遺産分割協議には、相続人全員が参加する必要があります。
相続人の一人に認知症があり、遺産の内容や分け方を自ら判断することが難しい場合、ほかの家族だけで協議を進めることはできません。

一方、認知症と診断されているからといって、直ちに成年後見人が必要になるわけでもありません。今回の遺産分割の内容を理解し、自ら意思決定できるのであれば、本人が協議に参加します。判断が難しい場合には、本人を法的に代理できる者が必要になります。

この記事では、認知症の相続人がいる場合に、遺産分割協議をどのような順序で進めるのかを解説します。

遺産分割協議の要否

相続人に認知症の人がいる場合、まず今回の相続で遺産分割協議を行う必要があるかを確認します。

遺言書がなければ、相続人全員で遺産の取得者を決めるため、遺産分割協議を行います。
一方、遺言書があっても、すべての財産について承継先が定められているとは限りません。遺言で取得者が決まっていない財産が残っていれば、その財産について相続人全員で分割方法を協議します。

これに対し、遺言によって対象となる財産の承継先が明確に定められている場合は、その内容に従って承継するため、取得者を決めるための協議は不要です。

遺産分割の対象となる財産があれば、次に認知症の相続人が自ら協議に参加できるかを検討します。

認知症の相続人も協議の当事者になる

遺産分割協議が必要であれば、認知症の相続人を除いて話し合いを成立させることはできません。

たとえば、母と長男、次男の3人が相続人で、母に認知症があるとします。長男と次男だけで遺産の分け方を決めても、相続人全員による遺産分割協議にはなりません。
母も共同相続人として遺産分割の当事者であり、その取得内容は協議の結果によって左右されるためです。
他の相続人にとって合理的な分割案であっても、本人の権利を家族だけで処分することはできません。母の取得分を減らして、その分を子どもが取得するのであれば、母自身の財産上の利益にも直接影響します。

そこで問題になるのが、母自身に遺産分割の内容を理解し、自ら意思決定できるだけの能力があるかという点です。

意思能力があれば本人が協議に参加できる

認知症と診断されていても、今回の遺産分割について意思決定できるのであれば、本人が協議に参加します。

その判断では、遺産の内容、自分の相続上の立場、提示された分割案によって自分の取得内容がどうなるのかなどを理解し、自ら意思を示せるかが重要になります。

したがって、認知症という診断名だけで、遺産分割協議への参加の可否が一律に決まるわけではありません。

本人が内容を理解して自ら判断できれば、その意思に基づいて協議を行います。
反対に、遺産分割の内容やその結果を理解して意思決定することが難しければ、家族が代わりに署名押印をして済ませることはできず、本人を法的に代理できる者が必要になります。

意思決定が難しい場合の代理

本人が遺産分割について意思決定することが難しい場合には、成年後見制度などの利用を検討します。
成年後見制度では、本人の判断能力の程度などに応じて、家庭裁判所の手続を通じて本人を支援する者が選任されます。

配偶者や子などの家族であっても、本人に代わって遺産分割を行う権限が生じるわけではなく、たとえば、認知症の母に代わって長男が遺産分割協議書へ署名しても、長男に母を代理する権限がなければ、母の意思表示として扱うことはできません。

本人による意思決定が難しく、遺産分割を代理できる者もいなければ、家庭裁判所への申立てなど、成年後見制度を利用するための対応を検討することになります。

すでに成年後見人が選任されている場合や、保佐人・補助人に遺産分割についての代理権が付与されている場合は、その代理人が本人に代わって協議に参加します。

成年後見人と利益相反

成年後見人は、認知症の相続人本人の利益を守る立場から遺産分割協議に参加します。

たとえば、ほかの相続人が「母は施設に入っているので預貯金は少しあればよい」と考え、母の取得分を大幅に減らした分割案を提示したとします。
成年後見人は本人の利益を基準に分割案を判断するため、家族にとって都合がよいという理由だけで、本人の取得分を減らす内容に同意することはできません。

さらに、成年後見人自身が共同相続人であれば、本人との利益相反が問題になります。

父が亡くなり、認知症の母と長男が相続人となり、長男が母の成年後見人を務めているケースで考えると、長男自身も相続人であるため、自分の取得分と母の取得分が同じ遺産分割の中で対立し得ます。
この場合には、長男が母を代理して分割内容を決めることはできず、特別代理人の選任など、利益相反を解消するための対応が必要です。

したがって、すでに成年後見人がいる場合も、その人が当然に今回の遺産分割を代理できるとは限りません。代理権の範囲と利益相反の有無を踏まえ、誰が本人を代理するのかを判断します。

まとめ|認知症の相続人がいる場合の遺産分割

認知症の相続人がいる場合は、まず今回の相続で遺産分割協議が必要な財産があるかを確認します。

協議が必要であれば、認知症の相続人を除いて分割内容を決めることはできません。本人が今回の遺産分割を理解して意思決定できるのであれば、自ら協議に参加します。本人による判断が難しい場合には、成年後見制度などによる代理を検討します。

すでに成年後見人がいる場合も、本人との利益相反があれば、その後見人がそのまま代理できるとは限りません。共同相続人でもある後見人が本人を代理する場合などには、特別代理人の選任などが必要になります。

重要なのは、ほかの相続人だけで先に分け方を決めるのではなく、認知症の相続人が自ら意思決定できるのか、代理が必要なのかを見極め、有効な遺産分割協議を行える体制を整えることです。

本人の意思能力や成年後見制度の利用、利益相反の有無によって必要となる対応は異なります。判断に迷う場合は、本人が自ら協議できるか、代理人の選任が必要か、利益相反への対応が生じるかを専門家へ相談し、遺産分割に着手する前に整理しておくことが重要です。