一度作成した遺言でも、遺言者は生前であればいつでも撤回し、内容を変更することができます。
遺言は、亡くなった方(被相続人)の最終意思を実現するための制度です。遺言を作成した後に家族構成や財産状況、考え方が変わった場合には、その時点の意思に合わせて新しい遺言を作成できます。
ただし、遺言の撤回には法律上のルールがあり、新しい遺言を作成した場合や、遺言書を破棄した場合、遺言内容と抵触する財産処分をした場合など、それぞれ撤回として扱われる範囲が異なります。また、実際に遺言を書き直す際の手続や費用は、新しい遺言をどの方式で作成し、どのように保管するかによって変わります。
この記事では、遺言を撤回・変更する法律上のルールから、遺言の方式・保管方法ごとの手続、費用、変更時に見直すべきポイントまで解説します。
遺言は生前であればいつでも撤回・変更できる
遺言者は、生前であればいつでも自由に遺言を撤回したり、内容を変更したりできます。遺言の全部を撤回することも、一部だけを撤回することも可能です。
例えば、
- 相続人が亡くなった
- 孫が生まれた
- 不動産を売却した
- 介護をしてくれた人へ財産を残したくなった
といった事情の変化があれば、その時点の意思に合わせて遺言を書き直すことができます。
遺言を作成してから相続が開始するまでの間には、家族構成や保有する財産、遺言者自身の考えが変わることがあります。遺言は、そのような変化に応じて撤回・変更し、最終的な意思を反映させることができます。
新しい遺言を作成すると抵触する部分は撤回されたものとみなされる
遺言の内容を変更する方法の一つが、新しい遺言を作成することです。
例えば、最初の遺言で「自宅を長男に相続させる」と定め、その後に作成した遺言で「自宅を長女に相続させる」と定めた場合、自宅については後の遺言の内容が優先されます。一方、預貯金についての記載など、後の遺言と抵触しない部分は引き続き効力を持ちます。
このように、前の遺言と後の遺言の内容が抵触する場合には、抵触する部分について、後の遺言によって前の遺言が撤回されたものとみなされます。
前後の遺言が併存すると、相続開始後に両方の内容を照合し、どの部分が抵触しているのかを判断する必要があります。そのため、内容を大きく変更する場合には、新しい遺言で前の遺言を撤回する旨を明らかにし、変更後の内容を一つの遺言としてまとめておくことで、遺言者の最終意思を読み取りやすくなります。
遺言書の破棄や財産の処分によって撤回とみなされる場合がある
新しい遺言を作成する場合のほか、遺言者が一定の行為をしたことによって、遺言を撤回したものとみなされる場合があります。
例えば、自筆証書遺言を遺言者自身が故意に破棄した場合には、破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされます。
また、「自宅を長男に相続させる」と定めた後、その自宅を遺言者が生前に売却した場合には、遺言の内容と売却という行為が抵触するため、自宅に関する遺言は撤回したものとみなされます。
遺言を作成した後も財産の内容は変わることがあります。不動産の売却や財産の贈与などを行ったときは、その財産処分によって既存の遺言と抵触する部分が生じていないかを確認する必要があります。
遺言による撤回・変更は遺言の方式に従って行う
遺言者は、遺言の方式に従って遺言を撤回することができます。
その際、前の遺言と新しい遺言を同じ方式で作成する必要はありません。例えば、公正証書遺言を作成した後に、自筆証書遺言によってその内容を撤回・変更することもできます。
一方、「前の遺言は取り消す」と家族へ口頭で伝えるだけでは、遺言の方式に従った撤回にはなりません。遺言によって撤回・変更する場合には、新しい遺言について法律上必要となる方式を満たす必要があります。
新しい遺言の方式・保管方法によって必要な手続が変わる
遺言を書き直す場合には、新しい遺言をどの方式で作成し、どのように保管するかによって必要な手続が変わります。
公正証書遺言を作成する場合
公正証書遺言は、公証役場に原本が保管されています。
すでに公正証書遺言を作成している場合でも、新たに公正証書遺言を作成して内容を変更できます。以前の公正証書遺言の原本を返却したり、破棄したりする必要はなく、後の遺言と内容が抵触する部分について、前の遺言が撤回されたものとみなされます。
また、公正証書遺言を自筆証書遺言によって撤回・変更することもできます。前後の遺言を同じ方式にする必要がないことは、実際に変更方法を選ぶ際にも重要な点です。
法務局で保管している自筆証書遺言を変更する場合
法務局の遺言書保管制度を利用している場合、保管中の遺言書そのものを書き換えることはできません。
内容を変更するときは、現在保管されている遺言書について保管の申請を撤回して遺言書の返還を受け、新しい遺言書を作成したうえで改めて保管を申請する方法があります。以前の遺言書を保管したまま、新しく作成した遺言書を追加して保管申請することもできます。
注意したいのが、法務局に対する「保管の申請の撤回」と、遺言そのものの「撤回」は意味が異なるという点です。
保管の申請の撤回は、法務局での保管をやめて遺言書の返還を受けるための手続です。保管の申請を撤回しただけで、その遺言自体の効力が失われるわけではありません。
複数の遺言書を法務局で保管することもできますが、法務局では、相続人が内容を把握しやすいよう、以前の遺言書の保管を撤回し、変更後の遺言書を改めて保管申請する方法を案内しています。
自宅などで保管している自筆証書遺言を変更する場合
自宅などで保管している自筆証書遺言は、新しい遺言を書き直す方法によって内容を変更できます。また、遺言者自身が故意に遺言書を破棄した場合には、その破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされます。
複数の遺言書を残す場合には、相続開始後に前後の遺言を照合し、抵触する部分を判断する必要が生じることがあります。そのため、新しい遺言を作成するときは、以前の遺言との関係が分かる内容にしておくことで、どの内容が最終意思であるかを読み取りやすくなります。
遺言の撤回・変更にかかる費用は選ぶ方法によって異なる
遺言の撤回・変更にかかる費用は、新しい遺言をどの方式で作成し、どの保管方法を利用するかによって異なります。
公正証書遺言を書き直す場合
公正証書遺言を変更するために新たな公正証書遺言を作成する場合には、公証人手数料が必要です。
遺言の公正証書を作成する手数料は、相続又は遺贈を受ける人ごとに、その人が受け取る利益の価額を基準として算定します。 なお、遺言の撤回のみを公正証書で行う場合の手数料は、原則として13,000円です。
このほか、公正証書の正本・謄本等の交付にかかる費用や、専門家へ作成支援を依頼した場合の報酬などが別途必要になることがあります。
自筆証書遺言を書き直す場合
自宅で保管する自筆証書遺言を自分で書き直す場合には、公的な手数料はかかりません。
弁護士、司法書士、行政書士などへ、それぞれの業務範囲に応じて遺言書作成の支援を依頼する場合には、その報酬が必要になります。
法務局の遺言書保管制度を利用する場合
法務局で保管中の遺言書について、保管の申請を撤回する手続に手数料はかかりません。
新しく作成した遺言書を法務局で保管する場合には、改めて1件3,900円の保管申請手数料が必要です。
まとめ|変更部分から遺言全体への影響まで確認して書き直す
遺言を変更するときは、まず、現在の遺言のどの内容を変更するのかを明確にし、新しい遺言を作成するのか、既存の遺言や財産についてどのような対応をするのかを考えます。新しい遺言を作成する場合には、その方式と保管方法を選び、それぞれに必要となる手続や費用を確認します。
そのうえで、変更後の内容を遺言全体として見直すことが重要です。不動産の承継先だけを変更した場合でも、それによって預貯金を含む財産全体の配分が変わり、当初予定していた承継内容と異なる結果になることがあります。また、前後の遺言を残す場合には、どの部分が抵触し、どの内容が引き続き効力を持つのかという関係も生じます。
「どの内容を変更するのか」「どの方式・保管方法で新しい遺言を作成するのか」「前の遺言との関係はどうなるのか」「変更後に財産全体がどのように承継されるのか」という順序で検討することで、その時点の最終意思を遺言全体に反映させることができます。
※遺言書の方式や選択するときのポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。
遺言書作成は自分でできる?|専門家へ依頼する場合との違い
公正証書遺言と自筆証書遺言|どちらを選ぶかは『何を重視するか』で変わる