個人事業で許認可を取得して営業している方が法人化を考えるとき、気になるのは「今の許認可を法人化しても使えるのか」「会社を設立したら、いつから法人名義で営業できるのか」という点ではないでしょうか。
許認可の切替時期によっては、法人で予定していた受注や営業に影響するため、会社設立と営業主体の変更をどのような順序で行うかが重要になります。
例えば、個人で建設業許可を受けている事業主が株式会社を設立し、これまでと同じ従業員や設備で営業を続ける場合です。代表者や事業内容が変わらなくても、営業する事業者は個人から法人へ変わるため、許認可についても所定の手続が関係します。
個人事業主と設立した法人は法律上別の事業者であり、個人名義の許認可が法人へ自動的に引き継がれることはありません。 ただし、法人への切替方法や営業を開始できる時期は、業種によって異なります。
この記事では、建設業・宅建業・産業廃棄物収集運搬業・古物商の許認可手続を比較し、法人化後も営業を継続するための切替手順と日程の決め方を解説します。
会社を設立しても個人の許認可を法人では使えない
許認可は、営業する事業者の体制や能力などを審査したうえで、その事業者に対して与えられます。そのため、個人事業主が会社を設立しても、個人として受けた許認可の効力が、そのまま法人に及ぶわけではありません。
例えば、個人で古物商許可を受けている人が株式会社の代表取締役になった場合でも、会社が古物の買取販売を行うには法人の許可が必要です。代表者が同じであっても、許可を受けた個人と会社は別の事業者として扱われます。
一方、個人名義の許可が有効で、引き続き個人として許可条件に従って営業する場合は、会社を設立しただけで直ちに営業主体が変わるわけではありません。
つまり、会社の設立日と、実際に営業を法人へ移す日は分けて考える必要があります。 法人で営業を始められる時期は、業種ごとの承継手続や新規許認可の取得状況によって決まるため、会社設立に先立って切替方法を調べておくことが重要です。
※会社設立の流れについては、以下の記事で解説しています。
会社設立では何を決める?|法人形態の選択から会社ができるまでの流れ
法人が営業できるまでに必要な手続
個人事業から法人へ営業を移す場合、建設業では事前認可によって許可上の地位を承継できる一方、宅建業・産業廃棄物収集運搬業・古物商では、法人として新たに許認可を取得します。
法人が営業できる時点も異なるため、まずは業種ごとの違いを把握しておきます。
| 業種 | 法人化時の許認可手続 | 法人が営業できる時点 |
|---|---|---|
| 建設業 | 事前認可による承継が可能 | 認可を受けた事業譲渡の効力発生日 |
| 宅建業 | 法人として新規免許を取得 | 免許取得後、営業保証制度の手続を完了した時点 |
| 産廃収集運搬業 | 法人として新規許可を取得 | 法人の許可が有効になった時点 |
| 古物商 | 法人として新規許可を取得 | 法人の許可が有効になった時点 |
建設業|事前認可を受ければ許可を承継できる
建設業には、事業譲渡などに伴い、建設業者としての地位を引き継ぐ制度があります。個人事業主が法人化する場合も、許可を受けている建設業の全部を法人へ譲渡し、譲渡前に許可行政庁の認可を受ければ、事業譲渡の効力発生日に法人が許可上の地位を承継できます。
例えば、個人で内装仕上工事業の許可を受けている事業主が株式会社を設立する場合、事前に承継認可を受け、認可された事業譲渡日に建設業を法人へ移せば、会社はその日から承継した許可に基づいて営業できます。
ただし、承継先の法人にも建設業許可の要件が求められます。経営業務を適切に管理する体制、営業所技術者等の配置、財産的基礎などについて、法人として要件を満たしていなければなりません。
また、承継制度の対象は原則として許可を受けている建設業の全部であり、一部の許可業種だけを選んで承継することはできません。一般建設業と特定建設業という許可区分の組合せによって承継が制限される場合もあるため、法人へ移したい許可の範囲と区分を踏まえて判断します。
事前認可を受けずに事業を法人へ移した場合、法人は個人名義の建設業許可を使用できず、新規許可の取得が必要になります。
許可を要する規模の工事を法人で請け負う予定があるなら、会社設立や事業譲渡の日程を決める段階で、承継認可を利用できるか許可行政庁に相談しておくことが重要です。
※建設業の許可要件については、以下の記事で解説していますので参考にしてください。
建設業許可制度と申請の流れを徹底解説|制度趣旨から許可要件・手続きまでを整理
宅建業|法人の新規免許と営業保証制度の手続が必要
宅建業には、個人名義の免許を法人へ承継する仕組みがないため、設立した会社が新規免許を取得します。同じ店舗や従業員を引き継ぐ場合でも、法人の事務所、役員、専任の宅地建物取引士などが免許要件を満たしていなければなりません。
専任の宅地建物取引士とは、法令で定められた配置基準に従い、事務所で宅建業の業務に専ら従事する資格者です。法人化に伴って勤務先や雇用関係が変わる場合は、法人での配置要件を満たせるかも調べます。
また、宅建業では、法人の新規免許を取得しただけでは営業を開始できず、営業保証制度に関する手続も必要です。
具体的には、営業保証金を供託するか、宅地建物取引業保証協会へ加入して弁済業務保証金分担金を納付し、いずれの場合も免許行政庁へ所定の届出を行います。
営業保証制度は、宅建業の取引によって生じた一定の債権を保護するための仕組みです。法人の営業開始日を決める際には、新規免許の審査に加え、供託または保証協会への加入と届出に必要な日程も見込んでおきます。
なお、免許行政庁によっては、一定の条件を満たす法人成りについて、個人免許を維持しながら法人の新規免許を申請できる取扱いがあります。
この場合も法人が取得するのは新規免許であり、個人免許を承継するわけではありません。営業の切替時期を検討する際は、申請先の行政庁で法人成りの取扱いを確かめておきます。
※営業保証金の供託や保証協会への加入などについては、以下の記事を参考にしてください。
保証協会とは|営業保証金との違いと加入手続の流れ
産業廃棄物収集運搬業|法人として新規許可を取得する
産業廃棄物収集運搬業でも、個人事業主が法人化する場合は、法人名義で新規許可を取得します。神奈川県の公式案内でも、個人と法人は別人格であるため、法人化した場合には新規許可が必要とされています。
法人の許可申請では、役員等が欠格事由に該当しないことに加え、収集運搬に必要な知識・能力、車両・容器などの設備、経理的基礎が審査されます。欠格事由とは法令上許可を受けられない条件であり、経理的基礎とは事業を継続するための財務面の能力を指します。
例えば、個人事業で使用していた車両を法人へ移す場合には、その車両を法人が適法に使用できることを示す資料が関係します。講習会の修了証についても、法人の申請で認められる対象者のものを用意しなければなりません。
また、収集運搬業の許可は、扱う廃棄物の種類や事業区域などによって範囲が定められています。個人事業で行っていた収集運搬を法人でも継続するのであれば、予定する業務内容と許可区域を照合し、必要な許可を取得してから営業主体を移します。
個人の許可だけで法人が収集運搬を行えば、法人による無許可営業の問題が生じます。
法人で予定している業務に複数の行政庁の許可が必要な場合は、それぞれの申請条件と許可取得までを見通し、法人名義で営業できる時期を判断します。
※産廃収集運搬業の許可要件については、以下の記事で解説しています。
産業廃棄物収集運搬業許可の要件とは|講習・車両・経理的基礎で確認されるポイント
古物商|法人として新規許可を取得する
古物商についても、個人名義の許可を法人名義に書き換えて使用することはできません。代表取締役が個人許可を受けていた本人であっても、会社で中古品の買取販売を行うには、法人として新たに許可を取得します。
法人の許可申請では、役員や営業所ごとの管理者などが審査の対象となります。主たる営業所を管轄する警察署を通じて公安委員会へ申請し、法人の許可を取得してから営業主体を切り替えます。
インターネットショップを運営している場合は、許可取得に合わせて販売主体と表示内容も整えます。古物商のホームページには、許可を受けた公安委員会名、許可証番号、氏名または名称などの表示が求められるため、法人への切替時には新たな許可情報を反映させます。
個人名義の許可証を持っているだけでは、法人として古物営業を行えません。
店舗や在庫を引き継ぐ場合も、法人の許可が有効になる時点を踏まえ、実際に法人として仕入れ・販売を始める日を決めます。
※古物商許可の取得については、以下の記事でわかりやすく解説しています。
古物商許可の取り方|個人・法人で先に整理すべき営業所・販売方法とは
営業主体を個人から法人へ切り替える手順
法人化で営業を途切れさせないためには、会社の設立と許認可の切替を別々に考え、法人が適法に営業できる状態になってから、実際の営業主体を移すことが重要です。
例えば、4月1日に会社を設立しても、法人の産業廃棄物収集運搬業許可が有効になる前は、その会社として許可対象の収集運搬を行えません。
個人名義の許可が有効で、引き続き個人が許可条件に従って営業するのであれば、その間に法人の許認可取得を進め、営業主体を切り替える方法を検討できます。
法人化の準備では、次の順序で必要な事項を調べます。
- 現在の許認可と、法人でも継続する業務を明らかにする
個人名義の許可業種、営業区域、営業所、許可期限などを調べ、法人へ移す業務の範囲を決めます。 - 法人に必要な許認可を特定する
建設業では承継認可を利用できるか、宅建業・産業廃棄物収集運搬業・古物商では法人の新規許認可にどのような要件があるかを調べます。 - 法人が許認可を受けるための体制を整える
役員、資格者、営業所、設備などについて必要な要件を満たし、承継認可または新規許認可の申請に備えます。 - 法人が営業できる日を基準に切替日を決める
建設業では認可を受けた事業譲渡の効力発生日を、その他の業種では法人の許認可と営業開始に必要な手続が完了する時点を基準とします。 - 契約や設備などの移行と、個人事業側の手続を行う
取引先との契約、車両・設備、店舗の表示などを法人の営業開始に合わせて整え、個人事業の廃止に伴う届出や許可証の返納などを行います。
なお、許認可の切替だけで、取引先との契約や営業に使用する財産まで自動的に法人へ移るわけではありません。
例えば、取引先との契約を法人へ引き継ぐ際に相手方の承諾が必要となるかは、契約内容によって異なります。こうした契約上の条件や、車両・設備を法人で使用できるようにするための準備も、営業の切替日を決める際に考慮します。
許認可の手続が整う前に営業主体を法人へ移してしまうと、法人が必要な許認可を持たない状態で営業するおそれがあります。 法人が営業できる時期と、契約や設備を実際に引き継ぐ時期を合わせて計画することが大切です。
許認可取得の見込みから法人化の日程を決める
法人化の日程を決める際は、現在の許認可証を手元にそろえ、法人化後にも継続する業務と、法人名義での営業開始日を確認します。その希望日に営業を切り替えられるかは、許認可の取得までに必要な手続と審査期間によって変わります。
建設業で承継認可を利用する場合は、法人が許可要件を満たせるかを事前に調べ、事業譲渡の日までに認可を受けられるよう日程を組みます。宅建業・産業廃棄物収集運搬業・古物商では、法人の新規許認可を取得し、営業開始に必要な手続を終えるまでの期間を見込んでおかなければなりません。
具体的な日程を組む前に、建設業は承継認可の申請先へ、その他の業種は法人の新規許認可を扱う行政庁へ、申請条件と営業開始までの手続を照会します。その結果を踏まえて、会社設立日、事業譲渡日、個人事業の廃止日を調整します。
会社を設立すれば直ちに法人名義で営業できるわけではありません。 必要な許認可が法人に備わる時期を見極め、その時点に合わせて営業を移すことが、法人化後も事業を空白期間なく継続するための基本となります。