「宅建士資格を持っているから、あとは申請すれば開業できる」「法人を設立して事務所の住所を決めれば申請できる」と考えて準備を進めても、事務所や専任の宅地建物取引士の要件を満たさなければ、そのまま申請することはできません。
宅建業免許を申請するには、申請者となる法人・個人に欠格事由がなく、宅建業を行う事務所を設け、各事務所に必要な専任の宅地建物取引士などを配置して、宅建業を営業できる体制を整える必要があります。
法人設立、物件契約、宅建士の確保をそれぞれ先に進めると、契約した物件が事務所として使用できない、予定していた宅建士を専任として置けないといった問題が申請前に判明し、物件や人員配置を見直すことになります。
この記事では、宅建業免許の取得要件のうち、開業準備に直接影響する「事務所」「専任の宅地建物取引士」「欠格事由」を中心に、申請前に決めておく事項を解説します。
※宅建業免許が必要になる取引や、免許取得後の保証手続・更新などの全体像は、以下の記事で解説しています。
「宅建業免許とは|必要なケース・取得要件・更新までの全体像」
宅建業免許の申請前に営業体制を決める
宅建業免許の申請では、事務所、人員、専任宅建士などを配置し、実際に宅建業を営業できる体制を整えておく必要があります。
主な要件は、次のとおりです。
・ 宅建業法上の事務所を設けていること
・ 事務所ごとに必要な専任の宅地建物取引士を置いていること
・ 必要な事務所に、契約締結権限を持つ代表者又は政令で定める使用人がいること
・ 申請者や役員等が免許の欠格事由に該当しないこと
国土交通省の現在の免許申請様式でも、専任の取引士設置証明書、事務所を使用する権原に関する書面、役員等の略歴書、宅建業に従事する者の名簿などが申請書類として定められています。
事務所を借りる前に、その物件を宅建業の事務所として使用できるかを申請先の基準に照らし、専任宅建士を決める前に、その人の勤務状況で専任性を満たせるかを調べます。 これらを固めないまま法人登記や賃貸借契約を先行すると、申請時に所在地や人員配置を変更しなければなりません。
事務所|継続して宅建業を行える営業拠点が必要
宅建業法上の事務所には、本店・支店のほか、継続的に業務を行うことができる施設があり、宅建業に関する契約を締結する権限を持つ使用人が置かれている場所が含まれます。
申請する場所は、宅建業を継続して営業できる事務所でなければなりません。
申請実務では、事務所を使用する権原に関する書面などを提出し、免許行政庁によっては写真や平面図等から実際の使用状況も審査されます。知事免許では、具体的な審査方法や追加資料の取扱いが都道府県ごとに異なります。
自宅を事務所にする場合
自宅でも、事務所要件を満たせば宅建業の事務所として使用できます。自宅開業では、居住部分と区分して、宅建業を継続して行える事務所部分を確保できるかが審査の対象になります。
たとえば、自宅の居住部分と宅建業の執務場所が混在し、どの範囲を事務所として使用するのか判別できなければ、事務所として使用する範囲を明確に示せません。国土交通大臣免許の手引でも、自宅のリビングの一部で生活の場と明確に分離されていないものは、事務所として認められない例として示されています。
自宅開業を予定している場合は、物件の使用権原に加え、宅建業に使用する範囲や他の空間との区分が申請先の基準を満たすかを、申請前に調べます。
※自宅兼事務所については、以下の記事で詳しく解説しています。
「宅建業免許は自宅でも取れる?|事務所要件で確認されるポイント」
複数の事務所を設ける場合
支店や営業所でも宅建業を行う場合は、その場所も事務所要件を満たし、必要な専任宅建士を配置します。代表者が常勤しない事務所には、宅建業に関する契約を締結する権限を持つ政令で定める使用人を置きます。
また、事務所を1つの都道府県内だけに設置する場合は都道府県知事免許、2つ以上の都道府県に設置する場合は国土交通大臣免許となります。
専任の宅地建物取引士|人数と勤務状況の両方を満たす
宅建業者は、事務所ごとに、宅建業に従事する者5人につき1人以上の割合で成年者である専任の宅地建物取引士を置く必要があります。
宅建士資格を持つ人が社内にいても、それだけでは専任宅建士の要件を満たしません。どの事務所に配置するのか、その人の勤務状況で専任性を満たせるのかまで決めます。
「専任」は、原則として、その宅建業者の通常の勤務時間に事務所へ常勤し、専らその事務所の宅建業務に従事する状態を指します。
副業・兼業がある場合
別会社で常勤している、他の事業を日常的に行っているなど、その事務所の宅建業務へ専従できない勤務状況では、専任宅建士として配置できません。
一方、兼業があるだけで直ちに専任性を失うわけではありません。同一事務所で行う他業種の業務量などを踏まえて専任性が審査され、国土交通省の解釈・運用でも、他業種の専任業務を兼ねる場合などは、その業務量等を考慮する考え方が示されています。
副業で宅建業を始める場合は、その人が通常の勤務時間をどの業務に充てるのかまで具体的にします。
※副業や兼業を含む専任宅建士の勤務実態については、以下の記事で詳しく解説しています。
「宅建業免許更新で確認される専任宅建士の「専任性」とは|常勤性・専従性の実務ポイント」
テレワークを行う場合
専任宅建士は、テレワークを行っていることだけで専任性を否定されるものではなく、国土交通省もテレワークによる勤務を可能とする考え方を示しています。
ただし、テレワークを利用する場合も、その宅建士が当該事務所の専任宅建士として勤務し、通常の勤務時間や担当業務から常勤性・専従性を満たしていなければなりません。
欠格事由|申請者だけでなく役員等も対象になる
宅建業法第5条の欠格事由に該当する場合は免許を受けることができず、法人申請では法人に加えて、役員や政令で定める使用人なども対象になります。
欠格事由には、たとえば次のようなものがあります。
・ 破産手続開始の決定を受け、復権を得ていない場合
・ 一定の免許取消処分を受けてから5年を経過していない場合
・ 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終えるなどしてから5年を経過していない場合
・ 宅建業法違反や一定の犯罪により罰金刑に処せられ、その執行を終えるなどしてから5年を経過していない場合
・ 暴力団員又は暴力団員でなくなってから5年を経過していない場合
・ 申請前5年以内に宅建業に関して不正又は著しく不当な行為をした場合
・ 宅建業に関して不正又は不誠実な行為をするおそれが明らかな場合
・ 心身の故障により宅建業を適正に営むことができない者として省令で定める場合
刑事処分歴については、2025年6月の刑法改正後の「拘禁刑」を前提に扱います。
過去に刑事処分や宅建業の行政処分を受けている場合は、処分の内容、刑の種類、執行終了等の日、申請日までの経過期間をたどり、申請時点で欠格事由に該当するかを調べます。
法人では役員等も対象となるため、会社を設立した後に役員の欠格事由が判明すれば、その役員構成では免許申請できません。
申請前に事務所と人員配置を一つの営業体制として決める
宅建業免許を申請する前に、どこで営業し、そこで誰が働き、誰を専任宅建士や代表者・政令で定める使用人として置くのかを決めます。 事務所の数と所在地、そこで宅建業に従事する人数によって、免許区分や必要な人員配置も変わります。
たとえば、本店だけで営業する予定だった会社が別の都道府県にも営業所を設ければ、免許区分が変わり、新しい事務所にも専任宅建士等を配置します。
事務所を先に契約し、その物件が申請先の事務所基準を満たさなければ、使用方法や物件そのものを見直さなければなりません。予定していた専任宅建士が現在の勤務先や兼業状況から専任性を満たせなければ、人員配置を変更します。
申請前は、次の事項を一つの営業体制として決めます。
・ どの場所で宅建業を行い、その場所を継続して事務所として使用できるか
・ 各事務所で何人が宅建業に従事し、誰を専任宅建士として配置するか
・ 専任宅建士の勤務時間や兼業状況が専任性の要件を満たすか
・ 代表者又は政令で定める使用人を誰にするか
・ 申請者、役員等に欠格事由がないか
宅建業免許の取得要件は、最終的に「その事務所と人員で宅建業を営業できるか」という一つの体制として考えます。 事務所が要件を満たしていても必要な専任宅建士を配置できなければ申請できず、専任宅建士を確保していても事務所が要件を満たさなければ申請できません。申請者や役員等に欠格事由がある場合も同様です。
したがって、物件契約や人員配置を確定する前に、予定している事務所と人員を組み合わせた状態で免許要件を満たすかを見た上で、実際の開業体制を決めます。
※免許取得後も、事務所、専任宅建士、役員などに変更が生じた場合は、宅建業法上の変更手続が必要になります。
更新前に確認する事項については、以下の記事で解説しています。
「宅建業免許更新はどう進める?|変更届・専任宅建士・事務所の確認ポイント」