現代の日本は超高齢化社会を迎えています。医療の進歩や終活への関心の高まりにより、「成年後見制度」という言葉も少しずつ知られるようになってきました。
この制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない方の権利を守るための仕組みです。家庭裁判所が選任した成年後見人等が、本人に代わって財産管理や介護・福祉サービスの契約など、生活に関わる法律行為を支援します。
大切なのは、単に本人の代わりに手続きを行うだけでなく、本人の意思を尊重しながら意思決定を支援する点です。
成年後見制度は、「本人に代わって何でもしてくれる制度」ではありません。本人の判断能力や利用する制度によって、後見人等に認められる代理権・同意権・取消権の範囲は異なります。また、生活そのものを直接介助する制度ではなく、本人の財産や生活に関する法律行為を支援することが中心です。
1.法定後見と任意後見
成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
法定後見
法定後見は、すでに判断能力が低下している場合に利用する制度で、本人の状態に応じて次の3つに分かれます。
・ 後見 : 判断能力が欠けているのが通常の状態
・ 保佐 : 判断能力が著しく不十分な状態
・ 補助 : 判断能力が不十分な状態
家庭裁判所に申立てを行い、審判によって成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。
なお、2026年6月に公布された改正法により、施行後は後見・保佐が廃止され、補助の制度に一元化されます。成年後見制度の見直しに関する改正は公布日から2年6か月以内の政令で定める日に施行されるため、現時点ではまだ現行の後見・保佐・補助の3類型が適用されています。
法定後見では、本人の判断能力に応じて支援の範囲が変わります。後見では成年後見人に原則として広い代理権と取消権があり、保佐では、借金や不動産取引、相続の承認・放棄など一定の重要な行為について保佐人の同意が求められ、必要に応じて代理権も付与されます。補助では、本人の状態や支援の内容に応じて、家庭裁判所が特定の行為について同意権・取消権や代理権を定めます。
そのため、法定後見では本人が現在どの程度まで自分で判断でき、どの法律行為について支援を要するのかを確認したうえで、後見・保佐・補助のいずれを利用するのかを検討します。
法定後見の申立てから審判までは、標準的なケースでおおむね1~2か月程度と案内されていますが、鑑定が行われる場合などは、さらに時間を要します。
任意後見
任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来の判断能力低下に備えて、援助者となる任意後見受任者と契約を結んでおく制度です。誰にどのような事務を任せるのかを比較的自由に定めることができ、契約は公正証書で作成します。
任意後見契約を締結しただけで、任意後見人としての権限が直ちに生じるわけではありません。本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で契約の効力が生じます。
また、任意後見人が行えるのは、任意後見契約で定めた範囲の代理行為です。法定後見の成年後見人等に認められるような同意権や取消権はないため、本人が任意後見人に相談せず財産を処分した場合でも、任意後見人がその行為を取り消すことはできません。
このように、法定後見は判断能力が低下した後に家庭裁判所への申立てによって利用する制度であり、任意後見は判断能力が十分なうちに、将来の支援者や支援内容を自ら決めて備えておく制度です。
2.成年後見人等の役割
成年後見人等の役割は、大きく「身上保護」と「財産管理」の2つに分けられます。
・ 身上保護
医療・介護サービスや施設入所に関する契約など、本人の生活を支えるための法律行為を行います。
・ 財産管理
預貯金の管理や支払い、保険・不動産など、本人が所有する財産の把握・管理を行います。
身上保護は、後見人自身が介護や家事を直接行うことを意味するものではありません。介護サービス契約や施設入所契約、医療契約など、本人の生活を支えるための法律行為を行うことが中心です。
財産管理では、預貯金を把握したうえで本人に必要な生活費や施設費を支払い、不動産などの財産を適切に管理します。
法定後見では、本人の財産を本人のために使用することが原則です。家族の生活費や親族への贈与についても、「家族だから自由に使える」という扱いにはならず、後見人に選任された後は、家庭裁判所の監督を受けながら財産管理を続けます。
一方、次のような行為は後見人の役割には含まれません。
・ 医療行為への同意
・ 保証人や身元保証人になること
・ 介護や身の回りの世話を直接行うこと
・ 結婚や離婚などの身分行為の代理
成年後見制度を利用しても、本人に関するあらゆる判断を後見人へ任せられるわけではありません。財産管理や契約など制度によって支援できる範囲と、医療同意・身元保証・実際の介護など制度の対象外となる問題を分けて考えることが大切です。
3.成年後見制度の費用(目安)
成年後見人等には報酬が発生する場合があり、その金額は家庭裁判所が決定します。
一般的な目安としては、
・ 月額2万円程度(基本)
・ 財産額が多い場合は月額3~6万円程度
とされ、特別な業務を行った場合には付加報酬が認められる場合もあります。
ただし、これらは全国一律の料金ではありません。成年後見人等から報酬付与の申立てがあった場合に、家庭裁判所が本人の財産額や後見事務の内容、難易度などを踏まえて個別に決定し、報酬は本人の財産から支払われます。
また、親族が後見人であれば必ず無報酬になり、専門職であれば必ず一定額が支払われるという仕組みでもありません。実際に報酬が発生するか、いくらになるかは家庭裁判所が判断します。
任意後見では、任意後見人への報酬を契約で定めることができます。これとは別に、家庭裁判所が選任する任意後見監督人にも報酬が発生する場合があるため、契約時の公証人手数料に加えて、制度開始後の継続的な費用も考慮しておくことになります。
4.任意後見契約のメリット・デメリット
任意後見契約には、次のようなメリットがあります。
・ 信頼できる人を自分で選べる
・ 支援内容を比較的自由に設計できる
・ 公正証書・登記により契約内容が明確になる
・ 任意後見監督人による監督を受けられる
任意後見の大きな特徴は、本人に判断能力があるうちに、「誰に」「どの事務を任せるか」を自分で決められる点です。法定後見では家庭裁判所が成年後見人等を選任するため、申立書に候補者を記載しても、その人が必ず選任されるとは限りません。
一方、次のようなデメリットや注意点もあります。
・ 契約してもすぐには効力が発生しない
・ 死後の手続きは含められない
・ 取消権がない
・ 任意後見監督人選任の申立てが遅れる可能性がある
任意後見契約は、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力が生じます。そのため、契約を作成してから任意後見が実際に始まるまでの期間について、財産管理や生活上の手続きを誰が支援するのかを別途考えておくことになります。
また、任意後見人には取消権がありません。本人が自ら行った契約によって大きな不利益が生じるようになり、取消権による保護が求められる状態になった場合には、法定後見制度への移行を検討することになります。
そのため、実務では本人が必要とする支援の時期に応じて、次の契約を組み合わせて準備する方法があります。
・ 財産管理委任契約 (判断能力が十分な時期のサポート)
・ 任意後見契約 (判断能力低下後の支援)
・ 死後事務委任契約 (亡くなった後の手続き)
この3つは自動的にセットになる制度ではなく、本人が「判断能力が十分な時期」「判断能力が低下した後」「死亡後」の各段階で、どのような支援を求めるのかに応じて組み合わせます。
特に任意後見契約は本人の死亡によって終了するため、葬儀や納骨、住居の明渡しなど死亡後の事務まで任せたい場合には、死後事務委任契約など別の仕組みを検討します。
5.成年後見人等の実情
法定後見では、親族が成年後見人等に選任されるケースは2割弱にとどまり、8割以上は専門職等を含む親族以外の人が選任されています。
最高裁判所の令和7年(2025年)の集計では、後見・保佐・補助の開始と同時に成年後見人等が選任されたケースのうち、親族が選任された割合は約16.4%、親族以外は約83.6%でした。親族以外では、司法書士、弁護士、社会福祉士などが多く選任されています。
同じ年に親族が成年後見人等の候補者として申立書に記載されていた事件は約19.7%でした。親族を候補者として挙げても、その人が当然に選ばれる仕組みではなく、家庭裁判所が本人の財産状況や支援内容、候補者との関係などを踏まえて選任します。
神奈川県内で成年後見活動を行っている専門職団体の相談窓口には、以下のようなものがあります。
<弁護士>
神奈川県弁護士会 成年後見センター「みまもり」
<司法書士>
(公社)成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部
<社会福祉士>
(公社)神奈川県社会福祉士会 成年後見ぱあとなあ神奈川
<行政書士>
(公社)コスモス成年後見サポートセンター神奈川県支部
<税理士>
東京地方税理士会 成年後見支援センター
成年後見制度の利用を考える際には、「誰に後見人になってほしいか」だけでなく、本人についてどのような法律行為の支援が求められているのかも整理しておくことが大切です。財産管理が中心なのか、施設入所や介護サービスの契約についても支援を要するのかによって、成年後見人等に求められる役割も変わります。
6.まとめ
成年後見制度は、判断能力が十分でなくなった方の財産や生活上の権利を守るための制度であり、将来に備える方法として任意後見制度も設けられています。特に任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来の支援者や支援内容を自ら決められる点に特徴があります。
一方、制度を検討する際には、単に「後見人を付けるかどうか」だけで判断するのではなく、本人が現在どの行為を自分で判断でき、どの部分に支援を要しているのかを整理することが出発点になります。
すでに判断能力が低下している場合には、その程度と求められる支援内容から後見・保佐・補助の利用を検討します。本人に十分な判断能力があり、将来の支援者や支援内容を自分で決めておきたい場合には、任意後見契約を検討できます。
また、成年後見制度を開始すると、申立てのきっかけとなった預金解約や施設入所など、一つの用事が終わっただけで当然に制度が終了するわけではありません。法定後見は、本人の判断能力が回復して開始審判が取り消される場合などを除き、継続的に本人を支援する制度です。そのため、利用前には目の前の手続きだけを見るのではなく、その後の財産管理や生活上の支援まで含めて考えておくことが大切です。
特に、「今は自分で判断できるものの将来が心配」という段階と、「すでに契約や財産管理を一人で行うことが難しい」という段階では、検討する制度が異なります。まず現在の判断能力と、支援を要する具体的な場面を整理することで、任意後見で将来に備えるのか、法定後見を申し立てるのかを判断しやすくなります。
制度の違いや使い分けには分かりにくい部分もあるため、早い段階から専門家に相談し、本人の状況に合った方法を検討しておくことも一つの方法です。