はじめに|遺言を書けば、その内容は相続後に反映されるのでしょうか

遺言について調べ始めると、公正証書遺言と自筆証書遺言という二つの方式を目にします。
その際、 「公正証書遺言は安心」 「自筆証書遺言は手軽」 と説明されることがあります。しかし、遺言方式を選ぶときに考えたいのは、費用や手間だけではありません。

例えば、遺言書を作成していても、その存在が知られていなかったり、内容の解釈に迷いが生じたりすると、相続人同士で確認や話し合いが必要になることがあります。
また、記載内容によっては、不動産や預貯金の手続きがスムーズに進まない場合もあります。

遺言制度には、被相続人の考えを財産承継へ反映するとともに、残された家族が相続後の手続きを進められるように整えていく役割があります。
そのため、公正証書遺言と自筆証書遺言を比較する際には、「何を重視したいのか」という視点が重要になります。

この記事では、それぞれの特徴を整理しながら、どのような考え方で選択すればよいのかを解説します。

なお、遺言・相続手続きの全体像については、以下の記事で詳しく解説しています。
「遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか」

なぜ遺言には複数の方式が用意されているのか

遺言制度には二つの要請があります。

一つは、自分の考えを形にできることです。
もう一つは、その内容が相続開始後にも確認でき、財産承継へ反映されることです。

自分の考えを残しやすくすることを重視すると、本人が作成できる仕組みが必要になります。一方で、相続開始後の確認や手続きを重視すると、第三者による確認や保管の仕組みも必要になります。

自筆証書遺言と公正証書遺言は、この二つの要請に対して異なる方法で応えようとしている制度です。
そのため、どちらを選ぶかはどこに重点を置くのかという判断になります。

自筆証書遺言が重視していること

自筆証書遺言は、遺言者本人が作成する遺言です。
自宅で作成することができ、公証役場へ出向く必要もありません。そのため、自分のペースで遺言を作成しやすいという特徴があります。

例えば、
 ・ まずは遺言を作ることから始めたい
 ・ 内容を見直しながら考えたい
 ・ 財産内容や家族構成が比較的整理されている

という場合には利用しやすい方法です。

① 本人だけで作成できるからこそ考えておきたいこと

自筆証書遺言は本人が作成できるため、自分の考えをまとめやすいという特徴があります。
その一方で、財産の記載方法や内容によっては、相続開始後に確認が必要になることがあります。

例えば、不動産の表示が不正確であったり、「長男に自宅を任せる」といった表現だけでは具体的な承継方法が分かりにくかったりすると、相続人の間で解釈が分かれたり、金融機関や法務局での手続き時に必要な確認が生じたりすることがあります。

また、財産の記載漏れがあると、その財産について改めて話し合いが必要になる場合もあります。
そのため、自筆証書遺言では作成することに加えて、内容が相続後に伝わるかという視点も重要になります。

② 検認とはどのような手続きなのか

自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所で検認を受ける必要があります。
検認とは、遺言書の状態や内容を確認し、後日の改ざんや隠匿を防ぐための手続きです。

検認を受けたからといって遺言の有効性が保証されるわけではありません。また、検認後に遺言の内容や有効性について争いが生じることもあります。
それでも検認が設けられているのは、自筆証書遺言が本人だけで作成できる制度だからです。

なお、自筆証書遺言書保管制度を利用している場合、法務局が原本と画像データを厳重に管理しており、偽造や変造の心配がないことから検認は不要です。

公正証書遺言が重視していること

公正証書遺言は、公証人が作成する遺言です。
遺言者が内容を伝え、それを公証人が法律上の方式に従って文書化します。

この方式では、公証人が関与することで、
 ・ 方式上の不備が生じにくい
 ・ 原本が公証役場で保管される
 ・ 相続開始後に遺言の存在を確認しやすい

という特徴があります。

例えば、自宅不動産の承継方法が重要になる場合や、相続開始後の手続きを見据えて準備したい場合には、公正証書遺言を検討する方もいます。

もっとも、公正証書遺言には費用や準備の負担があります。
そのため、作成時の利用しやすさと、相続開始後の手続きのしやすさのどちらを重視するのかによって考え方は変わります。

自筆証書遺言と公正証書遺言は、どのような場面で検討されているのか

遺言方式の選択は、財産額だけで決まるものではありません。
むしろ、家族構成や財産内容によって重視するポイントが変わります。

例えば、相続人が子ども1人で財産の大半が預貯金という場合には、まずは自分の考えを形にすることが優先されることがあります。そのような場合には、自筆証書遺言から検討を始める方もいます。

一方で、自宅不動産が財産の中心で相続人が複数いる場合には、誰が不動産を承継するのかによって相続後の手続きや生活に影響が及ぶことがあります。そのため、作成段階から公証人が関与する公正証書遺言を検討する方もいます。

また、再婚家庭や相続人同士が疎遠になっているケースでは、財産の承継先だけでなく、遺言内容がどのように伝わるのかも重要になります。

重要なのは、家族構成によって方式が決まるということではありません。
ご自身の状況で何が課題になりそうなのかを整理したうえで、どの方式がその課題に合うのかを考えることです。

判断に迷ったときに確認したいポイント

比較項目自筆証書遺言公正証書遺言
作成方法本人が作成する公証人が作成する
作成時の関与者原則として本人のみ公証人と証人2名が関与
費用比較的抑えやすい公証人手数料が必要
保管方法本人保管(法務局保管制度利用も可)公証役場で原本保管
相続開始後の手続き原則として検認が必要(法務局保管を除く)検認不要
内容確認本人が行う公証人が方式等を確認
特徴自分のペースで作成しやすい相続開始後の手続きを進めやすい

まとめ|選ぶべきなのは方式ではなく重視したいこと

自筆証書遺言は、自分のペースで作成しやすいという特徴があります。
公正証書遺言は、公証人が関与することで相続開始後の手続きを進めやすいという特徴があります。
どちらも、被相続人の考えを財産承継へ反映するために設けられた制度です。

そのため、遺言方式を選ぶ際には、
 ・ 作成のしやすさ
 ・ 保管方法
 ・ 相続開始後の手続き
 ・ 家族への影響

といった点を整理しながら考えることが大切です。

遺言は、作成して終わるものではありません。
相続開始後に家族が財産承継を進めていくことまで含めて考えることで、ご自身に合った遺言方式が見えてきます。

ご相談をご検討の方へ

遺言方式の選択は、ご家族の状況や財産内容によって判断が変わります。

例えば、まずは考えを整理することを優先したいのか、それとも相続開始後の手続きまで見据えて準備したいのかによっても選択肢は異なります。

現在の家族構成や財産状況を整理し、どのような財産承継を考えているのかを確認してみてください。
そのうえで、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらがご自身の状況に合うのかを検討することが、遺言作成の第一歩になります。

※遺言・相続手続きの全体像については、以下の記事で解説しています。
 「遺言・相続手続きの全体像|相続制度は誰のために存在しているのか」