相続手続を始めるにあたり、専門家に依頼せず、自分で進めたいと考える方もいるでしょう。費用を抑えられる一方で、どこまで自分で対応できるのか、難しい手続だけを専門家に任せられるのかは、事前に知っておきたいところです。

戸籍の取得や遺産分割協議書の作成、不動産の相続登記、預貯金の相続手続などは、相続人本人が行うことも可能です。ただし、必要な調査や書類作成に加え、財産の分け方を決める手続や法定期限も把握しなければならず、相続人や財産の状況によっては専門家への依頼が適している場合もあります。

この記事では、自分で相続手続を進めるために必要な作業を説明し、自分で対応しやすいケースと専門家へ依頼した方がよいケース、依頼する範囲の決め方を解説します。

相続手続の多くは相続人自身で行える

相続人本人であれば、相続関係や財産の調査から、遺産分割協議書の作成、財産の名義変更や払戻しまで、多くの手続を自分で行えます。ただし、財産を取得するまでに必要な作業は、遺言書の有無や財産の種類によって異なります。

まず、戸籍を取得して相続人を調べるとともに、被相続人が残した財産や債務、遺言書の有無を確認します。
遺産分割協議が必要であれば、相続人全員で誰がどの財産を取得するかを決め、その合意内容を遺産分割協議書にまとめます。

取得者が決まった財産については、不動産なら法務局へ相続登記を申請し、預貯金なら金融機関所定の手続を行います。これらの申請に必要な書類も、相続人自身で準備できます。

提出する書類は、財産を取得する根拠によって変わります。例えば、遺言書で不動産の取得者が指定されていれば、その内容に応じた相続登記を申請します。一方、相続人全員の話合いで取得者を決めたときは、遺産分割協議書などを作成し、登記や預貯金の払戻しに使用します。

また、相続手続には、法律で期限が定められたものがあります。

相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述します。相続税の申告・納付が必要なときは、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内が期限です。不動産を相続した場合も、原則として相続による所有権取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。

特に、借入金などの債務が多い可能性があるなら、相続放棄を選ぶかどうか判断するため、早めに財産と債務を調べる必要があります。調査を続けても判断材料が揃わないときは、3か月の熟慮期間内に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる方法もあります。

自分で相続手続を行う場合は、書類の収集や作成、申請だけでなく、期限に間に合うよう各手続の順序を組み立てることも必要です。

※相続手続の全体像や制度概要、期限などについては、以下の記事で解説しています。
 遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか
 相続手続きの期限一覧|相続開始後にやることを時系列で解説

相続関係と財産が明確であれば自分で対応しやすい

相続手続を自分で行いやすいのは、相続人や財産の状況が明確で、必要な調査や書類の準備を比較的円滑に行える場合です。

相続人が少なく、戸籍から相続関係を把握しやすければ、調査の範囲を見通しやすくなります。また、預貯金や自宅などの所在が分かり、借入金などの債務も明らかであれば、必要な手続と提出先を特定しやすくなります。相続人同士で財産の分け方に合意できていることも、自分で対応するうえで重要な条件です。

例えば、相続人が配偶者と子の二人で、財産が自宅と預貯金だけの場合を考えてみましょう。戸籍によって相続人を確認でき、財産の所在も分かっていて、二人が分け方に合意していれば、必要な書類を揃えて相続登記や預貯金の払戻しを行いやすくなります。

ただし、そのような相続でも、遺産分割協議書の内容が実際の取得内容と一致しているか、法務局や金融機関で求められる書類が揃っているかなどは、相続人自身で確かめなければなりません。

手続に充てる時間を確保できるかも重要です。戸籍の取得や書類の提出に加え、平日に市区町村、法務局、金融機関などへ問い合わせる場合もあるため、相続関係や財産が比較的単純でも、手続先が多ければ相応の時間と手間がかかります。

自分で対応するかどうかは、相続関係や財産の複雑さに加え、書類収集から申請までの作業に必要な時間を確保できるかを踏まえて判断します。

専門家へ依頼した方がよいのはどのようなケースか

専門家への依頼を考える際は、相続手続のどの段階で支援が必要なのかを見極めます。相続人や財産の調査が難しいのか、遺産分割で意見が対立しているのか、専門的な申告や登記に対応できないのかによって、相談先や依頼する内容が異なるためです。

相続人や財産の調査が複雑な場合

被相続人に複数の婚姻歴がある場合や、兄弟姉妹・甥姪まで相続関係を調べる場合には、収集する戸籍が増え、誰が相続人になるのかを確定するまでに時間を要します。

相続人を一人でも見落とすと、その後の遺産分割にも影響します。遺産分割協議には相続人全員の参加が必要なため、後から別の相続人が判明すれば、それまでの協議をやり直さなければなりません。

財産調査についても、通帳や不動産関係の資料が見つからず、財産の内容が分からなければ、金融機関への照会や不動産の調査から始めることになります。借入金の有無を把握できないときは、相続放棄の判断に必要な資料を揃えることも難しくなります。

こうした調査を自分で行うことが難しければ、相続人調査や財産調査を専門家に依頼することで、その後の遺産分割や承継手続に使用する資料を揃えやすくなります。

※相続人調査や財産調査の内容については、以下の記事で解説しています。
 相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか
 財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために

相続人同士で遺産分割の意見が対立している場合

相続人の間で不動産の取得者や預貯金の分け方について意見が対立すると、合意が成立するまで遺産分割を終えられません。

例えば、長男が自宅の取得を希望する一方、他の相続人が売却して代金を分けるよう求めている場合、双方の希望が一致しなければ、財産の評価や分割方法も含めて協議することになります。

このように相続人間で法的な争いが生じている場合は、弁護士への相談が適しています。弁護士は相続人の代理人として交渉でき、話合いで解決できないときには、遺産分割調停などの裁判所の手続にも対応できます。

相続人全員がすでに合意した内容を遺産分割協議書にまとめる場合と、意見の対立を解消するために交渉する場合では、専門家に依頼する内容が異なります。 書類作成だけを任せたいのか、相手方との交渉が必要なのかを区別することが、相談先を選ぶ際のポイントです。

相続税申告や期限のある手続に不安がある場合

相続税の申告は相続人本人でも行えますが、土地や非上場株式などが含まれる相続では、財産評価や税額計算に専門的な判断を要することがあります。申告・納税の期限は原則として10か月であるため、必要な作業を自分で終えられるか不安があれば、税理士への依頼を検討します。

また、借入金などの債務が多く、相続放棄を考えている場合には、熟慮期間内に判断できるかが問題となります。債務の調査が進まないまま期限が迫っているのであれば、相続放棄の申述や期間伸長の申立てについて、司法書士や弁護士へ早めに相談することが考えられます。

不動産の相続登記についても、書類の収集や申請書の作成を自分で行うことが難しい場合は、司法書士へ依頼することになります。

期限のある手続については、自分で作業できるかに加え、期限までに必要な判断や申請を終えられるかを基準に依頼を検討します。

専門家へ依頼する範囲はどのように決めるか

相続手続を専門家に依頼するからといって、すべての作業を任せる必要はありません。自分で対応できる部分を残し、負担が大きい業務や専門的な知識が必要な手続だけを依頼する方法もあります。

例えば、戸籍の収集や財産調査を自分で行い、遺産分割協議書の作成だけを行政書士へ依頼する方法もあります。
また、不動産の相続登記は司法書士、相続税申告は税理士へ依頼するなど、手続内容ごとに専門家を選ぶこともできます。

その際には、依頼内容が各専門家の取扱範囲に含まれているかを確かめます。例えば、行政書士は相続人調査や財産調査、相続人全員が合意した内容に基づく遺産分割協議書の作成などを扱えますが、相続人間の紛争について代理交渉することはできません。遺産分割協議書の作成を依頼する場合も、相続人全員の合意が成立しているかによって対応が変わります。

依頼したい内容が決まったら、専門家に任せる手続と相続人自身で行う手続を分け、費用を確認します。自分で対応できる部分を残せば依頼費用を抑えられますし、仕事や家事で十分な時間を確保できなければ、各専門家の業務範囲に応じて書類収集や申請などを任せる方法もあります。

なお、自分で調査や書類作成を進めた後に専門家へ依頼する場合は、それまでに集めた資料や作成書類を確認する必要が生じます。不足する戸籍や財産資料があれば追加取得が必要になるため、依頼範囲を決める際には、すでに進めた作業の確認も含めて相談するとよいでしょう。

必要な手続の範囲と、自分で確保できる時間を照らし合わせることで、費用と作業負担のバランスを取りながら依頼内容を決められます。

※専門家ごとに依頼できる内容の違いについては、以下の記事で解説しています。
 相続手続きは誰に頼む?|依頼内容に応じた専門家の選び方
 相続手続で行政書士へ依頼できるのはどんなこと?

相続内容と自分で対応できる範囲から判断する

相続手続を自分で行うか判断するには、まず遺言書の有無、相続人、財産と債務を調べ、必要な手続を洗い出します。そのうえで、遺産分割の合意状況や申告・登記などの期限を踏まえ、自分で対応する範囲を考えます。

相続関係や財産が明確で、必要書類の準備や申請に充てる時間も確保できるなら、自分で行うことも選択肢となります。一方、調査が複雑な部分や相続人間で争いのある部分、期限内の申請が難しい部分については、それぞれの業務に対応できる専門家へ依頼することで負担を減らせます。

相続手続は、自分ですべて行うか、専門家にすべて任せるかの二者択一ではありません。 相続内容と手続の期限、自分で確保できる時間を踏まえ、必要な部分だけを依頼することも含めて判断します。