遺言書を作ろうと思ったとき、「自分で作成できるのか、それとも専門家へ依頼した方がよいのか」と迷うのではないでしょうか。
遺言書は法律で定められた方式に従えば、自分で作成できます。そのため、すべてのケースで専門家への依頼が必要になるわけではありません。
一方で、遺言書の作成は文章を書くだけの手続ではありません。誰へ財産を承継させるのかを整理し、対象となる財産を特定し、その希望を法律上の効果が生じる内容としてまとめ、相続開始後に実際の手続へつなげるところまで考える必要があります。
そのため、自分で作成するか専門家へ依頼するかを考える際は、作成工程全体を自分で進められるかという視点が役立ちます。
この記事では、自分で遺言書を作成しやすいケースと、専門家へ相談した方がよいケースを判断するポイントを解説します。
遺言書は自分で作成できる
遺言書にはいくつかの方式がありますが、自筆証書遺言は遺言者本人が作成できます。
法律で定められた要件を満たしていれば、自分で作成した遺言書にも法的な効力が認められます。
遺言書の作成では、次のような事項を順番に整理していきます。
・ 誰へ財産を承継させるか
・ どの財産を承継させるか
・ 希望をどのような遺言内容としてまとめるか
・ 作成後にどのように保管・管理するか
家族関係や財産内容が整理しやすい場合は、自分で進めやすいケースもあります。
一方で、相続人が多い、財産が複雑である、家族間の調整が必要になるといった事情がある場合は、作成前に整理すべき事項も増えていきます。
そこで、自分で進められる範囲を確認するために、次の4つのポイントから考えていきます。
どこまで自分で進められるかを判断する4つのポイント
1.承継先を整理できるか
遺言書では、誰へ財産を承継させるのかを決めます。
その前提として、法律上の相続人や、財産を受け取る人を整理する必要があり、例えば、配偶者と子だけといった家族構成であれば、相続関係を把握しやすいでしょう。
一方で、
・ 前婚の子がいる
・ 養子縁組をしている
・ 子が本人より先に亡くなっている
・ 子がおらず兄弟姉妹が相続人になる
・ 相続人以外へ財産を承継させたい
というケースでは、戸籍を確認しながら相続関係を整理することになります。
承継先の整理は、その後の財産配分にも影響します。
誰へどの財産を承継させるのか、遺留分への配慮が必要になるのかといった検討は、相続関係を整理した後に進めることになります。
そのため、家族構成が複雑になるほど、遺言書を作成する前の準備も増えていきます。
※相続人調査については、別の記事でわかりやすく解説しています。
「相続人はどのように決まるのか|なぜ相続人調査が必要になるのか」
2.対象となる財産を整理できるか
承継先を整理したら、次は対象となる財産を確認します。
遺言書には、相続開始後に第三者が対象財産を特定できるよう記載することが求められます。
例えば、不動産は登記事項によって管理されているため、所在地だけでは対象を特定できないことがあります。
預貯金についても、金融機関名や支店名、口座番号などを確認しながら整理すると、後続手続が進めやすくなります。
財産の種類が増えるほど、整理する内容も多くなります。
例えば、
・ 複数の不動産を所有している
・ 共有名義の不動産がある
・ 株式や投資信託を保有している
・ 個人財産と事業用財産が混在している
という場合は、財産の内容や名義を確認しながら整理していきます。
そのうえで、個別に承継先を指定する財産と、包括的に承継先を定める財産をどのように組み合わせるかといったことも検討します。
財産の整理が進むほど、遺言書に記載する内容も具体的になります。
※財産調査については、別の記事でわかりやすく解説しています。
「財産調査が必要となる理由は|何を相続するのかを確認するために」
3.希望を遺言内容としてまとめられるか
遺言書を作成する目的は、人によって異なります。
例えば、
・ 配偶者の生活を支えたい
・ 自宅は長男へ承継させたい
・ 介護をしてくれた子へ多く財産を残したい
といった希望を持つ方もいます。
こうした希望は、そのまま文章にするのではなく、相続開始後に実現できる内容として整理します。
自宅を承継させる場合は、土地と建物をどのように指定するのか、預貯金を承継させる場合は、どの口座を対象とするのかなどを具体的に決めていきます。
また、一つの希望を実現する方法が複数考えられることもあります。
配偶者の生活を支えたい場合でも、自宅を承継させる方法、預貯金を多く配分する方法、複数の財産を組み合わせる方法など、さまざまな構成が考えられます。
遺言書の作成では、希望をよく整理し、財産の内容や家族構成に合わせて具体的な遺言内容へ組み立てていきます。
※作成にあたっての必要書類や費用目安については、以下の記事を参考にしてください。
「遺言書作成に必要な書類にはどんなものがある?」
「遺言書作成の費用はいくらかかる?|公証役場・専門家費用を解説」
4.作成後の管理まで考えられるか
遺言書は、作成した後の管理も含めて考える必要があります。
相続開始後に遺言書が見つかり、その内容に従って手続が進められることで、遺言書の役割が果たされます。
そのため、作成時には、
・ どこで保管するか
・ 家族へ遺言書の存在を伝えるか
・ 内容を見直す時期をどう考えるか
・ 遺言執行者を指定するか
といった点も整理しておくと安心です。
また、財産や家族構成は時間とともに変わることがあります。
不動産の売却や購入、預貯金口座の変更、家族の結婚や死亡などによって、作成当時の内容が現在の状況と合わなくなることもあります。
こうした変化に応じて内容を見直せるよう、作成後の管理まで含めて考えておくことが、遺言書を上手く活用することにつながります。
自分だけでは整理が難しくなる場面
ここまで紹介した4つのポイントを自分で整理できる場合は、自筆証書遺言を作成することも十分選択肢になります。
一方で、作成を進める中で判断に迷う事項が出てきた場合は、その部分について専門家へ相談することで、遺言内容を整理しやすくなります。
ここでは、専門家の関与を検討しやすい場面を紹介します。
家族関係が遺言内容へ影響する場合
家族関係が整理できても、遺言内容をどのように構成するかで判断が分かれることがあります。
例えば、前婚の子と現在の配偶者がいる場合は、それぞれへどのように財産を承継させるかによって、遺留分への配慮や相続開始後の手続も変わります。
また、相続人以外へ財産を承継させたい場合や、子がいないため兄弟姉妹が相続人になる場合も、家族構成に応じて検討すべき事項が異なります。
このようなケースでは、誰が相続人になるかを確認するだけではなく、家族関係を前提として、どのような財産配分が希望に沿うのか、相続開始後の手続まで見据えて遺言内容を組み立てることが求められます。
専門家へ相談すると、それぞれの家族構成に応じた選択肢を整理し、遺言内容へ反映する方法について助言や提案を受けられます。
財産の配分や承継方法を検討する場合
財産を整理すると、次は誰へどの財産を承継させるかを決めます。
例えば、複数の不動産がある場合は、それぞれを別の相続人へ承継させる方法もあれば、一人へ集約して他の財産とのバランスを取る方法も考えられます。
事業用財産が含まれる場合は、事業の継続も考慮しながら承継方法を検討することになるでしょう。共有名義の不動産や賃貸不動産についても、管理や処分への影響を踏まえて配分を考えることが大切です。
専門家は、財産資料などを読み解いて、それぞれの財産の性質や相続開始後の手続も踏まえながら、承継方法を整理します。
遺言書では、財産を一覧にすることにとどまらず、その財産をどのように承継させるかが、内容を左右するポイントになります。
将来の相続トラブルへ配慮したい場合
遺言書は、相続人それぞれの立場にも影響します。
例えば、
・ 一人の相続人へ多く財産を承継させたい
・ 特定の相続人へ財産を承継させない予定である
・ 生前贈与も踏まえて財産を配分したい
・ 家族間の関係に配慮した内容を考えたい
という場合は、遺留分や財産評価などが関係してくることになります。
遺言内容を検討する段階で論点を整理しておくと、相続開始後に生じる可能性がある課題も把握しやすくなります。
専門家は、家族関係や財産内容を確認しながら、想定される論点を整理し、それぞれの事情に応じた遺言内容を検討します。
なお、すでに相続人同士が対立している場合や、法的な紛争への対応が見込まれる場合は、弁護士への相談が選択肢になります。
専門家へ依頼するとサポートを受けられる内容
専門家へ依頼した場合でも、遺言内容を決めるのは遺言者本人です。
専門家は、その内容を法的な手続へ反映できるよう整理し、作成から相続開始後までを見据えて支援します。
例えば、
・ 相続関係の確認
・ 財産資料の整理
・ 遺言書の文案作成
・ 公正証書遺言の作成支援
・ 遺言執行者への就任
など、必要な範囲に応じてサポートを受けられます。
相談の方法もさまざまです。
遺言書全体の作成を依頼するほか、文案の確認だけを依頼したり、公正証書遺言の作成手続だけを依頼したりすることもできます。
自分で整理できる部分は進め、判断に迷う部分について専門家の助言を受けるという進め方も選択可能です。
※遺言書を作成する際の専門家支援に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
「遺言書は誰に相談する?|行政書士・司法書士・弁護士の選び方をケース別に解説」
自筆証書遺言と公正証書遺言の選び方
遺言書を作成する際は、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを利用するかも検討します。
自筆証書遺言は、自分の都合に合わせて作成しやすく、費用も抑えやすい方式です。
作成後は、自分で保管する方法のほか、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用することもできます。
保管制度を利用すると、遺言書の紛失や改ざんのリスクを抑えられ、相続開始後の検認も不要になります。
一方、公正証書遺言は、公証人が法律で定められた方式に従って作成し、公証役場で原本を保管します。
方式や保管については、公証人の関与によって安定した管理が期待できます。
どちらの方式を選ぶ場合でも、家族関係や財産内容を整理し、どのような内容を遺言書へ反映するかは事前に検討しておく必要があります。
自分で管理できる範囲や、専門家のサポートを受けたい範囲を踏まえて方式を選ぶと、自分に合った遺言書を作成しやすくなります。
※公正証書遺言と自筆証書遺言の違い、どちらを選ぶのかについては、以下を参考にしてください。
「公正証書遺言と自筆証書遺言|どちらを選ぶかは「何を重視するか」で変わる」
まとめ
遺言書は、自分で作成することもできます。
その際は、
・ 承継先を整理する
・ 対象となる財産を整理する
・ 自分の意思や希望を遺言内容へまとめる
・ 作成後の保管や管理まで考える
という流れで進めていきます。
家族関係や財産内容が把握しやすい場合は、自分で作成することも十分可能です。
一方で、相続関係が複雑である場合や、財産の整理に時間がかかる場合、遺留分や家族間の調整まで考慮したい場合は、専門家へ相談することで判断しやすくなります。
自分で進める範囲と専門家へ相談する範囲を切り分けながら進めることで、自分の希望に沿った遺言書を作成することができます。
※自筆証書遺言がある場合に手続きがどう進むのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
「自筆証書遺言がある場合の相続手続きの流れ」