家族が亡くなり、相続手続きを始めようとすると、「専門家に頼まず、自分でできるのでは」と考えることがあります。
戸籍の取得や遺産分割協議書の作成、不動産の相続登記、預貯金の相続手続などは、いずれも相続人本人が行うことが可能です。
ただ、相続手続は一つの申請を終えれば完了するものではありません。遺言書の有無を確認したうえで、相続人を確定し、財産と債務を調べ、財産の承継方法を決めます。その結果を不動産、預貯金、有価証券などの各手続へ反映し、必要であれば相続税の申告も行います。
そのため、自分で手続できるかを判断するときは、個々の書類を作成できるかだけで考えると、途中で必要な手続を見落とすおそれがあります。
この記事では、相続手続きを自分で行う場合に何を管理する必要があるのか、自分で対応しやすいケースと専門家へ依頼した方がよいケースを、相続開始から財産承継までの流れに沿って解説します。
相続手続きの多くは相続人自身で行える
相続人本人が、自ら相続手続きを行うことは可能です。
市区町村から戸籍を取得して相続人を調査し、被相続人の財産を調べたうえで、相続人全員の合意内容を遺産分割協議書として作成します。その後の財産承継についても、不動産があれば法務局へ相続登記を申請し、預貯金があれば金融機関所定の相続手続を行うなど、相続人自身で対応できます。
したがって、「相続が発生したら必ず専門家へ依頼しなければならない」というわけではありません。
ただし、自ら行う場合は、必要な手続を特定し、それぞれの書類を準備するとともに、期限のある手続を管理しながら最後まで完了させる必要があります。
まずは、自ら管理することになる相続手続の全体像を把握しておきましょう。
自分で行う場合は相続手続きの全体像を把握する
相続手続きは、亡くなった方の財産を名義変更するところから始まるわけではありません。
最初に遺言書の有無を確認し、誰が相続人になるのかを調査します。次に、どのような財産と債務が残されているのかを調べ、その結果を踏まえて財産の承継方法を確定し、各財産に応じた手続を行います。
大きな流れを整理すると、次のようになります。
1. 遺言書の有無を確認する
2. 戸籍を収集して相続人を確定する
3. 預貯金、不動産、有価証券などの財産を調査する
4. 借入金などの債務を調査する
5. 遺言書や遺産分割協議によって財産の取得者を確定する
6. 必要な書類を作成・収集する
7. 不動産、預貯金、有価証券、自動車などの承継手続を行う
8. 必要に応じて相続税を申告する
相続の内容によって、必要な手続は変わります。
たとえば、不動産がなければ相続登記は発生しません。相続税の申告が必要ない相続もあります。一方、遺言書がある場合は、その内容に沿って承継する財産と、遺産分割協議が必要な財産を区分する必要があります。
つまり、自ら相続手続きを行うためには、手続方法を知る前に、自分の相続では何をしなければならないのかを特定することが必要になります。
※相続手続きの全体像や制度概要については、以下の記事で解説しています。
「遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか」
相続人の確定がその後の手続の前提となる
相続手続きの前提となるのが、法定相続人の確定です。
被相続人の出生から死亡までの戸籍などを収集し、婚姻、離婚、養子縁組、認知などを含めて親族関係をたどり、その結果から今回の相続に関係する法定相続人を確定します。
本籍地を何度も移していれば、出生から死亡までの戸籍をそろえるために複数の市区町村への請求が必要です。古い戸籍から次の本籍地を特定し、さらに戸籍を請求する作業が続くこともあります。
ここで相続人を一人でも見落とすと、その後の手続に影響します。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、後から別の相続人が判明すれば、それまで行っていた協議をやり直さなければならなくなります。
「家族関係は分かっている」という認識だけで判断せず、戸籍によって法定相続人を確定したうえで、次の工程に移ることが重要です。
※相続人調査に関しては以下の記事で詳しく解説しています。
「相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか」
財産と債務の調査によって承継対象を把握する
相続人を確定したら、被相続人が死亡時に保有していた財産と債務を調査します。
預貯金については、通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などを手掛かりに口座を把握します。不動産については、登記事項証明書や固定資産関係の資料などから所有状況を調査します。
株式や投資信託などの有価証券、自動車、保険金、貸付金なども調査の対象です。同時に、住宅ローンやその他の借入金、未払金などの債務も調べます。
財産調査が不十分なまま遺産分割を行うと、後から別の預金や不動産などが見つかり、その財産について改めて承継方法を決めなければならないことがあります。さらに、債務の状況は、相続するか、相続放棄などを検討するかという判断にも関係します。
したがって、目の前にある財産を順番に名義変更するのではなく、まず財産と債務の全体を把握し、その後の判断に必要な情報を揃えます。
※財産調査が必要となる理由などについては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
「財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために」
遺言書の有無によって財産の承継方法が変わる
相続人と財産を把握したら、誰がどの財産を取得するのかを確定します。
遺言書がある場合はその内容を確認し、取得者が指定されている財産と、遺産分割協議が必要となる財産を区分します。遺言書によって取得者が決まっている財産は、その内容に従って承継します。
遺言書で取得者が決まっていない財産があれば、その財産について相続人全員で遺産分割協議を行います。遺言書がなく、遺産を法定相続分とは異なる割合で分ける場合なども、相続人全員による遺産分割協議が必要です。
協議が成立したら、その内容を遺産分割協議書として作成します。ここで確定した内容が、その後の不動産や預貯金などの承継手続の前提となります。
自ら手続する場合は、財産ごとに何を根拠として取得者が決まっているのかを明らかにし、その内容を実際の名義変更などに正しく反映させる必要があります。
※遺言書がある場合でも遺産分割協議が必要なケースについては、以下の記事で解説しています。
「遺言書があれば遺産分割協議は不要?|必要になるケースも解説」
取得者の確定後は財産ごとの承継手続へ移る
財産の取得者が確定したら、実際の名義や管理を取得者へ移します。
ここからは、財産によって手続先や必要書類が変わります。不動産であれば法務局へ相続登記を申請し、預貯金であれば各金融機関へ相続関係を証明する書類などを提出して、解約や名義変更を行います。
株式や投資信託などがあれば証券会社等で所定の手続を行い、自動車があれば登録名義を変更します。
同じ相続で使用する戸籍や遺産分割協議書であっても、提出先によって必要書類や求められる手続が同じとは限りません。
そのため、「遺産分割協議書を作ったから終わり」と考えず、確定した取得内容を各財産の名義や権利関係へ反映させるところまで管理します。相続手続きの完了は、書類を作成した時点ではなく、財産の承継が実際の名義や権利関係へ反映されたところまでを見て判断します。
相続放棄や相続税申告などの期限は個別に管理する
相続手続きには、期限が定められているものがあります。
代表的なものとして、相続放棄は原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内、相続税の申告・納付は原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
また、不動産を相続した場合の相続登記についても、原則として相続による所有権取得を知った日から3年以内に申請する義務があります。
相続放棄や相続税申告などの期限は、戸籍収集や財産調査など他の相続手続が終わるまで待ってくれるわけではなく、その間にも期限は到来します。
そのため、相続手続全体とは別に期限のある手続を洗い出し、「いつまでに何を判断し、何を提出する必要があるのか」を管理しなければなりません。特に、債務が多い可能性がある場合や、相続税申告が必要になりそうな場合は、期限から逆算して早めに判断する必要があります。
※相続手続きにおける期限管理については、以下の記事で時系列に解説していますのであわせてご覧ください。
「相続手続きの期限一覧|相続開始後にやることを時系列で解説」
相続関係と財産が明確であれば自分で対応しやすい
相続手続きを自分で行いやすいのは、必要な調査や判断を比較的明確にできるケースです。
たとえば、相続人が少なく、その関係を戸籍で把握しやすい場合が挙げられます。相続人同士で遺産の分け方について合意できており、争いがないことも、自ら手続しやすい要素となります。
財産についても、預貯金や自宅などの所在を把握しており、借入金などの状況も明らかであれば、必要な手続を特定しやすくなります。さらに、平日に市区町村、法務局、金融機関などへ問い合わせたり、必要書類を取得したりする時間を確保できることも重要です。
したがって、自分でできるかを判断するときは、相続の全体像を把握しやすく、必要な手続を特定して最後まで管理できる状態か否かを基準に考えます。
専門家への依頼は、相続の難しさと手続の負担を踏まえて判断する
相続手続を専門家へ依頼するかどうかは、相続関係や財産内容の複雑さだけで決まるものではありません。
相続人が多い、財産の所在が分からない、遺産分割で意見がまとまらないといった事情があれば、専門的な判断や対応が必要になることがあります。一方、相続関係や財産内容が比較的単純であっても、戸籍の収集、財産調査、書類作成、各窓口への提出などを自分で行えば、それぞれに時間と手間がかかります。
そのため、「自分で手続できるか」だけでなく、「どこまで自分で対応するか」という観点から依頼する範囲を考えることが重要です。自分で対応できる手続であっても、仕事や家事との兼ね合いから専門家へ任せる選択肢があります。反対に、すべてを依頼するのではなく、自分で対応できる部分は自分で行い、書類作成など一部の手続だけを依頼する方法もあります。
専門家への依頼を検討するときは、相続の複雑さに加えて、必要となる手続の量、期限、自分で調査や書類作成を行う時間、手続先とのやり取りに要する負担などを踏まえ、どこまで自分で対応するかを決めます。
そのうえで、自分で対応する部分と専門家へ任せる部分を分ければ、必要以上に依頼範囲を広げることなく、自分にとって負担の大きい手続を専門家へ任せることができます。
※専門家へ依頼する場合の考え方や違いなどについては、以下の記事で解説しています。
「相続手続きは誰に頼む?|行政書士・司法書士・税理士・弁護士の違いを解説」
まとめ|自分で行うかは相続全体を管理できるかで判断する
相続手続きの多くは相続人自身で行えますが、その場合は、個々の申請だけでなく、相続人の確定、財産・債務の調査、取得者の確定、書類作成、各財産の承継、期限管理までを一連の手続として管理しなければなりません。
相続関係が明確で、財産を把握しており、必要な手続と期限も自ら判断できるのであれば、専門家へ依頼せずに対応することも可能です。
一方、何から調べればよいのか分からない、財産の全体像を把握できていない、平日に手続する時間を取りにくいといった場合には、相続そのものが複雑でなくても専門家へ依頼するメリットがあります。
また、途中から専門家へ依頼することも可能ですが、その場合は、それまでの調査や作成書類を改めて精査する工程が生じます。早い段階から専門家へ相談する場合は、その後の遺産分割や財産承継を見据えて、必要な調査や書類を準備しやすくなります。
「自分でできる相続か」と「自分でやった方がよい相続か」は、必ずしも同じではありません。
費用だけで判断せず、自ら調査・判断・手続・期限管理を行う時間と負担まで含めて比較することが大切です。
相続手続の全体像がまだ見えていないのであれば、すべてを自分で調べてから相談する必要はありません。最初の段階で行政書士へ相談し、行政書士が対応できる手続と、他の専門家への相談が必要な手続を整理することで、その後に必要となる対応を見通しやすくなります。
※相続手続を行政書士に依頼する場合については、以下の記事を参考にしてください。
「相続手続で行政書士へ依頼できるのはどんなこと?」