相続が始まると、「行政書士へ相談すればよいのか」「不動産があるなら司法書士なのか」「相続税が心配だから税理士なのか」と迷うことがあります。
しかし、相続では、最初に専門家を選ぶことよりも、まず現在どの手続を進める段階なのかを確認することが大切です。一連の相続手続は、相続人や財産の調査から遺産分割、財産の名義変更、相続税の申告まで、いくつもの工程で構成されています。各工程で担当する専門家も異なります。
この記事では、相続の流れに沿って、どの段階で誰へ相談すればよいのかを解説します。
相続手続は流れで考えると依頼先を判断しやすい
相続は、一つの手続だけで完結するものではありません。
まず相続人と相続財産を確認し、その結果をもとに遺産の分け方を決めます。遺産分割がまとまった後は、不動産や預貯金など、それぞれの財産について名義変更や払戻しなどの手続を進めます。さらに、相続税の申告が必要な場合は税務手続も行います。相続人の間で話合いがまとまらない場合は、途中から紛争解決の手続が必要になることもあります。
このように、工程ごとに必要となる手続や関わる専門家は異なります。こうした理由から、「行政書士と司法書士のどちらへ依頼するか」と考える前に、自分が今どの工程にいるのかを整理すると、相談先も判断しやすくなります。
相続手続の全体像
相続は、大きく分けると次の流れで進みます。
1. 相続人と相続財産を調査する
2. 遺産の分け方を決める
3. 財産ごとの名義変更や解約手続を行う
4. 相続税を申告する(必要な場合)
5. 相続人の間で紛争があれば解決する
この順番で進むとは限りませんが、多くの手続は前の工程が完了してはじめて次へ進められます。
実際に、相続人が確定していなければ遺産分割協議はできません。また、遺産分割の内容が決まらなければ、不動産の相続登記や預貯金の払戻しも進められません。
そのため、それぞれの工程で何を確認し、どの専門家が関わるのかを順番に見ていきましょう。
※手続きの全体像・期限・必要書類などについては、以下の記事を参考にしてみてください。
「遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか」
「相続手続きの期限一覧|相続開始後にやることを時系列で解説」
「相続手続きに必要な書類一覧|戸籍・印鑑証明・住民票などを解説」
相続人と相続財産を調査する
相続は、誰が相続人なのか、どのような財産や債務があるのかを確認するところから始まります。
まず戸籍を収集して法定相続人を確定します。そのうえで、亡くなった方がどのような財産を所有していたのかを調査します。
主な調査対象は次のとおりです。
・ 預貯金
・ 土地・建物などの不動産
・ 株式や投資信託などの有価証券
・ 自動車
・ 生命保険金(契約内容による)
・ 借入金や保証債務などの負債
この工程で相続人や財産の内容を整理できれば、次の遺産分割協議で「誰が何を相続するか」を具体的に話し合えるようになります。
一方で、財産調査が不十分なまま遺産分割を進めると、後から新たな財産や負債が見つかり、協議をやり直さなければならないこともあります。
戸籍収集や相続関係説明図、財産目録などの書類作成は、行政書士へ依頼できる業務です。相続人や財産を整理することで、その後の手続を円滑に進めるための基礎資料を整えることにつながります。
※相続人調査や財産調査などは以下の記事でわかりやすく解説しています。
「相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか」
「相続財産とは?|何が相続財産になるのか、借金も含まれるのか」
「財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために」
遺産の分け方を決める
相続人と相続財産が確定したら、次は誰がどの財産を相続するかを決めます。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意した内容を遺産分割協議書としてまとめます。
この協議書は、不動産の相続登記や金融機関での預貯金の払戻しなど、その後の手続で提出を求められる場面が多くあります。そのため、遺産分割の内容を正確に書類へ反映することが重要です。
相続人全員が合意している場合は、行政書士へ遺産分割協議書の作成を依頼できます。
もっとも、遺産の分け方について意見が対立している場合は事情が異なります。行政書士は相続人の代理人として交渉することはできないため、この段階で紛争になっている場合は、弁護士への相談を検討します。
遺産分割がまとまると、各財産について具体的な名義変更や払戻しの手続へ進めるようになります。
※遺産分割協議に関してはこちらの記事が参考になります。
「遺産分割協議とは|なぜ相続人全員の合意が必要になるのか」
財産ごとの名義変更や解約手続を行う
遺産分割の内容が決まったら、それぞれの財産について名義変更や解約手続を進めます。
この段階では、財産によって手続先や必要書類が異なります。不動産、預貯金、株式、自動車では、それぞれ別の手続が必要です。
特に、不動産を相続する場合は相続登記を行います。
相続登記は、不動産の所有者を亡くなった方から相続人へ変更する手続であり、司法書士が専門的に取り扱う業務です。司法書士は、登記に必要な書類を確認し、登記申請書を作成して法務局へ申請します。
一方、預貯金は金融機関ごとに相続手続を行い、株式は証券会社などで名義変更や移管の手続を進めます。自動車についても、運輸支局などで名義変更が必要です。
遺産分割が終わっても、それだけで手続が完了するわけではありません。相続した財産ごとに必要な手続を進めることで、相続内容に応じた名義や権利関係へ変更されます。
相続税を申告する
財産の名義変更などが進んだ後は、相続税の申告が必要かどうかを確認します。
すべての相続で相続税がかかるわけではありません。しかし、相続財産の内容や評価額によっては申告が必要になるため、対象となる可能性がある場合は早めに確認しておくことが大切です。
相続税を申告する場合は、税理士が財産の評価、税額の計算、相続税申告書の作成、税務署への申告を行います。
相続税の計算では、不動産や非上場株式など評価方法が複雑な財産も少なくありません。また、利用できる特例や控除によって税額が変わることもあります。
こうした場合でも、「相続税がかかりそうだから申告する」ということではなく、まず申告が必要かどうかを判断し、そのうえで適切に申告を進めることが重要です。
相続人の間で話合いがまとまらない
ここまでの流れは、相続人の間で話合いがまとまることを前提としています。
しかし、誰がどの財産を相続するかで意見が対立したり、遺言書の内容を巡って争いが生じたりすることもあります。
このような場合は、遺産分割協議を進めることが難しくなります。その結果、不動産の相続登記や預貯金の払戻しなど、その後の手続も止まってしまいます。
相続人間の交渉や遺産分割調停、審判、訴訟など、法律上の紛争に対応できるのは弁護士です。
もっとも、弁護士へ依頼するタイミングは、紛争が起きた後に限られません。相続人や相続財産の調査、遺産分割協議の整理など、相続開始直後から一連の手続を依頼することもできます。
相続人の意見が分かれそうな場合や相続関係が複雑な場合、遺言書の有効性や遺留分など法的判断が必要な場合は、早い段階から弁護士へ相談することで、今後の対応方針を整理したうえで手続を進めやすくなります。
一つの相続で複数の専門家が関わることもある
ここまで見てきたように、相続は一つの工程だけで完了するものではありません。
そのため、一人の専門家へ依頼しただけですべての手続が終わるとは限りません。
具体的には、相続人や相続財産の調査、遺産分割協議書の作成は行政書士へ依頼し、不動産の相続登記は司法書士へ依頼します。さらに、相続税の申告が必要であれば税理士が、相続人の間で紛争になれば弁護士が関わります。
このように、工程が進むにつれて担当する専門家が変わることがあります。
特定の資格だけを基準に依頼先を選ぶのではなく、その時点で必要な手続を担当できる専門家へつないでいくイメージを持つと、相続全体の流れを把握しやすくなるでしょう。
まとめ
相続では、行政書士、司法書士、税理士、弁護士がそれぞれ異なる工程を担当します。
行政書士は相続人や相続財産の調査、遺産分割協議書の作成など、相続の土台を整える場面で関わります。その内容をもとに、不動産があれば司法書士が相続登記を行い、相続税の申告が必要であれば税理士が税務手続を進めます。さらに、相続人の間で争いが生じた場合は、弁護士が交渉や調停、訴訟などを担当します。
このように、それぞれの専門家は同じ相続の中で異なる役割を担っています。
依頼先に迷ったときは、「行政書士と司法書士のどちらがよいか」と資格名を比較する必要はありません。まず、自分が今どの工程にいて、次に進めるためには何が必要なのかを整理してみてください。
工程に応じた専門家へ相談することで、順序立てて手続を進めやすくなり、必要に応じて他の専門家と連携しながら、一連の相続手続を進めていくことができます。
※行政書士への相談費用の目安については、以下の記事で解説しています。
「行政書士へ相談する費用はいくら?|相談料の相場と依頼までの流れ」