遺言執行者選任申立とは
遺言書を作成した場合、その内容を相続手続へ反映するためには、遺言執行が適切に行われる必要があります。
しかし、遺言執行者が指定されていない場合や、指定された人が死亡や辞退などによって就任できない場合には、遺言執行を進めることができない状態になります。
その結果、預貯金の払戻しや遺贈の履行など、遺言に基づく手続が停滞し、被相続人が遺言で示した意思を実現できなくなることがあります。
このような状態を解消するために設けられている制度が、遺言執行者選任申立です。
家庭裁判所が遺言執行者を選任することで、停滞していた遺言執行を再開できるようになり、遺言の内容を相続手続へ適切に反映できるようになります。
この記事では、遺言執行者選任申立が必要となるケース、申立てができる人、申立先や必要書類、手続の流れについて解説します。
※そもそも遺言執行者にはどんな義務や権限があり、相続人とどんな関係なのかに関しては、以下で解説しています。
「遺言執行者とは?|義務・権限・相続人との関係をわかりやすく解説」
「遺言執行者とは|役割・権限・必要になるケースをわかりやすく解説」
遺言執行者選任申立が必要になるケース
遺言執行者選任申立は、遺言執行を進めることができない状態になった場合に必要となります。
遺言書があることだけを理由として申し立てる制度ではありません。
家庭裁判所が遺言執行者を選任するのは、遺言執行が停滞している状態を解消し、被相続人が残した遺言を実現できるようにするためです。
遺言執行者が必要となる主な遺言事項
遺言には、相続人だけで手続を進められるものもあれば、遺言執行者による執行が予定されているものもあります。
例えば、次のような事項では、遺言執行者が重要な役割を担います。
・ 遺言による認知
・ 相続人以外への遺贈
・ その他、法律上又は遺言の内容から遺言執行者による執行が予定されている事項
このような内容について遺言執行者が不在となると、遺言どおりに手続を進められないため、家庭裁判所へ選任申立を行うことになります。
遺言書で遺言執行者が指定されていない場合
遺言書に遺言執行者の指定がなくても、遺言自体は有効です。
しかし、遺言執行者による執行が必要な内容については、遺言執行者がいなければ手続を進めることができません。
そのため、家庭裁判所へ遺言執行者選任申立を行い、遺言執行を行う体制を整えます。
指定された遺言執行者が就任できない場合
指定された遺言執行者が、
・ 死亡しているあるいは途中で死亡した
・ 就任を辞退した
・ 欠格事由に該当する
などの場合は、遺言執行を進めることができません。
そのため、新たな遺言執行者を家庭裁判所で選任してもらう必要があります。
誰が遺言執行者選任申立をするのか
遺言執行者選任申立ができるのは、利害関係人です。
主な利害関係人には、次のような人が含まれます。
・ 相続人
・ 受遺者
・ 遺言執行によって権利や義務に影響を受ける人
また、遺言執行者は相続人同士の話合いで選任する制度ではありません。
相続人間や受遺者との間で利害が対立している場合でも、遺言を適切に執行できる人を選任する必要があるため、家庭裁判所が選任権限を持っています。
家庭裁判所は、申立人が利害関係人に当たることや、遺言執行を進められない状態にあることなどを確認し、選任の必要性を審理した上で遺言執行者を選任します。
遺言執行者選任申立はどう進めるのか
遺言執行者選任申立は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
申立先を誤ると手続を進めることができないため、事前に管轄裁判所を確認しておくことが大切です。
必要書類
家庭裁判所は、提出された資料を基に、遺言執行者を選任する必要があるかを判断します。
そのため、申立てでは主に次の書類を提出します。
・ 家事審判申立書
・ 遺言者の死亡が確認できる戸籍謄本(または除籍謄本)
・ 遺言書の写し(または検認調書謄本の写し)
・ 遺言執行者候補者の住民票(または戸籍附票)
・ 申立人の利害関係を証明する資料
これらの書類は、遺言の内容や相続関係、申立人の利害関係、候補者の本人確認など、選任の要否を判断するための基礎資料となります。
事案によっては、追加資料の提出を求められることがあります。
遺言執行者選任申立の流れ
遺言執行者選任申立は、次の流れで進みます。
1. 遺言執行を進められない状態であることを確認する
2. 必要書類を収集する
3. 家庭裁判所へ申立てを行う
4. 家庭裁判所による審理
5. 遺言執行者の選任
6. 選任された遺言執行者が就任し、遺言執行を開始する
家庭裁判所は、申立てがあれば一律に遺言執行者を選任するわけではありません。
遺言書の内容や、遺言執行を進められない理由、申立人の利害関係などを確認し、遺言執行者を選任する必要があるかを審理した上で判断します。
遺言執行者はどんな人が選任されるのか
家庭裁判所は、遺言の内容や相続の状況を踏まえ、遺言を適切に執行できる人を遺言執行者として選任します。
選任される人に特別な資格要件はありません。
家族や親族が選任されることもあれば、行政書士や弁護士などの専門家が選任されることもあります。
相続人間の利害が対立している場合や、相続財産が多く手続が複雑になる場合などでは、中立的な立場で継続して遺言執行を行える人が選任されることがあります。
行政書士へ依頼するメリット
遺言執行者選任申立では、申立書の作成や戸籍などの必要書類の収集、提出資料の整理など、家庭裁判所へ申し立てるための準備が必要になります。
提出資料は、家庭裁判所が遺言執行者を選任を判断する基礎となるため、漏れなく準備することが重要です。
行政書士は、
・ 申立書類の作成支援
・ 戸籍など必要書類の収集
・ 家庭裁判所へ提出する資料の整理
・ 遺言執行者候補者に関する資料の作成支援
など、申立てに必要な手続を支援できます。
また、行政書士が遺言執行者へ就任した場合は、
・ 財産目録の作成
・ 預貯金など金融機関での相続手続
・ 遺贈の履行
・ 相続手続全体の進行管理
など、遺言執行に必要な手続を継続して行うことができます。
不動産の相続登記や相続税申告など、他士業が担当する手続が必要となる場合には、司法書士や税理士などと連携しながら遺言執行を進めることも可能です。
※執行にかかわる費用や専門家への報酬については、以下の記事を参考にしてください。
「遺言執行にかかる費用や専門家へ支払う報酬は?」
まとめ
遺言執行者選任申立は、
遺言執行を進められない状態を解消し、遺言どおりに相続手続を進められる状態を回復するための制度です。
遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された人が死亡・辞退した場合などには、家庭裁判所へ申立てを行い、新たな遺言執行者を選任してもらうことで、停滞していた遺言執行を再開できます。
申立てが必要かどうかは、遺言書の有無だけで判断するものではありません。
遺言執行を継続できる状態が維持されているかどうかという視点から判断することが重要です。
遺言制度は、被相続人の意思を尊重し、残された家族の生活を保障するとともに、残された財産を適正に承継・清算することを目的としています。
遺言執行者選任申立は、遺言執行が停滞した状態を回復し、被相続人が残した遺言を確実に実現するための重要な手続です。