建設業許可を受けている会社で常勤役員等の退任が決まった場合、まず問題になるのは、退任後も許可要件を満たす経営管理体制を確保できるかという点です。

社内に別の取締役がいても、法令上必要な経営経験を備えているとは限りません。また、適格な後任候補者が見つかっていても、就任時期によっては経営管理体制に空白が生じることがあります。

建設業許可を維持するには、前任者の退任時点で、後任者を含む経営管理体制が許可要件を満たしていなければなりません。

この記事では、後任者に求められる経営経験、退任前に整えるべき役員等としての地位や常勤性、経験の証明資料、交代後の変更届について解説します。

経営管理体制が途切れると許可取消しの対象となる

建設業許可を受けた法人には、所定の経営経験を持つ常勤役員等を置くか、一定の経験を持つ常勤役員等と直接補佐者によって経営管理体制を整えることが求められます。

この経営管理体制は、許可取得時から、許可を受けて建設業を営む間も継続して維持しなければなりません。

現在の常勤役員等が退任し、ほかに要件を満たす人がいなくなれば、建設業法第29条第1項第1号に基づく許可取消しの対象となります。

後任者の選任に猶予期間は設けられておらず、退任後に適格者を確保しても、要件を欠いていた事実をさかのぼって解消することはできません。

そのため、前任者の退任時点で適格な経営管理体制を引き継げるよう、後任候補者の経験と就任時期を事前に調べ、退任日を調整する必要があります。

後任者に必要な経営経験を判定する

後任者の選定では、候補者が過去にどのような立場で建設業の経営に携わってきたかを調べ、その職務内容と経験年数を法令上の要件に照らして判断します。

建設業法施行規則では、常勤役員等が一人で経験要件を満たす方法と、一定の経験を持つ常勤役員等に直接補佐者を置く方法が認められています。候補者の経歴によって利用できる方法が異なるため、それぞれの要件を確認します。

常勤役員等が一人で経験要件を満たす場合

後任候補者が次のいずれかの経験を有していれば、その人を常勤役員等として配置する方法を検討できます。

経験の内容必要な期間
建設業に関し、経営業務の管理責任者として経営を管理した経験5年以上
建設業に関し、経営業務を執行する権限の委任を受け、執行役員等として経営を管理した経験5年以上
建設業に関し、経営業務の管理責任者に準ずる地位で、その業務を補佐した経験6年以上

例えば、現在の会社で建設業の経営を5年以上管理してきた取締役であれば、後任候補者として検討できます。他の建設会社での役員経験や、個人事業主として建設業を経営していた期間についても、所定の条件を満たせば経験年数に算入できます。

取締役以外の経歴でも、経営業務を執行する権限の委任を受けた執行役員等としての経験や、経営業務の管理責任者を補佐した経験が認められる場合があります。

ただし、表の3つ目にある6年以上の補佐経験は、役員に次ぐ職制上の地位で、経営業務の管理責任者を補佐していた経験を指します。

資金調達、技術者の配置、下請業者との契約など、経営業務全般にどのように関わっていたかが問われるため、実際の職制上の地位と担当業務、経験期間に基づいて要件への該当性を判断します。 建設会社の部長として長期間勤務していた場合も、これらの条件を満たしているかが重要です。

常勤役員等と直接補佐者で要件を満たす場合

後任候補者が一人で前述の経験要件を満たせない場合でも、一定の役員経験を持ち、直接補佐者を配置できれば、別の方法で経営管理体制を整えられます。

この方法で常勤役員等となる人には、次のいずれかの経験が求められます。

  • 建設業に関する役員等の経験が2年以上あり、役員等としての経験、または財務管理・労務管理・業務運営のいずれかを担当する役員等に次ぐ職制上の地位での経験が通算5年以上あること
  • 役員等としての経験が5年以上あり、そのうち建設業に関する役員等の経験が2年以上あること

さらに、常勤役員等を直接補佐する者として、財務管理、労務管理、業務運営の各業務について、現在の許可業者における建設業に関する業務経験を5年以上持つ人を配置します。

例えば、後任候補者に建設業で2年以上の役員経験があり、他業種を含めた役員経験が通算5年以上ある場合には、この方式を検討できます。その際は、現在の会社で財務管理・労務管理・業務運営の経験を積んだ補佐者も確保しなければなりません。

三つの業務について必要な経験を一人が備えていれば、その人が複数の業務を兼ねることも可能です。ただし、直接補佐者は常勤役員等とは別の人であり、組織上も常勤役員等を直接補佐する地位に置く必要があります。

この方式では、後任候補者の役員経験に加え、直接補佐者の担当業務・経験年数・常勤性・組織上の地位が、すべて要件を満たすことが必要です。

※常勤役員等に求められる経営経験や各要件の詳しい内容については、以下の記事で解説しています。
 建設業許可における経営管理責任者とは|要件と資格について解説

前任者の退任までに後任者の地位と常勤性を確保する

後任候補者が経営経験の要件を満たしていても、前任者の退任時点で自社の常勤役員等として認められる地位に就き、常勤していなければ、経営管理体制を引き継ぐことはできません。

法人の常勤役員等には、株式会社の取締役や合同会社などの業務執行社員といった、法令上認められる役員が該当します。また、建設業の経営業務について具体的な権限の委任を受けた執行役員等も、所定の条件を満たせば対象となります。

後任者の役員等への就任と常勤勤務の開始は、前任者の退任時点までに完了している必要があります。

そのため、後任者の就任日と常勤勤務の開始日を前任者の退任日と照らし合わせ、経営管理体制に空白が生じない日程を組みます。

社外から経験者を迎える場合には、自社で継続して勤務できる体制も整えます。直接補佐者を置く方式へ変更する場合は、その補佐者についても前任者の退任時点までに必要な配置を完了させなければなりません。

後任者の経営経験を証明し、変更届を提出する

後任者の経営経験や常勤性は、変更届に添付する資料によって裏付けます。

特に、他社での役員経験や役員に準ずる地位での経験を利用する場合には、当時の職務内容を示す資料の収集に時間がかかることがあります。必要な資料がそろうかを前任者の退任前に確かめ、交代に備えておくことが重要です。

経営経験・役員等の地位・常勤性を証明する資料

取締役としての経営経験を利用する場合は、登記事項証明書などで在任期間を示し、その会社が建設業を営んでいたことについては、建設業許可通知書や工事契約書などによって裏付けます。

執行役員等として経営を管理した経験や、経営業務の管理責任者を補佐した経験については、組織図、職務分掌規程、権限委譲に関する書類などを用いて、当時の組織上の地位や実際に担当していた業務を明らかにします。

現在の会社で取締役等に就任したことは登記事項証明書などで示し、常勤性については、社会保険関係の資料や勤務状況を示す資料など、許可行政庁が指定する方法で証明します。

直接補佐者を配置する場合には、その人についても、財務管理・労務管理・業務運営の経験期間と担当業務に加え、常勤役員等を直接補佐する地位にあることを示す書類が求められます。

提出資料や経験の認定方法は許可行政庁によって異なります。 候補者の経歴や手元の資料だけでは要件への該当性を判断しにくい場合は、前任者の退任前に許可行政庁へ照会し、必要な証明資料を明らかにしておきます。

常勤役員等の交代後は2週間以内に変更届を提出する

常勤役員等が交代した場合は、変更が生じた日から2週間以内に、許可行政庁へ変更届を提出します。

通常は、変更届出書に加え、常勤役員等に関する証明書、略歴書、経営経験や常勤性を確認する資料などを提出します。直接補佐者を置く方式へ変更した場合には、その体制に応じた証明書類も添付します。

また、前任者の退任や後任者の就任に伴って取締役などの役員等に変更が生じた場合は、役員等の変更について原則30日以内の届出も必要です。

変更届の提出期限は交代後2週間以内ですが、後任者を含む経営管理体制は前任者の退任時点で成立していなければなりません。

変更届は、成立した経営管理体制の変更を許可行政庁へ届け出るための手続です。後任者の選任を交代後に持ち越すことはできないため、必要な体制を整えてから前任者の退任を迎えます。

※建設業許可の変更事項と提出期限については、以下の記事で解説しています。
 建設業許可の変更届の提出期限一覧|変更事項ごとの期限と必要書類を解説

後任者が要件を満たせない場合は退任時期を見直す

常勤役員等の交代に当たっては、まず後任候補者の職務内容と経験年数を調べ、一人で経験要件を満たせるかを判断します。

候補者の経験が不足している場合は、直接補佐者を置く方式を検討します。その体制も整えられなければ、社内のほかの役員や社外の経験者から、要件を満たす後任者を探します。

適格な候補者が見つかったら、役員等への就任日と常勤勤務の開始日を前任者の退任日に照らし合わせます。直接補佐者を置く方式では、必要な経験を持つ補佐者の配置も、同じ時点で完了していることが条件です。

前任者の退任日までに必要な経営管理体制を確保できない場合は、退任時期を見直す必要があります。

後任者の経験要件と配置体制を満たし、必要な証明資料をそろえられる見通しを立てたうえで、前任者の退任日を決めることが重要です。