はじめに|「この人で申請できるか?」が最初の壁になる

建設業許可において、最初に直面する大きな壁のひとつが、
「経営管理責任者に該当する人がいるか」という問題です。

もっとも、現在の制度ではこの表現は正確ではありません。
令和2年法改正により、この要件は「適正な経営体制があるか」という形に整理されています。

つまり、特定の“役職”の有無ではなく、
「経営を適切に行う体制が構築されているか」が問われる仕組み
です。

本記事では、神奈川県の手引きをベースに

・「適正な経営体制」とは何か
・どのような人が該当するのか
・実務上どのように判断するのか

について、制度上の用語も踏まえながら丁寧に解説していきます。

1.「適正な経営体制」とは何か

手引きでは、適正な経営体制について次のように整理されています。

建設業に関し一定の経験を有する者を、「常勤役員等」として配置すること。

ここで重要となるのは、次の2点です。
・ 必ずしも1人で要件を満たす必要はない
・ 役員に加えて「補佐者」を置く構成も認められている

したがって、体制としては大きく次の2パターンに整理できます。

 パターンA : 経験者が1人で要件を満たす場合
 パターンB : 役員+補佐者で要件を満たす場合

以下では、それぞれの内容を具体的に見ていきます。

2.まず押さえるべき「常勤役員等」とは

すべての判断の前提となる概念が「常勤役員等」です。

常勤役員等の意味
 ・ 法人の場合:役員のうち常勤であるもの(取締役等)
 ・ 個人の場合:事業主または支配人(登記された者)

ここでいう「常勤」とは、当該会社において日常的に勤務し、経営に関与している状態を指します。

注意点(実務上の重要ポイント)
 次のような場合には、常勤性が否定される可能性があります。

 ・ 他社で常勤している
 ・ 他社の代表取締役を兼任している
 ・ 宅建士など、他法令で専任性が求められる職に就いている

これらはいずれも、「実際に当該会社の経営に専念できる状態か」という観点から判断されます。

3.どのような経験があれば認められるのか(全体像)

ここからが本題です。
手引きでは、経験要件は大きく次の3つの類型に整理されています。

① 経営経験がある場合(いわゆる経管に近い考え方)

例えば次のようなケースです。

・ 建設業において5年以上、経営の責任者であった
・ 取締役等として経営業務に関与していた
・ 実質的に経営業務の執行を担っていた

この場合、1人で要件を満たせる可能性がある典型的なパターンとなります。

② 経営に準ずる立場で関与していた場合

必ずしも「経営者」ではなくても、次のような経験は評価対象となります。

・ 執行役員として経営判断に関与していた
・ 工事部長等として経営者を補佐していた

いわば、経営そのものではないが、それに準ずる立場で関与していたケースです。

③ 1人では足りないが、体制として満たす場合

ここで登場するのが「補佐者」という考え方です。

手引きでは、常勤役員等を直接に補佐する者を置くこととされており、補佐者には次の3分野の経験が求められます。

・ 財務管理(資金調達・資金繰り・支払等)
・ 労務管理(勤怠管理・社会保険手続等)
・ 業務運営(経営方針の策定・実施等)

補佐者の実務上のポイント
重要なのは、これらは「人」ではなく機能として評価されるという点です。

 必ずしも、
 ・3人必要ではない
 ・1人で複数分野を兼務していてもよい

また、「直接に補佐する」とは、
組織上および実態上、常勤役員等の直下に位置し、直接指揮命令を受けて業務を行う状態を意味します。

4.「建設業法施行規則イ・ロ・ハ」の整理

ここまでの理解を踏まえ、手引きの制度分類に対応させると次のとおりです。

規則イ(1人で要件を満たすパターン)

・ 5年以上の経営業務の管理責任者としての経験
・ 5年以上の執行役員等としての経営経験
・ 6年以上の経営業務補佐経験

いわば、「経験で要件を満たすルート」です。

規則ロ(補佐者を置くパターン)

・ 役員等としての一定期間の経験(5年以上等)
        
・ 補佐者(財務・労務・業務運営の各分野で5年以上)

体制として経営能力を担保するルートといえます。

規則ハ(個別認定)
 国土交通大臣による個別認定で、実務上は特殊なケースに限られます。

5.「経営業務の管理責任者としての経験」とは何か

ここは特に誤解が多い部分です。
単に役員であるだけでは足りず、手引きでは「経営業務について総合的に管理した経験」が求められています。

具体的には、
 ・ 資金調達
 ・ 技術者の配置
 ・ 下請契約の締結

といった、会社の意思決定に関与していたかどうかが重要になります。

6.証明資料|最終的に問われるのはここ

どのルートであっても、最終的に重要となるのは、「その経験を証明できるか」です。

主な確認資料
・ 登記事項証明書
・ 確定申告書
・ 工事契約書
・ 組織図・職務分掌

よくある不備
・ 経験はあるが裏付け資料がない
・ 名義上の役員で実態が伴わない

制度は原則として書類による裏付けを前提として判断されます。

7.見落としがちな重要ポイント

実務上、以下については、取得後のリスクとしても重要です。

・ 変更があった場合は 2週間以内に届出が必要
・ 要件を欠いた場合は 許可取消しの対象となる可能性あり

特に、役員の退任や退職による欠員には注意が必要です。

8.営業所技術者との関係

経営業務管理責任者と並んで最初に詰まる要件です。

営業技術者とは、建設業法上では「各営業所に、許可を受けようとする建設業に関し一定の資格・経験を有する技術者を専任で置くこと」とされています。
経営管理責任者は主たる営業所に、営業所技術者は各営業所に常駐し、原則として現場に出ないことが前提で、両者とも「常勤」の要件を満たす必要があります。

法上は「兼務禁止」の規定はなく、行政側も兼務を認める運用を行っています。したがって、経営管理責任者と営業所技術者が「同一の営業所内であれば」兼務は可能です。
ただし、形式のみならず、実務上も両方を担える人員配置かどうかを行政も重視します。

つまり、
 ・ 同一営業所であること
 ・ 常勤・専任性があること
 ・ 適切な人員配置となっていること

などが兼務の条件となります。

メリットとして、人の少ない小さな企業や一人法人などでも、要件を満たせば建設業許可が取得しやすくなる点です。

なお、営業所技術者については、単に配置すれば足りるというものではなく、
 ・ 実務経験の内容が認められるか
 ・ 証明資料で裏付けができるか
 ・ 他の役職との兼任が適法か

といった点で、実務上判断が分かれる場面が多くあります。

特に「経験はあるが証明できない」「兼任関係で要件を満たさない」といった理由で不許可となるケースも少なくありません。

9.まとめ|実務での判断手順

実務では、次の流れで整理すると判断しやすくなります。

 STEP1 : 経営経験が5年以上あるか → ある場合は「規則イ」の検討
 STEP2 : 役員経験+補佐者で体制が組めるか → 組める場合は「規則ロ」の検討
 STEP3 : それらを裏付ける資料が揃うか → 不十分であれば再設計が必要

おわりに|経管は「制度」ではなく「設計」

この要件は、単なる制度の理解にとどまらず、「どのように体制を組めば要件を満たせるか」という設計です。
同じ経歴であっても、許可が下りるケース、下りないケースに分かれるのは、その設計の違いによるものです。
したがって、自らの経歴を制度に当てはめて整理する視点が重要です。

本記事が、その整理の一助となれば幸いです。

また、制度全体の理解や実務対応を深めたい場合は、以下の関連記事をあわせてご確認ください。
「建設業許可制度と申請の流れを徹底解説|制度趣旨から許可要件・手続きまでを整理」