相続が始まると、戸籍の取得手数料や不動産の管理・修繕費、専門家報酬、相続税など、さまざまな支払いが発生します。葬儀費用を家族の一人が立て替えたり、相続手続を代表して担当する相続人が必要な実費を支払ったりすることもあるでしょう。
こうした支出については、相続人全員で分担するのか、立て替えた相続人は他の相続人に請求できるのか、被相続人の預貯金から支払ってよいのかなど、判断に迷う場面があります。相続に関係する支出でも、その種類によって負担者を決める根拠は異なります。
相続費用の負担者は、支出の性質、法律上の義務、契約関係、相続人間の合意によって決まります。 実際の支払者と最終的な負担者が一致するとは限らないため、それぞれの負担額を確かめ、必要に応じて精算することになります。
この記事では、相続に伴う主な支出を6種類に分け、負担者の判断基準、立替払いの精算方法、相続財産から支払う場合の注意点を解説します。
相続費用は6種類に分けて負担者を判断する
相続に伴う支出については、まず発生した理由と支払義務の根拠を確認します。例えば、被相続人が生前から負っていた借金は相続による債務の承継が問題となりますが、相続開始後に依頼した専門家への報酬は、依頼契約の内容によって負担者を判断します。
主な支出は、次の6種類に分けられます。
| 支出の種類 | 主な例 | 負担者を決める基準 |
|---|---|---|
| 被相続人の債務 | 借入金、未払金 | 債務の性質と相続による承継関係 |
| 相続財産の維持・管理費 | 建物の応急修理費、財産の管理費 | 遺産の維持に必要な支出か、個人のための支出か |
| 相続手続の実費 | 戸籍取得手数料、郵送費 | 共通の手続か個別の手続か、実費の分担について合意があるか |
| 専門家報酬 | 行政書士、司法書士、税理士、弁護士への報酬 | 依頼者と依頼内容、報酬の分担について合意があるか |
| 相続税 | 各人が納める相続税 | 各人の納付税額と連帯納付義務 |
| 葬儀費用 | 葬儀社への支払い、火葬費用など | 契約・支払関係と相続人間の合意 |
費用を精算する際には、法律上または契約上の支払義務と、実際の立替払いを区別する必要があります。
相続人の一人が全額を立て替えても、最終的な負担額は法律上の義務や相続人間の合意によって変わります。相続に関係する支出だからといって、他の相続人へ当然に均等請求できるものでもありません。
こうした違いを踏まえ、支出の性質に応じて負担者を判断し、立替額の精算や相続財産からの支払いを考えます。
被相続人の借入金や未払金は相続する債務として扱う
被相続人が生前から負っていた借入金や未払金は、相続の対象となる債務です。債務とは、借りたお金を返す義務や、未払いの代金を支払う義務などをいいます。
相続財産を調べる際には、預貯金や不動産などのプラス財産とともに、借入金、医療費などの各種代金の未払い、税金の未納なども確認します。これらについては、被相続人が負っていた義務を誰が承継するのかが問題となるため、相続開始後に発生した手続上の支出とは扱いが異なります。
金銭債務は原則として法定相続分に応じて承継する
一般的な金銭債務は、相続開始によって各相続人に法定相続分に応じて承継されます。法定相続分とは、民法が定める相続人ごとの相続割合です。
例えば、被相続人に300万円の借入金があり、相続人が子2人であれば、原則として各人が150万円ずつ承継します。
相続人同士で「一人が借金をすべて負担する」と合意した場合でも、その合意だけで債権者に対する他の相続人の責任がなくなるわけではありません。
債権者に対する支払義務は相続による承継関係に従い、相続人間で最終的な負担を調整する場合には、その合意も考慮する必要があります。 一人が全額を支払う予定であれば、相続人間の合意に加えて、債権者との関係も確かめておきます。
債務が多い場合は相続の方法を先に判断する
財産より債務が多い可能性がある場合には、相続放棄や限定承認が選択肢になります。
相続放棄は相続人としての地位を放棄する手続であり、限定承認は相続によって得た財産の範囲で債務などを清算することを基本とする手続です。
これらの手続には、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内という期間があります。債務の全体像が分からない場合には、借入先や未払先、残高を調べたうえで、相続の方法を判断しなければなりません。
借金の分担方法を話し合う前に、相続を承認するかどうかの判断が必要になる場合もあります。相続放棄や限定承認を検討するときは、熟慮期間を意識しながら財産と債務の調査を進めます。
※相続放棄については、以下の記事を参考にしてください。
相続放棄とは|初めから相続人ではなかったことになる制度
相続財産の維持・管理費は支出目的によって負担が変わる
遺産分割や名義変更が終わるまでの間も、不動産などの相続財産を維持・管理しなければならない場合があります。支出目的が財産の維持にあるのか、特定の相続人による利用にあるのかによって、負担の考え方も変わります。
民法では、相続財産に関する費用は、原則として相続財産の中から支弁すると定められています。支弁とは、必要な費用をその財産から支払うことをいい、相続人の過失によって生じた費用などは別に扱われます。
例えば、相続した建物に雨漏りがあり、損傷の拡大を防ぐために応急修理をした場合、その修繕費は相続財産を維持するための支出として考えられます。これに対し、建物を取得予定の相続人が、自分で住むために壁紙や設備を好みに合わせて交換した場合には、個人的な利用を目的とした支出として扱う必要があります。
負担者を判断する基準は、何のために支出したのかという点です。 財産を維持するための管理費や修繕費であれば相続財産からの支払いを検討し、個人的な利用を目的とした支出であれば、その相続人の負担や相続人間の合意を踏まえて扱います。
相続人の一人が管理費や修繕費を立て替える場合には、対象となった財産、修理や管理の目的、支出額を記録しておきます。高額な修繕を予定しているときは、実施前に他の相続人へ内容を共有し、修繕の必要性、実施する相続人、支払方法、後日の精算方法について合意しておくことが重要です。
戸籍取得費や郵送費は誰の手続に必要だったかで分ける
相続手続では、相続人を確定するために戸籍を収集します。被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどり、相続人についても必要な戸籍を取得します。必要な戸籍の数は、転籍や代襲相続などの事情によって異なります。
代襲相続とは、本来相続人となる人が先に亡くなっている場合などに、その子などが代わって相続人となる仕組みです。相続人の構成によって必要な戸籍が変わるため、取得手数料の合計も変わります。
また、不動産の名義変更や預貯金の払戻しでは、印鑑証明書や住民票などが必要になることもあり、相続人の一人が代表して取得する場合には、その相続人が手数料や郵送費をいったん支払うことがあります。
戸籍取得手数料や郵送費を分担する際は、その書類が共通の手続に必要だったのか、特定の相続人のために取得されたのかを確認します。 相続手続に必要だったというだけで、全員に均等な負担義務が生じるわけではありません。
例えば、相続人を確定するための共通資料について全員で実費を分担する場合には、負担割合を合意しておきます。特定の相続人の名義変更に必要な書類については、その手続に伴う実費として、負担者を個別に判断します。
後日の精算に備えて、取得した書類、取得先、手数料、郵送費を記録し、共通と個別の実費を分けて管理しておきます。
※必要書類については、以下の記事で解説しています。
相続手続きに必要な書類一覧|戸籍・印鑑証明・住民票などを解説
専門家報酬は誰が何を依頼したかで負担者を判断する
相続手続を専門家へ依頼すると、その業務に応じた報酬が発生します。相続人や財産の調査、書類作成、不動産の相続登記、相続税申告、相続人間の紛争対応など、必要な手続によって依頼先と報酬内容は異なります。
例えば、戸籍収集や遺産分割協議書などの書類作成は行政書士、不動産の相続登記は司法書士、相続税申告は税理士、相続人間の代理交渉や遺産分割調停への対応は弁護士というように、業務ごとに専門家の役割が分かれます。行政書士に依頼したからといって、相続登記や税務申告、紛争の代理交渉まで一括して行えるわけではありません。
専門家報酬の負担を判断するときは、依頼者、依頼内容、相続人間で報酬を分担する合意があるかを確かめます。原則として、専門家への報酬支払義務は委任契約を結んだ依頼者が負います。
例えば、相続人の一人が自分の判断で専門家へ依頼した場合、その業務が他の相続人にも役立ったというだけで、全員にその報酬の分担義務が生じるわけではありません。全員で報酬を分担する予定であれば、依頼する前に契約当事者、業務範囲、報酬額、負担割合を決めておきます。
複数の専門家が関与する場合も、それぞれの依頼内容と報酬の負担者を確認します。共通して依頼した業務と、特定の相続人だけが依頼した業務を区別しておけば、後日の精算もしやすくなります。
※専門家への依頼については、以下の記事で解説しています。
相続手続きは誰に頼む?|行政書士・司法書士・税理士・弁護士の違いを解説
相続税は財産取得者ごとに納付税額を計算する
相続税の申告が必要な場合には、相続や遺贈によって財産を取得した各人の税額を計算します。遺贈とは、遺言によって財産を取得させることです。
相続税は、相続税の総額を計算した後、各人が実際に取得した財産の割合などに応じて、それぞれの納付税額を算出します。そのため、相続人が複数いる場合でも、取得した財産の内容によって各人の納付税額は異なります。
各人の納付税額を個別に算出する一方、相続税には連帯納付義務も定められています。 同じ被相続人から財産を取得した者などは、一定の範囲で互いの相続税について連帯して納付義務を負うことがあります。
連帯納付義務とは、一定の要件のもとで、ほかの相続人などの相続税についても納付義務を負う仕組みです。このため、各人の納付税額に加え、ほかの相続人の納税状況が関係する場合もあります。
相続税の申告と納税期限は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産分割が終わっていなくても、申告期限が延長されるわけではないため、申告が必要な場合には未分割の状態での申告・納税も含めて対応を検討します。
相続税の申告が必要か、各人の納付税額がいくらになるか、連帯納付義務がどのように関係するかは、取得財産や相続人の状況によって変わります。具体的な税額計算や申告について判断が必要な場合には、税理士へ依頼することになります。
葬儀費用は契約上の負担と相続税上の扱いを分ける
相続開始直後には、葬儀社への支払いや火葬費用などが発生することがあります。相続人の一人が葬儀の手配を行い、葬儀代金を立て替えている場合もあるでしょう。
葬儀費用の負担は、葬儀社との契約関係や実際の支払状況、相続人間の合意を踏まえて判断します。相続人全員に当然に均等な負担義務が生じるわけではないため、複数人で分担する場合には、負担額について合意しておく必要があります。
相続税の計算では、一定の葬式費用を取得財産の価額から控除できる場合があります。控除とは、税額計算の基礎となる金額から、一定の金額を差し引くことです。
相続税上の葬式費用には、お通夜・告別式、火葬・埋葬・納骨、遺体や遺骨の回送、読経料などに関する費用が含まれます。一方、香典返し、墓石や墓地の購入、初七日や法事などの費用は、相続税上の葬式費用には含まれません。
相続税上の控除可否と、葬儀費用の負担者は、それぞれ異なる基準で判断します。 税額計算で控除が認められる場合でも、それによって相続人間の負担額が決まるわけではありません。
葬儀代金を立て替えた場合には、支払先、金額、支払者を記録し、領収書などを残します。相続税の申告が必要な場合は、税務上控除できる葬式費用を別に区分し、必要に応じて税理士へ依頼します。
立替払いは負担者を決めてから精算し、相続財産からの支払いは払戻し方法も確認する
相続人の一人が代表して手続を進める場合には、戸籍取得手数料、郵送費、財産管理費などを先に支払うことがあります。立替額の精算では、支出の性質と最終的な負担者を確かめ、各相続人が負担すべき金額を計算します。
立替払いは共通費用と個別費用を分けて精算する
立替払いをした場合には、支払日、支払先、内容、金額、支払者を記録し、領収書などを保管します。そのうえで、法律上の支払義務や相続人間の合意を確かめ、立替者自身が負担する金額と、他の相続人が負担する金額を分けます。
例えば、相続人3人が戸籍取得などの共通実費3万円を均等に負担すると合意し、その全額を一人が立て替えたとします。この場合、残る2人がそれぞれ1万円ずつ立替者へ支払えば精算できます。
特定の相続人が自分のために依頼した専門家報酬などについては、依頼契約の内容や分担の合意を確かめる必要があります。支出ごとの負担額を明らかにし、それに従って精算額を計算します。
相続財産から支払う場合は財産を動かせる人と方法を確認する
相続財産から支出する場合には、その支出を相続財産から賄えるかを判断し、預貯金の払戻しや財産の処分に必要な権限と手続も確認します。
例えば、被相続人の預貯金から支払う場合は、遺産分割前の預貯金をどのように払い戻すかが問題になります。相続人全員の同意による払戻しや、法定の遺産分割前の預貯金払戻し制度など、利用できる方法に従う必要があります。
遺産分割前の預貯金払戻し制度は、一定の範囲で、遺産分割が終わる前でも相続人が預貯金の払戻しを受けられる仕組みです。利用できる金額や手続には条件があるため、対象口座を扱う金融機関などで必要書類と払戻し方法を確かめます。
ただし、この制度で払い戻した預貯金は、払い戻した相続人が遺産の一部として取得したものとみなされます。共通の実費や管理費の支払いに充てる場合には、その使途を記録し、他の相続人との精算についても確認しておく必要があります。
相続財産から支払った金額については、支出内容と支払後の財産残高を記録しておきます。 遺産分割の際にどの支出を考慮するかも相続人間で合意しておけば、同じ支出を再度精算したり、財産残高について認識が食い違ったりすることを防ぎやすくなります。
※遺産分割協議については、以下の記事を参考にしてください。
遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか
まとめ|費用の性質から負担者を判断し、支払方法と精算方法を決める
相続費用の負担を考えるときは、まず被相続人が残した借入金や未払金と、相続開始後に発生した支出を分け、それぞれの内容と支払者を記録します。
次に、法律や契約によって支払義務が決まるものと、相続人間の合意によって分担額を決めるものを区別します。 すでに立替払いが行われている場合には、各相続人の負担額を確かめて精算し、これから高額な修繕費や専門家報酬を支払う場合には、事前に負担割合と精算方法を合意しておきます。
相続財産から支払う予定であれば、その支出を相続財産から賄えるかを判断するとともに、預貯金の払戻しなどを行うための権限と方法も確かめます。
「何の支出か」「誰が支払ったか」「誰のための支出か」「分担の合意があるか」を種類ごとに整理すれば、法律上の支払義務と相続人間で取り決める負担額を踏まえ、適切な精算方法を判断できます。
※相続手続の全体像については、以下の記事を参考にしてください。
相続手続きは何から始めるか|親が亡くなった後に家族がたどる順番とその理由