遺言書を作ろうとしても、戸籍、住民票、登記事項証明書、通帳など、何から準備すればよいのか迷うことがあります。
準備する資料は、すべての遺言書で同じではありません。誰に財産を承継させるのか、どの財産を遺言書へ記載するのか、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶのかなどによって変わります。
遺言書は、遺言者が亡くなった後に効力を生じます。その時点では、記載された人物や財産について本人へ聞き直せません。
戸籍や財産資料を準備する目的は、遺言者の希望を、相続開始後に実行できる具体的な内容へ落とし込むことにあります。
まずは、どのような資料が使われるのか、全体像を見てみましょう。
遺言書作成に使う主な資料
| 何を明らかにするか | 主な資料 |
|---|---|
| 遺言者本人 | 運転免許証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、住民票など |
| 相続人との関係 | 戸籍謄本、除籍謄本など |
| 相続人以外の受遺者 | 氏名や住所が分かる資料 |
| 不動産 | 登記事項証明書、固定資産評価証明書、納税通知書の課税明細書など |
| 預貯金 | 通帳、残高証明書、口座情報など |
| 株式・投資信託 | 取引残高報告書など |
| 自動車 | 自動車検査証 |
| 法務局の保管制度 | 遺言書、保管申請書、住民票、本人確認書類など |
| 公正証書遺言 | 本人確認資料、戸籍、財産資料、証人に関する資料など |
この表にある資料を、すべて揃えなければいけないわけではありません。
相続人以外の人へ遺贈しない場合は、受遺者の住所資料は使いません。自動車を遺言の対象にしない場合は、自動車検査証も対象外です。
また、法務局の保管制度や公正証書遺言に関する書類は、選んだ方式に応じて加わります。
したがって、自分に関係する資料を判断するには、次の順序で考えます。
・ 誰に財産を残すのか
・ 何を残すのか
・ 財産をどこまで個別に記載するのか
・ どの方式で遺言書を作るのか
以下では、この順序に沿って説明します。
誰に財産を残すかを明らかにする書類
最初に考えるのは、財産を受け取る人です。
配偶者や子などの相続人へ承継させる場合と、事実婚の相手や知人、法人などへ遺贈する場合では、用意する資料が異なります。
相続人へ財産を承継させる場合
相続人へ財産を承継させる場合は、遺言者との続柄が分かる戸籍を用います。
配偶者や子については、現在の戸籍から関係が分かることがあります。甥や姪など、本人の戸籍だけでは続柄をたどれない場合は、関係がつながる戸籍も用意します。
公正証書遺言についても、日本公証人連合会は、遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本や除籍謄本を案内しています。
家族関係によっては、現在の戸籍だけで相続人の全体像が分からないことがあります。
離婚歴がある、前婚の子がいる、養子縁組をしている、子が遺言者より先に亡くなっているといった事情があれば、過去の戸籍までたどることになります。
戸籍から得られる情報は、誰が法律上の相続人になるのか、遺言者が考えている家族関係と戸籍上の関係が一致しているかといったことです。
相続人以外の人へ遺贈する場合
相続人以外の人へ財産を遺贈するときは、その人を特定できる資料を用意します。
公正証書遺言では、受遺者の住民票のほか、氏名と住所が記載された手紙やはがきなども補助的な確認資料として認められるケースも案内されています。資料を用意しにくい場合は、事前に確認や相談することが大切です。受遺者を特定できなければ、遺言内容をそのまま実行できないおそれがありますので、正確に氏名、住所が確認できる住民票を取得すべきでしょう。
法人へ遺贈するときは、法人の登記事項証明書などから、法人名や本店所在地を把握します。公に認知された公益団体などを除き、公正証書遺言でも法人の登記事項証明書や代表者の資格証明書が案内されています。
※遺贈の制度概要や仕組みについては、以下の記事で解説しています。
「遺贈とはどんな制度なのか|相続との違いや第三者へ財産を渡せる仕組みを解説」
何を渡すかを明らかにする書類
次に、遺言書の対象となる財産を把握します。
「自宅を長男へ」「預金を妻へ」という希望だけでは、どの土地・建物や口座を指すのか分からないことがあります。
次に挙げている資料などから、遺言者が所有している財産と、遺言書に記載する対象を対応させます。
不動産
土地や建物については、主に次の資料を使います。
・ 登記事項証明書
・ 固定資産評価証明書
・ 固定資産税・都市計画税納税通知書の課税明細書
・ 名寄帳
登記事項証明書からは、不動産の所在、地番、家屋番号、所有者、共有持分などが分かります。
公正証書遺言で特定の不動産を記載する場合も、所在や地番などを証書へ記載するために登記事項証明書を用います。個々の不動産を証書内で特定しないケースでも、相続登記を行う際には特定することが必須となることから、登記事項証明書や固定資産評価証明書といった確認資料が必要となります。
固定資産評価証明書や納税通知書の課税明細書は、不動産の評価額を示す資料です。公正証書遺言では、財産価額に応じて手数料を算定するためにも使われます。
所有する不動産を同一市区町村内で名義人ごとに把握したいときは、名寄帳が役立ちます。ただし、他の市区町村にある不動産や、非課税のため記載されない不動産まで一括して把握できるものではありません。
自宅として使っている土地と建物が、すべて遺言者名義とは限りません。土地は遺言者、建物は配偶者の名義などの共有状態になっていることもありますので注意が必要です。
遺言書で承継先を決められるのは、遺言者が所有する財産です。そのため、利用実態と登記名義を分けて把握することが重要です。
預貯金
預貯金については、通帳、キャッシュカード、残高証明書、インターネットバンキングの口座画面などを使います。
特定の口座を遺言書へ記載するときは、次の事項を把握します。
・ 金融機関名
・ 支店名
・ 預金種別
・ 口座番号
・ 口座名義
公正証書遺言でも、預貯金の内容を示す資料として、通帳やそのコピーなどが案内されています。
手元に通帳が残っていても、すでに解約されている場合があります。支店の統廃合や口座名義の変更があれば、現在の口座情報と一致しているかも見ます。
株式や投資信託
株式、投資信託、債券などは、証券会社の取引残高報告書、年間取引報告書、証券口座の残高画面などから把握します。
特定の銘柄を承継させる内容なら、銘柄名や保有数量が分かる資料を使います。
証券口座内の資産をまとめて承継させる内容では、証券会社名や口座を単位として記載する方法もあります。
有価証券は、売買によって銘柄や数量が変わります。作成時の保有状況だけを細かく記載すると、将来の内容と合わなくなることがあります。どこまで個別に記載するかは、財産の変動も踏まえて決めます。
自動車や事業に関する財産
自動車は、車検証などから所有者と車両情報を把握します。
ローンが残っている車両では、遺言者が使用者として記載されていても、所有者が販売会社や信販会社になっていることがあります。
会社経営者の場合は、遺言者個人の財産と法人の財産を分けます。
遺言者個人が所有する自社株式、会社に対する貸付金、個人名義の事業用資産など遺言対象になり得ますが、会社名義の預金、不動産、機械設備などは法人の財産です。
死亡保険金は遺言で分ける財産と区別する
受取人が指定された死亡保険金は、保険契約に基づいて受取人が取得します。通常の相続財産として遺産分割する財産とは扱いが異なります。
被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税上のみなし相続財産として課税対象になる場合がありますが、遺言によって預貯金と同じように承継先を変更するものではありません。
保険証券や契約内容のお知らせを見る目的は、契約上の受取人が誰になっているかを把握することです。
遺言書に記載する財産と、保険契約によって受取人が決まる死亡保険金を分けて考えます。
財産をどこまで個別に書くかで資料の使い方が変わる
財産資料を揃える範囲は、遺言書の書き方とも関係します。
特定の財産を承継させる場合
「自宅の土地と建物を長男に相続させる」と定めるなら、土地と建物を他の不動産と区別できる記載が求められます。
登記事項証明書から、所在、地番、家屋番号、共有持分などを遺言書へ反映します。
特定の預金口座を妻へ承継させる場合も、通帳などから対象口座を特定します。
個別に指定した財産を作成後に売却したり、口座を解約したりすると、その部分を実行できなくなることがあります。家族関係や財産状況が大きく変わったときは、遺言書の内容も見直します。
なお、特定の不動産や預金を個別に承継させる内容においても、「その他一切の財産を妻に相続させる」と定めることがあります。
このような残余財産に関する条項は、遺言書に書き漏らした財産や、作成後に新たに取得した財産の承継先を定める役割を持ちます。
財産全体を割合で承継させる場合
「全財産を妻と長男に各2分の1の割合で相続させる」と定める場合、すべての財産を遺言書本文に列挙しないことがあります。
それでも、財産の全体像は把握しておくべきです。どのような財産があり、どの程度の価額になるのかが分からなければ、予定した割合による承継が家族の生活や遺留分へ与える影響を判断しにくくなります。
遺言書の方式によって追加する書類
戸籍や通帳、登記事項証明書は、遺言内容を具体化するための資料です。
法務局の自筆証書遺言書保管制度や公正証書遺言を利用するときは、各手続に制度固有の書類が加わります。
自筆証書遺言を自宅などで保管する場合
自筆証書遺言を自分で作成し、自宅などで保管する場合、戸籍や通帳を遺言書へ添付しなければ遺言が成立しないというものではありません。
ただし、法律で定められた方式に従って作成する必要があります。方式に従わない遺言書は、法律上の効力が認められません。
戸籍や財産資料は、人物や財産を正確に記載するために使います。
法務局保管制度を活用する場合
自筆証書遺言書保管制度を利用するときは、作成済みの遺言書に加えて、主に次のものを用意します。
・ 遺言書保管申請書
・ 本籍と戸籍の筆頭者が記載された住民票の写し等
・ 顔写真付きの本人確認書類
・ 保管申請手数料
住民票の写し等は、マイナンバーや住民票コードが記載されていない原本を提出します。申請時には、遺言者本人が遺言書保管所へ出向きます。
これらは、完成した自筆証書遺言を法務局へ預けるための書類です。遺言内容を考えるために使う戸籍や財産資料とは役割が違います。
公正証書遺言を作成する場合
公正証書遺言では、公証人が遺言者本人や財産を受け取る人、対象財産などを資料から把握します。
一般的には、次の資料を用意します。
・ 遺言者の本人確認資料
・ 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍
・ 相続人以外の受遺者の住所が分かる資料
・ 法人へ遺贈する場合の登記事項証明書など
・ 不動産の登記事項証明書
・ 固定資産評価証明書または納税通知書の課税明細書
・ 預貯金通帳やそのコピー
・ 証人に関する資料
本人確認には、発行後3か月以内の印鑑登録証明書や、運転免許証、マイナンバーカードなどの顔写真付き身分証明書が使われます。
提出する資料は、遺言内容によって変わります。公証役場へ相談する時点で、すべての証明書を取得しておく必要はありません。
家族関係、財産の概要、誰に何を承継させたいかを伝えると、公証人から追加する資料の案内を受けられます。
※遺言書の方式と選ぶポイントなどについては、以下の記事を参考にしてください。
「公正証書遺言と自筆証書遺言|どちらを選ぶかは「何を重視するか」で変わる」
最初に準備するのは手元にある資料
遺言書の作成を考えた段階で、戸籍や証明書を片端から取得すると、実際には使わない資料まで集めることになりかねません。
最初は、手元にある次のような資料を手元に準備します。
・ 現在の戸籍
・ 家族関係を書いたメモなど
・ 固定資産税の納税通知書
・ 預貯金通帳
・ 証券会社から届いた残高資料
・ 自動車検査証
・ 生命保険証券
・ 誰に何を承継させたいかを書いたメモなど
ここから、相続人、特定承継や包括的に承継させる財産などを具体化します。
以前取得した戸籍や住民票、過去の住所が記載された財産資料を使う場合は、その後に次のような変化がなかったかもチェックします。
・ 婚姻、離婚、養子縁組
・ 氏名や住所の変更
・ 不動産の取得、売却、贈与
・ 不動産の共有持分や名義の変更
・ 預貯金口座の開設や解約
・ 受遺者の転居
・ 保険金受取人の変更
資料を取得した時期だけで使用の可否が決まるわけではありませんが、現在の家族関係や財産状況と、資料の記載内容が対応していることが重要です。
専門家や公証役場へ相談する場合も、手元の資料から始められます。遺言内容の輪郭が固まった後に、新しい戸籍や登記事項証明書などを取得すると、準備する範囲が明確になります。
※遺言書作成時における専門家の支援や費用などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
「遺言書は誰に相談する?|行政書士・司法書士・弁護士の選び方をケース別に解説」
「遺言書作成の費用はいくらかかる?|公証役場・専門家費用を解説」
まとめ
遺言書作成に使う書類は、誰にどんな財産を残すのか、どの方式で作成するのかによって決まります。
相続人へ財産を承継させるなら、遺言者との続柄が分かる戸籍を使います。相続人以外の人へ遺贈するなら、氏名や住所が分かる資料を用意します。
不動産を個別に記載するときは登記事項証明書、預貯金なら通帳や口座情報、有価証券なら取引残高報告書などが資料になります。
自筆証書遺言を法務局で保管するときや、公正証書遺言を作るときは、それぞれの手続に応じた書類も加わります。
遺言書の作成を検討する場合には、最初から各種証明書や資料などすべて準備する必要はありません。
手元にある戸籍、納税通知書、通帳などから、誰にどの財産を承継させたいのかを具体化することから始め、遺言内容や方式によって追加取得が必要な書類を見極めていくべきでしょう。
※遺言書が必要となるケースについては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
「遺言書が必要な人とは|相続のルールだけでは希望を実現しにくいケース」