会社を設立して事業を始めるときは、商号、本店、事業目的、出資額、役員などを決めて設立手続を進めます。予定している事業によっては、会社の設立に加えて、事業を開始するための許可・免許・登録・届出なども必要です。
どのような許認可が関係するかは、「IT」「食品」「不動産」といった業種名だけでは決まりません。同じ分野の事業でも、実際に行う取引やサービスによって適用される規制が変わるため、まずは会社が何を事業として行うのかを具体的にする必要があります。
許認可等の対象となる事業では、事業開始までの手続や申請要件もあらかじめ調べておきます。その中に、事業目的、本店・事業拠点、出資・資金、役員・人的体制など会社設立時に決める事項が含まれていれば、設立内容を検討する際にも考慮すべき要素となります。
この記事では、予定している事業にどのような許認可等が関係するのかを調べ、会社設立時に決める事項との接点を見極めたうえで、会社成立後の許認可申請と事業開始までの考え方を解説します。
会社設立前に事業開始までの許認可を調べる
会社設立を考えている段階では、通常、どのような事業を行うのかという事業計画があります。許認可についても、この事業計画をもとに、実際に予定している取引やサービスまで掘り下げて調べます。
ここで明らかにしておきたいのは、予定している事業が許認可等の対象となるか、対象となる場合はどの手続が該当するか、さらに、その手続を終えるまで事業を開始できないのかという点です。
実際に行う事業内容から許認可の要否を特定する
許認可の要否を調べるには、会社が実際に行う取引やサービスの内容まで具体化する必要があります。
たとえば、一般的なソフトウェア開発事業については、ソフトウェアを開発・販売する事業自体を開始するための特別な許認可はありません。中小企業基盤整備機構が運営する中小企業向け情報サイトでも、ソフトウェア開発事業の開業に必要となる許認可は特にないと案内されています。
同じIT分野でも、自社が雇用するエンジニアを顧客企業へ派遣し、その顧客の指揮命令を受けて働かせる場合には、労働者派遣事業に該当するため、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません。
酒類を扱う事業でも、販売方法によって関係する免許が変わります。たとえば、外国からワインを輸入して国内で販売する場合、消費者や飲食店などへの販売には一般酒類小売業免許、広範な地域の消費者等を対象とする通信販売には通信販売酒類小売業免許、酒販店などの酒類販売業者への販売には輸入酒類卸売業免許などが関係します。
このように、商品やサービスの種類に加えて、仕入れ、製造、輸入、販売、仲介、派遣など、会社が実際にどのような行為を事業として行うのかまで具体化することで、対象となる許認可等を特定できます。
許認可の申請要件と事業開始までの手続を調べる
予定している事業が許認可等の対象となる場合には、所管行政庁が公表する法令、審査基準、申請要領、手引きなどをもとに、事業開始までにどのような手続を経るのかを調べます。
主な項目は次のとおりです。
- 許可・免許・登録・届出等の種類
- 申請者・届出者
- 申請先・届出先
- 申請・届出を行える時期
- 許可等を受けるための要件
- 申請時に提出する書類
- 許可等を受ける前に事業を開始できるか
- 会社成立前に準備する事項と、成立後に行う事項
たとえば、酒類販売業を行う場合には、販売場ごとに、その所在地を所轄する税務署長から販売業免許を受けます。申請書に基づき、法律の遵守状況、経営の基礎、販売設備などが税務署で審査される仕組みです。
法人名義で申請する許認可であっても、申請要件は設立前から調べられます。事業目的、営業所・事務所、財産、役員、資格者などが審査対象となる制度では、会社設立時に決めた内容が、その後の申請にも関わってきます。
許認可の申請要件は会社設立時に決める事項にも関係する
許認可によって審査の対象は異なり、事業目的の記載が問われる制度もあれば、営業所・事務所の状況、財産的基礎、役員、資格者などについて条件が設けられている制度もあります。
会社設立時に決める事項との主な接点は、次のとおりです。
| 会社設立時の決定事項 | 許認可との関係で見る事項 |
|---|---|
| 事業目的 | 許認可を受ける事業に対応する目的が定款・登記に求められるか |
| 本店・事業拠点 | 営業所、事務所、店舗等について所在地、使用権限、設備、独立性などの条件があるか |
| 出資・財産 | 資本金、自己資本、純資産、預金残高、事業開始資金などの基準があるか |
| 役員 | 欠格要件、経験、常勤性など、役員に関する条件があるか |
| 人的体制 | 資格者、技術者、管理責任者等について資格、経験、常勤・専任、配置などの条件があるか |
これらの事項がすべての許認可で問題になるわけではありません。予定している許認可の申請要件を調べ、その中に会社設立時に決める事項が含まれているかを見ていきます。
事業目的は許認可申請で求められる内容も考慮する
株式会社では、目的は定款の絶対的記載事項であり、設立登記の登記事項にもなります。
許認可等が必要な事業については、その許認可を所管する行政庁が、定款や登記事項証明書に記載された目的を確認する場合があります。法務局も、官公庁の許認可・登録・届出等が必要な事業について、定款に定める目的に問題がないかを所管官公庁へ事前に確認するよう案内しています。
設立時から行う予定の許認可事業について、申請上求められる目的の表現や範囲がある場合には、その内容も考慮に入れて定款の目的を定めます。
会社成立後に目的を追加することもできますが、株式会社であれば定款変更の手続に加え、登記事項である目的の変更登記も必要です。設立前から許認可との関係を調べておけば、設立直後に目的を追加してから申請するといった手続を避けられる場合があります。
※会社設立の事業目的については、以下の記事で解説しています。
会社設立の事業目的はどこまで書く?|現在の事業と将来の事業の決め方
本店と事業拠点を同じ場所にする場合は物件の条件にも注意する
会社設立時には本店所在地を決めます。一方、許認可制度では、営業所、事務所、店舗、事業所など、実際に事業を行う拠点について独自の条件が設けられていることがあります。
何が求められるかは制度によって異なり、所在地、物件を使用する権限、事務所としての独立性、設備、用途、資格者等の配置などが審査対象となる場合があります。
たとえば宅地建物取引業では、事務所に一定数の専任の宅地建物取引士を置くことが免許要件の一つです。酒類販売業免許も販売場ごとの免許であり、申請時には販売場の敷地や建物の配置、販売設備の状況などに関する資料を提出します。
本店と許認可上の事業拠点を同じ場所にする予定であれば、本店所在地を決める際に、その物件が予定する事業の営業所・事務所・販売場等として使えるかという点も考慮に入れます。 登記上の本店と許認可上の事業拠点では求められる条件が異なるため、物件を契約する段階から両者を区別して見る必要があります。
※本店所在地、事務所・営業所の要件などについては、以下の記事を参考にしてください。
会社の本店所在地はどう決める?|許認可が必要な事業は事務所・営業所の要件も確認
財産要件がある場合は出資額と資金計画への影響を見る
会社設立時には、事業に必要な資金を踏まえて出資額や資本金の額を決めます。予定している許認可に財産的基礎や資金に関する要件があれば、その内容によっては出資額や会社成立後の資金計画にも影響します。
許認可上の財産要件では、資本金のほか、自己資本、純資産、預金残高、資金調達能力、事業開始資金など、制度によって審査の対象が異なります。
たとえば一般建設業の許可では、財産的基礎等の要件として、自己資本が500万円以上であること、500万円以上の資金調達能力を有することなど、複数の基準が定められています。特定建設業には、資本金や自己資本などについて別の基準があります。
財産要件がある場合には、何が審査対象となり、どの時点で基準を満たすことが求められるのかを調べ、その内容も考慮に入れて出資額や資金計画を検討します。 資本金、自己資本、預金残高などでは意味も基準となる時点も異なるため、予定している許認可の基準に沿った判断が必要です。
※株式会社・合同会社の出資と権利の関係については、以下の記事で解説しています。
会社設立の出資割合はどう決める?|株式会社・合同会社で異なる出資と権利の関係
役員や資格者は役職・勤務形態・配置まで申請要件と照らす
許認可によっては、法人の役員や事業に従事する者について、欠格要件、資格、実務経験、常勤性、専任性、配置場所などの条件が設けられています。
たとえば建設業許可では、経営業務の管理体制、営業所技術者等、誠実性などが許可要件となり、法人の役員等が審査に関係する事項もあります。
宅地建物取引業では、事務所に従業者5人に1人の割合で専任の宅地建物取引士を置くことが免許要件となっています。また、法人の役員等についても欠格要件が定められています。
こうした人的要件では、資格を持つ人や一定の経験を持つ人がいるという事実に加えて、その人の役職、勤務形態、常勤・専任の状況、配置先などが審査に関わる場合があります。
会社設立時の役員構成や事業開始時の人員配置が申請要件に関わるのであれば、誰をどの立場で、どの事業所に配置する予定なのかまで申請要件と照らして検討します。 資格、経験、常勤性等について証明資料が求められる場合には、申請時にその事実をどのような資料で示すのかも併せて確認しておきます。
※株式会社の役員構成や機関設計については、以下の記事で解説しています。
株式会社の役員・機関設計はどう決める?|取締役会を置く場合・置かない場合の考え方
許認可との関係も考慮しながら会社設立の内容を検討する
ここまで確認した申請要件のうち、事業目的、本店・事業拠点、出資・資金、役員・人的体制に関係するものを、実際の会社設立内容と照らして検討します。
株式会社は、本店所在地における設立登記によって成立し、設立時に決めた目的、本店、資本金、取締役などが定款や登記に反映されます。これらが予定する許認可の申請要件にも関係する場合には、会社成立後の申請まで見通した設計が必要です。
会社の設立登記と事業に必要な許認可等は、それぞれ別の要件に基づく手続であり、会社が成立しても、必要な許認可等を受けるまでは、その許認可を事業開始の条件とする事業を営むことはできません。
予定している許認可の申請要件が会社設立時の決定事項にも関わる場合には、その内容を設立前に確認し、会社成立後の申請まで見通して設立内容を検討します。
会社成立後に許認可手続を行って事業を開始する
会社成立後は、法人名義で申請する許可・免許・登録等の手続を行います。登記事項証明書や定款のほか、営業所・事務所等、財産状態、役員、資格者等に関する資料を所管行政庁へ提出し、申請時の実態が各制度の要件に適合しているか審査を受けます。
許可・免許・登録等を受けることが事業開始の条件となっている場合には、会社の設立登記が完了した時点では、その事業をまだ開始できません。許認可を受け、制度上求められる開始手続を終えた後に事業を開始します。
会社設立から事業開始までの流れは、次のようになります。
・ 予定する事業内容を具体化する
↓
・ 適用される許認可・登録・届出等を特定する
↓
・ 事業開始までの行政手続と申請要件を調べる
↓
・ 会社設立時に決める事項と申請要件との接点を洗い出す
↓
・ 該当する事項について許認可上の条件も考慮しながら設立内容を検討する
↓
・ 会社を設立する
↓
・ 法人名義で許認可等の手続を行う
↓
・ 事業開始の条件を満たして事業を開始する
※定款作成から出資金の払込み、設立登記までの会社設立手続については、以下の記事を参考にしてください。
会社設立の流れ|定款作成から出資金の払込み・設立登記までを解説
許認可が必要な事業では、事業目的、本店・事業拠点、出資・資金、役員・人的体制など、会社設立時に決める事項がその後の申請要件に関わることがあります。こうした事項については、設立前に申請要件を調べ、その内容も考慮に入れておくことで、会社成立後の許認可申請を見据えて設立内容を検討できます。
※会社設立の全体像や流れなどについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。
会社設立では何を決める?|法人形態の選択から会社ができるまでの流れ
会社設立の定款には何を書く?|必ず記載する事項と会社に合わせて定める事項