遺言書に遺言執行者が指定されていない場合や、指定された人が就任を拒絶した場合、就任後に死亡・辞任するなどして遺言執行者がいなくなる場合があります。

その状態で遺言執行者を置く必要があるときに、利害関係人の申立てを受けた家庭裁判所が遺言執行者を選任する手続が「遺言執行者選任申立」です。

遺言執行者の指定がない遺言について、常に選任申立を行うわけではありません。遺言書に何が定められており、その内容を実現するために誰が何を行う必要があるのかによって、選任の要否が変わります。

この記事では、遺言執行者選任申立がどのような場合に必要になるのか、誰が申し立てられるのか、申立先や必要書類、選任後の遺言執行までを解説します。

遺言執行者選任申立が必要になるのはどのような場合か

家庭裁判所が公開している申立書では、遺言執行者の指定がない場合、指定された人が就任を拒絶した場合、遺言執行者が死亡・辞任・解任した場合、欠格事由に該当する場合などが申立ての理由として挙げられています。

遺言書に遺言執行者が指定されていない場合

遺言書に遺言執行者が指定されていなくても、遺言自体の効力には影響しません。選任申立の要否は、遺言書に記載された事項を誰が実現するのかによって変わります。

遺言事項の中には、遺言の効力が生じることで法律関係が定まり、特別な執行行為を必要としないものがあります。
一方、認知や推定相続人の廃除・その取消しなど、遺言執行者による執行が必要となる事項もあります。また、遺贈のように、遺言執行者がいない場合でも相続人による履行が可能なものがあります。

そのため、選任申立の要否は、遺言執行者が指定されているかに加えて、遺言事項の内容と、その事項を実現する主体から判断します。

指定された人が遺言執行者に就任しない場合

遺言書で遺言執行者として指定された人が、必ず就任するとは限りません。

指定された人が就任を拒絶した場合には、その人による遺言執行は開始されません。未了の遺言事項について新たな遺言執行者による執行が必要であれば、利害関係人が家庭裁判所へ選任を申し立てます。

遺言執行者が死亡・辞任・解任した場合

就任した遺言執行者が、その後に死亡したり、家庭裁判所の許可を得て辞任したり、解任されたりすることもあります。

遺言の執行が完了する前に遺言執行者がいなくなった場合には、残された遺言事項と未了の職務を踏まえて、新たな遺言執行者を選任する必要があるかを検討します。

指定された人が欠格事由に該当する場合

遺言執行者には欠格事由があり、未成年者と、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者は、遺言執行者になることができません。

指定された人がこれらに該当する場合には、その人は遺言執行者となることができません。遺言事項を実現するために遺言執行者による執行が必要であれば、別の人を選任するための申立てを検討します。

いずれの場合も、未了の遺言事項と、その執行を誰が行うのかを踏まえて、新たな遺言執行者を選任する必要があるかを検討します。

遺言執行者選任申立ができるのは利害関係人

家庭裁判所へ遺言執行者の選任を申し立てることができるのは「利害関係人」です。

相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた人など、遺言内容の実現について利害関係を有する人が申立人となります。

申立人は、遺言内容の実現について利害関係を有することを示す必要があります。親族関係などから利害関係が明らかになる場合もあれば、契約書など利害関係を証明する資料が必要になる場合もあります。

家庭裁判所による選任が必要な場合、相続人が話し合って特定の人を遺言執行者の地位に就けることはできません。 申立書に候補者を記載することはできますが、遺言執行者を選任するのは家庭裁判所です。

遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ必要書類を提出する

申立先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

申立てでは、遺言の内容、申立人の利害関係、遺言執行者候補者などに関する資料を提出します。

主な書類は次のとおりです。

  • 申立書
  • 遺言者の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本
  • 遺言書または遺言書検認調書謄本の写し
  • 遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
  • 申立人の利害関係を証明する資料

家庭裁判所に遺言書の検認事件記録が保存されている場合など、一定の書類を省略できることがあります。また、申立人が相続人・受遺者である場合と、それ以外の利害関係人である場合とでは、利害関係を示すために必要となる資料も異なります。

申立てには、執行の対象となる遺言書1通につき800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手が必要です。 郵便切手の額は申立先の家庭裁判所によって異なります。

申立て後は家庭裁判所が遺言執行者を選任する

申立書と必要書類を提出すると、家庭裁判所で審理が行われます。

審理の過程では、申立人や遺言執行者候補者に照会書が送付され、回答を求められることがあります。事案によっては、家庭裁判所で事情を聴かれる場合もあります。

申立書に候補者を記載していても、家庭裁判所が審理したうえで遺言執行者を選任します。

選任の審判がされると、申立人と選任された遺言執行者に審判書謄本が送付され、その後、選任された遺言執行者が遺言の内容に応じて必要な執行を行います。具体的な職務は、預貯金、不動産、遺贈その他の遺言事項によって異なります。

申立書の作成を依頼する場合の相談先

遺言執行者選任申立では、遺言書の内容や申立人の利害関係に応じて申立書を作成し、戸籍などの必要書類をそろえて家庭裁判所へ提出します。

申立書など裁判所提出書類の作成を依頼する場合は、裁判所提出書類の作成を業務として扱う司法書士や、事案に応じて弁護士が相談先となります。

また、相続をめぐる紛争、不動産登記、相続税申告などが関係する場合には、必要となる手続に応じて弁護士、司法書士、税理士など、それぞれの専門分野を踏まえて相談先を選びます。

遺言内容と未了の執行から選任申立の必要性を判断する

遺言執行者が指定されていない場合や、指定された人が就任しない場合、就任後に死亡・辞任・解任した場合などには、家庭裁判所への遺言執行者選任申立が問題になります。

申立てを検討する際は、遺言書に記載された事項のうち、何がまだ実現されておらず、その執行を誰が行うのかを明らかにします。 その結果、新たな遺言執行者による執行が必要であれば、利害関係人が遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ選任を申し立てます。

申立書に候補者を記載することはできますが、遺言執行者を選任するのは家庭裁判所です。選任後は、新たな遺言執行者が残された遺言事項について必要な職務を行います。