遺言執行者が選任されると、「手続にはどのくらい費用がかかるのか」「専門家へ支払う報酬は誰が負担するのか」と疑問を持つのではないでしょうか。
特に、不動産や複数の預貯金口座がある相続では、実費、専門家報酬、相続登記や相続税申告などの費用が重なり、何に対して支払う費用なのかが分かりにくくなります。

そこで最初に押さえておきたいのは、遺言執行に関する費用は、遺言を実現するために必要となる手続に伴って生じるという点です。

※遺言書が必要となる場面については、以下の記事で詳しく解説しています。
 「遺言書が必要な人とは|相続のルールだけでは希望を実現しにくいケース」

この記事では、遺言執行費用の内容、相続財産との関係、専門家報酬の考え方、別途必要になる費用を整理し、依頼前に確認すべきポイントを分かりやすく解説します。

遺言執行にかかる「費用」と「報酬」は別のもの

遺言執行では、「費用」と「報酬」を分けて考えることが大切です。

費用とは、「遺言を実現するために必要となる支出」です。

例えば、
 ・ 戸籍謄本や住民票などの取得費用
 ・ 登記事項証明書や固定資産評価証明書の取得費用
 ・ 郵送費や交通費
 ・ 金融機関での手続に必要な費用
 ・ 不動産の相続登記に必要な登録免許税
 ・ 自筆証書遺言の検認費用

などの実費が該当します。

一方、報酬は、「遺言執行者が職務を遂行したことに対して支払われる対価」です。
実務では、見積書でも実費と報酬を区別して記載することが一般的です。依頼前にこの区別を理解しておくと、見積内容を比較しやすくなります。

遺言執行に必要な費用は誰が負担するのか

遺言執行に必要な費用は、民法でも相続財産の負担とされています。

例えば、不動産の相続登記に必要な登録免許税や証明書の取得費用、金融機関での払戻手続に必要な実費などは、遺言執行に通常必要な支出として相続財産から支払われます。

これは、費用負担をめぐる調整によって遺言執行が滞ることを防ぎ、必要な手続を円滑に進めるためです。
ただし、すべての支出が相続財産から支払えるわけではなく、遺言執行と関係のない支出、通常必要とはいえない支出は対象になりません。

重要なのは、その費用が遺言を実現するために必要なものであったか、という点です。

専門家への報酬はどのように決まるのか

弁護士、司法書士、行政書士などの専門家が遺言執行者となる場合、多くは報酬が発生します。
この報酬は、遺言執行者として行う職務全体に対する対価です。

例えば、
 ・ 相続人や相続財産の調査
 ・ 必要書類の収集
 ・ 財産目録の作成
 ・ 預貯金や証券口座の手続
 ・ 不動産に関する手続の調整
 ・ 財産の引渡しや完了報告

など、遺言を実現するために必要な業務が対象になります。

そのため、報酬は一律ではありません。

財産の種類や件数、金融機関の数、相続人の人数、手続の複雑さなどによって、必要な業務量は大きく変わります。
報酬は個々の手続ではなく、遺言執行全体を完了させるための業務に対して支払われるものです。

※遺言執行者の義務・権限や相続人との関係については、以下の記事で解説しています。
 「遺言執行者とは?|義務・権限・相続人との関係をわかりやすく解説」

遺言執行者の報酬はどう決まるのか

遺言執行者の報酬は、遺言執行者がどのように選任されたかによって異なります。

まず、遺言書に報酬額や算定方法が定められている場合は、その内容に従います。
専門家へ依頼する場合は委任契約によって報酬を定めることが一般的ですが、遺言書に定めがなく、家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合には、家庭裁判所が報酬を定めることになります。

その際に考慮される主な事情は、次のとおりです。
 ・ 相続財産の総額
 ・ 財産の種類や管理の難しさ
 ・ 相続人や受遺者の人数
 ・ 遺言執行に要した期間
 ・ 手続の複雑さ
 ・ 実際の業務量

つまり、財産額だけで報酬が決まるわけではありません。
相続財産がそれほど多くなくても、不動産や金融機関が複数ある相続では、確認や手続に要する時間が増えるため、報酬に反映されることがあります。

依頼前には、金額だけでなく、どの業務が報酬に含まれているのかまで確認しておくことが大切です。

専門家へ依頼した場合の報酬相場

遺言執行者の報酬は、法律で一律に定められているものではなく、事務所ごとに報酬体系は異なります。

実務では、次のような方式が多く採用されています。
 ・ 定額制
 ・ 相続財産額に一定割合を乗じる方式
 ・ 定額と財産額を組み合わせる方式
 ・ 最低報酬を設け、業務量に応じて加算する方式

例えば、預貯金と自宅不動産程度の比較的シンプルな相続であれば、30万円から50万円前後としている事務所があります。
一方、不動産が複数ある場合、多数の金融機関で手続が必要な場合、非上場株式が含まれる場合、相続人が多い場合などは、100万円を超えることもあります。

また、見積書を見るときは、報酬額だけで判断しないことも重要です。

登録免許税、戸籍取得費、郵送費、司法書士報酬、税理士報酬などが含まれているかどうかによって異なります。
どこまでが遺言執行者の業務で、どこからが別途費用となるのかまで確認しておくと、後から追加費用が発生するリスクを減らせます。

相続登記や相続税申告の費用は別に確認する

遺言執行者へ依頼すると、すべての手続が一つの報酬で完結するように感じるかもしれません。
しかし、実際には別の専門家が担当する手続もあり、その費用は別途必要になることがあります。

代表的なのが、不動産の相続登記と相続税申告です。
不動産がある場合には、登録免許税のほか、相続登記を依頼する司法書士への報酬が発生します。
また、相続税申告が必要な場合には、税理士への報酬も必要です。

そのため、見積書を見る際は、
 ・ 遺言執行者報酬
 ・ 登記費用
 ・ 相続税申告費用
 ・ 実費

が区別されているかを確認すると、最終的な費用を把握しやすくなります。

なお、遺留分が問題となる相続では、遺言執行費用とは別に、遺留分侵害額請求が必要になることがあります。
遺言執行費用とは性質が異なるため、必要に応じてあわせて確認しておくと安心です。

※遺留分侵害額請求の概要は、以下の記事で解説しています。
 「遺留分侵害額請求とは|遺言書があっても請求できるのはなぜか」

費用を確認しないまま進めると手続が滞ることがある

遺言執行では、費用の確認や把握が十分でないまま手続を進めると、精算の段階で相続人間での認識に違いが生じることがあります。

例えば、相続財産から専門家報酬を支払うことや、登記費用・税務申告費用が別途必要になることを事前に共有していなければ、「想定していた金額と違う」という疑問が生じかねません。
費用をめぐる認識の違い、つまりは、相続財産から支出することへの理解が得られない場合には、財産の引渡しや最終報告の段階で手続が滞る原因にもなります。

そのため、遺言執行に着手する前に、
 ・ 相続財産から支払う費用はどれか
 ・ 別途必要になる費用はあるか
 ・ 支払時期や精算方法など

を確認しておくことが大切です。

依頼前に確認しておきたいポイント

見積書を比較するときは、金額だけで判断しないことが重要です。
確認しておきたい主なポイントは、次のとおりです。

 ・ 遺言執行者報酬の算定方法
 ・ 実費として別途必要になる費用
 ・ 登記費用や税務申告費用が含まれているか
 ・ 追加費用が発生する場合の条件
 ・ 報酬や実費を精算する時期
 ・ 完了報告書や精算書を作成するか

また、相談前には、遺言書、固定資産税納税通知書、預貯金通帳、証券会社の取引残高報告書、相続人が分かる戸籍などを整理しておくと、必要な手続や費用を見積もりやすくなります。

費用全体を確認してから依頼すると手続を進めやすい

遺言執行では、実費と報酬のほか、相続登記や相続税申告などの費用が必要になることがあります。
そのため、見積書を見るときは、一つの金額だけで判断するのではなく、

 ・ 遺言執行者報酬
 ・ 実費
 ・ 登記費用
 ・ 税務申告費用
 ・ 必要に応じた紛争対応費用

に分けて確認することが大切です。

あらかじめ費用全体を把握しておけば、後から追加費用や精算方法をめぐって認識の違いが生じることを防ぎやすくなります。

遺言執行者や専門家への依頼を検討している場合は、まず遺言書と財産資料を整理し、必要となる手続と費用の内訳や見積書を確認しましょう。
そのうえで、遺言執行にかかる費用については、金額そのものは勿論ですが、「どの業務が報酬に含まれ」「どの費用が別途必要になるのか」まで確認することが重要です。

※遺言執行者が必要になるケースは以下の記事で解説しています。
 「遺言執行者とは|役割・権限・必要になるケースをわかりやすく解説」