独身で子どもがおらず、兄弟姉妹もいない場合、「自分が亡くなった後の財産は誰のものになるのだろう」と考えることがあるかもしれません。
相続人がいなければ財産は国のものになると思われがちですが、直ちに国庫へ帰属するわけではありません。
相続人の捜索や債務の清算など、法律で定められた手続を経て帰属先が決まります。
また、遺言によって財産を渡す相手を指定している場合は、その内容に基づく承継も関係します。
この記事では、相続人がいない場合の財産の管理・清算から最終的な帰属先が決まるまでの流れと、自分の意思で財産を残すための遺言について解説します。
相続人がいない場合は相続財産清算人が財産を管理・清算する
相続人がいるかどうかは、配偶者、子や孫などの直系卑属、父母や祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹や甥・姪といった法定相続人の範囲に従って判断します。
相続人のあることが明らかでない場合、相続財産は法律上、相続財産法人として扱われます。家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって相続財産清算人を選任し、財産の管理・清算を進めます。
相続財産清算人は、預貯金や不動産などの財産と借金などの債務を調査し、必要な管理や換価、債権者への弁済などを行います。これは、相続人の有無が明らかでない段階でも、財産を管理する主体を確保し、清算手続を進めるための制度です。
※相続財産清算人と遺産整理受任者の違いについては、以下の記事で解説しています。
遺産整理受任者と相続財産清算人は何が違うのか?
相続財産の清算から国庫帰属までの流れ
相続財産清算人が選任されると、相続人を捜索する公告や、債権者・受遺者に請求の申出を求める公告など、法律で定められた手続が進みます。
主な流れは次のとおりです。
- 相続財産清算人の選任と相続人捜索の公告
家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、選任と相続人捜索の公告を行います。 - 債権者・受遺者への公告と財産の清算
相続財産清算人が請求申出の公告を行い、財産と債務を調査して清算を進めます。 - 相続人の不存在の確定
公告期間が満了しても相続人のあることが明らかにならなければ、相続人の不存在が確定します。 - 特別縁故者への財産分与
特別縁故者から申立てがあれば、家庭裁判所が財産分与の可否と範囲を判断します。 - 残余財産の帰属
清算後に残った財産は、法律上の帰属関係に従って国庫などに帰属します。
相続人捜索の公告期間は6か月以上、相続財産清算人が行う債権者・受遺者への請求申出の公告期間は2か月以上です。 また、特別縁故者による財産分与の申立ては、相続人捜索の公告期間が満了してから3か月以内に行う必要があります。
遺言がある場合は、その内容に基づいて財産を承継する
相続人がいなくても、遺言があれば、その内容に従って財産を承継できます。財産の全部について有効な包括遺贈があり、包括受遺者がその権利義務を承継する場合には、通常、相続財産清算人による清算手続を必要としません。 ただし、遺贈の効力や放棄の有無によって取扱いが変わるため、個別の事情を確認する必要があります。
遺言では、法定相続人以外の個人や法人、地方公共団体、公益法人などに財産を遺贈することも可能です。
ただし、遺言で財産を渡す相手が指定されていても、被相続人の債務や遺贈の内容に応じた法律関係を考慮する必要があります。相続財産の清算手続では、債権者への弁済を行った後、受遺者に対する弁済を進めます。
※遺贈については、以下の記事で解説しています。
遺贈とはどんな制度なのか|相続との違いや第三者へ財産を渡せる仕組みを解説
包括遺贈と特定遺贈の違いは?|取得する権利や負担する義務をわかりやすく解説
相続人の捜索と債権者への弁済を進める
家庭裁判所による公告期間中に相続人が現れれば、その人の相続権を前提として財産の承継関係を扱います。
一方、相続人捜索の公告期間内に相続人として権利を主張する者がいなかった場合には、相続人と、相続財産清算人に知られていなかった債権者・受遺者は、原則として権利を行使できなくなります。
相続人がいなくても、借金などの債務が消滅するわけではありません。相続財産清算人は、届出のあった債権者などに対し、法律で定められた順位や方法に従って弁済します。
ただし、相続財産が不足する場合には、すべての債権者に全額を弁済できるとは限りません。
特別縁故者が財産分与を受けられる場合
相続人がいない場合でも、被相続人と特別な関係にあった人は、家庭裁判所に特別縁故者として財産分与を申し立てることができます。
特別縁故者の対象となり得るのは、次のような人です。
- 被相続人と生計を同じくしていた内縁関係にあった人
- 被相続人の療養看護に努めた人
- その他、被相続人と特別の縁故があった人
申立期間は、相続人捜索の公告期間が満了した後の3か月以内です。 家庭裁判所は、被相続人との関係や具体的な事情を踏まえ、相続財産の全部または一部を分与するかどうかを判断します。
特別縁故者に該当する事情があっても、申立てによって当然に財産を取得できるわけではありません。実際に分与を受けられるか、その範囲がどこまで認められるかは、家庭裁判所の判断によります。
残った財産は特別の帰属関係を除き国庫に帰属する
相続財産の清算と特別縁故者への財産分与を終えた後、なお財産が残っている場合は原則として国庫に帰属します。
ただし、共有不動産などは、民法255条による共有持分の帰属が問題となる場合があります。相続人のいない共有者の持分は、特別縁故者への財産分与がされないなどの条件のもとで、他の共有者に帰属することがあります。
したがって、残余財産の帰属先は一律に国庫となるわけではありません。財産の種類や権利関係によって、最終的な帰属先が異なります。
自分の意思で財産を残したい場合は遺言を検討する
相続人がいない場合でも、遺言書を作成しておけば、自分の財産を誰に承継させるかを指定できます。
特別縁故者への財産分与は家庭裁判所の判断によるため、希望する人が必ず財産を取得できるとは限りません。一方、遺言による遺贈では、自分の意思で受遺者(遺言によって財産を受け取る人)を指定できます。
例えば、長年生活を共にしてきた内縁関係にある人へ財産を残したい場合、その人には法律上の配偶者としての相続権がありません。
遺言でその人への遺贈を定めておけば、特別縁故者として家庭裁判所から財産分与を受けられるかどうかの判断を待たずに、遺言に基づく承継を実現する道が開かれます。
遺言書を作成する際には、受遺者と対象財産を明確にし、法律で定められた方式を満たす必要があります。
※遺言書が必要なケースや遺言の方式については、以下の記事で解説しています。
遺言書が必要な人とは|相続のルールだけでは希望を実現しにくいケース
公正証書遺言と自筆証書遺言|どちらを選ぶかは「何を重視するか」で変わる