があり、早く取得しすぎると再取得が必要になることがあります。
また、戸籍一式を複数の提出先へ提出する場合には、法定相続情報証明制度を利用する方法があります。
これは、収集した戸籍に基づいて法定相続情報一覧図を作成し、法務局の認証を受ける制度です。交付された一覧図の写しは、相続登記や金融機関など、対応する手続で戸籍一式に代えて使用できます。
ただし、一覧図の写しが証明するのは法定相続人の範囲であり、遺産分割協議の内容や遺言による財産の取得者まで証明するものではありません。 それらの書類が必要な手続では、別途提出します。
複数の財産について同時に手続する場合は、共通して使用する書類と提出先固有の書類を分け、原本返却の可否や必要通数を確かめておくと、再取得や提出待ちによる負担を減らせます。
相続財産の種類が多い場合や、複数の金融機関・法務局で手続を行う場合には、提出先ごとの必要書類を調べるだけでも手間がかかります。相続関係や財産の内容によって必要書類を判断しにくいときは、手続内容に応じた専門家へ相談することもできます。
※専門家への依頼については、以下の記事を参考にしてください。
相続手続きは誰に頼む?|行政書士・司法書士・税理士・弁護士の違いを解説