相続手続きで印鑑証明書を用意する際は、相続人全員が何通ずつ取得すればよいのか、金融機関の数だけ必要なのか、いつ取得すればよいのかが問題になります。

誰の印鑑証明書が必要になるかは、遺産分割協議による手続か、遺言による手続かで異なり、提出先によっても必要書類の取扱いが変わります。また、同じ印鑑証明書を複数の手続で使用できるかによって、必要な通数も変わります。

この記事では、相続手続きで印鑑証明書が必要となる人と提出先、必要通数の考え方、有効期限、取得方法について解説します。

相続手続きでは誰の印鑑証明書が必要になる?

印鑑証明書は、市区町村に登録された印鑑が本人の実印であることを証明する書類です。相続手続きでは、遺産分割協議書などに押された実印を確認するために使用します。

誰の印鑑証明書が必要になるかは、財産の承継方法と提出先の手続によって異なります。

遺産分割協議書を使用する相続登記

相続登記に用いる遺産分割協議書には、通常、相続人全員が実印を押印します。法務局では、遺産分割協議に基づく相続登記について、原則として相続人の印鑑証明書を各1通求めています。ただし、登記申請人となる相続人自身の印鑑証明書は、添付を省略できる取扱いです。

例えば、相続人が妻と子2人の計3人で、遺産分割協議によって長男が不動産を取得し、長男自身が相続登記を申請する場合には、妻ともう一人の子の印鑑証明書を添付します。

このように、遺産分割協議書に押された実印を証明するための印鑑証明書は、誰が登記申請人になるかによって、法務局へ添付する相続人の範囲が変わります。

※遺産分割協議については、以下の記事で解説しています。
 遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか

預貯金・有価証券などの相続手続き

預貯金の相続で遺産分割協議書を使用する場合、金融機関によっては相続人全員分の印鑑証明書を求められます。証券会社などでも、相続の内容に応じて提出が必要になることがあります。また、遺産分割協議書を使用しない場合でも、金融機関所定の相続届に相続人全員が実印を押す手続では、全員分の印鑑証明書が必要です。

一方、遺言によって預貯金の取得者が指定されている場合には、取得者や遺言執行者などの印鑑証明書で手続できることがあります。提出する人の範囲は、遺言書の有無や金融機関の手続方法によって異なります。

死亡保険金については、受取人が指定されている生命保険であれば、その受取人が保険会社へ請求します。印鑑証明書を求められた場合も、受取人が用意します。

このため、預貯金や有価証券、生命保険の手続では、それぞれの提出先から必要書類の案内を取り寄せ、誰の印鑑証明書を用意するかを確かめます。

相続税の申告で印鑑証明書が必要になる場合

相続税の申告でも、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを利用する際に、相続人全員の印鑑証明書が必要となる場合があります。例えば、配偶者の税額軽減を受けるために遺産分割協議書の写しを添付する場合は、その協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書も税務署へ提出します。

相続税の申告に必要な印鑑証明書は、適用する特例と添付書類によって決まります。 書面で申告する場合は、税務署へ提出する原本も必要通数の計算に含めます。一方、e-Taxによる申告では印鑑証明書をPDF形式で提出できるため、税務署への提出用として紙の原本を別に用意する必要はありません。

印鑑証明書は何通用意すればよい?

相続人がそれぞれ1通ずつ印鑑証明書を取得しても、すべての相続手続きに対応できるとは限りません。提出先には、不動産の相続登記を行う法務局、預貯金の払戻しを行う金融機関、有価証券の手続を行う証券会社、自動車の相続手続を行う運輸支局等があります。相続税の申告が必要な場合は、税務署への提出も考慮します。

必要通数を判断するうえで重要なのは、各提出先が原本を返却するかどうかと、複数手続を同時に行うかどうかです。

原本の返却を受けられる場合は繰り返し使用できる

金融機関から印鑑証明書の原本の返却を受けられ、次の提出先でもその証明書を使用できる場合は、同じ1通を順番に利用できます。

相続登記でも、遺産分割協議書に添付する印鑑証明書について原本還付を請求すれば、返却を受けられます。
返却された証明書は、金融機関などの別の相続手続でも使用できます。

ただし、原本還付には所定の手続が必要であり、提出先によっては原本が返却されない場合もあります。
また、返却された証明書を次の手続で使用するには、その提出先が定める発行時期の条件も満たしている必要があります。

複数の提出先で同時に手続する場合は通数が増える

複数の金融機関へ同時に印鑑証明書を提出する場合は、それぞれの提出先に原本を用意する必要があります。
例えば、相続人が3人で、2つの銀行がいずれも相続人全員の印鑑証明書を求めている場合です。

両行から原本の返却を受けられるのであれば、各相続人が1通ずつ用意し、順番に手続する方法があります。
一方、2つの銀行へ同時に提出する場合は、各相続人が2通ずつ、合計6通必要です。

さらに、別の提出先でも同時期に原本が必要となる場合は、その分を追加します。ただし、銀行によって印鑑証明書を求める相続人の範囲が異なるため、全員が必ず同じ通数を取得するとは限りません。

必要通数は、次の順序で算定します。
 1. 相続登記、金融機関、証券会社、税務署などの提出先を洗い出す。
 2. 各提出先で誰の印鑑証明書が必要になるかを調べる。
 3. 原本の返却を受けられるかを確かめる。
 4. 順番に提出するか、複数の提出先へ同時に提出するかを決める。
 5. 相続人ごとに、同時に必要となる原本の通数を計算する。

各相続人について、同じ時期に何か所へ原本を提出する必要があるかを数えることで、取得通数を判断できます。

印鑑証明書の有効期限は提出先によって異なる

相続手続きで使用する印鑑証明書は、提出先によって発行時期の条件が異なります。遺産分割協議による相続登記で使用する印鑑証明書について、法務局は「作成後3か月以内」という制限を設けていません。

一方、金融機関では、発行日から6か月以内の証明書を求める場合があり、取引内容によっては3か月以内のものが必要になることもあります。 発行時期の条件は金融機関によって異なるため、提出先ごとに調べる必要があります。

相続開始直後に印鑑証明書をまとめて取得しても、遺産分割がまとまって金融機関へ提出する頃には、その金融機関が定める期間を過ぎ、再取得が必要になることがあります。また、法務局で原本還付を受けた印鑑証明書であっても、金融機関へ提出する時点で発行時期の条件を満たしていなければ、その金融機関では使用できません。

提出先と各手続の見通しを立て、原本返却の可否と発行時期の条件を調べてから取得することで、再取得を避けやすくなります。

印鑑証明書の取得方法と費用

印鑑証明書は、印鑑登録をしている市区町村で取得します。市区町村の窓口で取得できるほか、対応している自治体では、マイナンバーカードを利用したコンビニ交付も利用できます。

窓口での取得には印鑑登録証などが必要となり、コンビニ交付ではマイナンバーカードなどを使用します。
印鑑登録をしていない相続人は、証明書を取得する前に市区町村で印鑑登録を済ませる必要があります。

交付手数料は自治体によって異なります。例えば、神奈川県川崎市では、窓口で取得する場合は1通300円、コンビニ交付では1通200円です。

遺産分割協議を行う場合は、各相続人が自分の印鑑証明書を準備します。相続人が離れた地域に住んでいる場合には、必要な時期と通数をあらかじめ伝え、それぞれ取得してもらいます。

原本の返却を受けながら少ない通数を順番に使用すれば、交付手数料を抑えられます。ただし、返却を待つ間は次の提出先へ原本を提出できないため、複数の金融機関などで並行して手続する場合は、必要な通数をあらかじめ取得する方が効率的です。

※相続手続きで必要となる書類については、以下の記事で解説しています。
 相続手続きに必要な書類一覧|何を集める?どこに提出する?
 相続手続きで戸籍はどこまで必要?|集める範囲と取得方法を解説

提出先と手続の日程に合わせて取得通数を決める

印鑑証明書を取得する前に、相続登記、預貯金の払戻し、有価証券の相続手続、相続税の申告など、予定している手続と提出先を明らかにします。
次に、提出先ごとに必要となる相続人の範囲、原本返却の可否、発行時期の条件を調べます。
これにより、同じ証明書を順番に使用できる手続と、別の原本を用意しなければならない手続を区別できます。

そのうえで、各手続を順番に進めるか、並行して進めるかを決め、相続人ごとの必要通数を計算します。
特に、金融機関などが求める発行時期の条件を踏まえ、実際に提出する時期に合わせて取得することが重要です。

必要通数と取得時期が決まった段階で、各相続人に具体的に伝え、印鑑証明書を準備してもらいます。
原本の返却を利用する場合は、その後の提出先で使用する日程も考慮して手続を進めます。

※専門家へ依頼する際の判断ポイントについては、以下の記事で解説しています。
 相続手続きは誰に頼む?|依頼内容に応じた専門家の選び方